# [第二部] Out of the Blue:out of the loop だが inside the loops
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**著者**: 稲見昌彦(東京大学先端科学技術研究センター教授)
**公開**: 2026年2月12日 / [note.com](https://note.com/drinami/n/nabeb23f470bd)
**連作**: Out of the Blue 全三部のうち第二部
> [!note] 連作について
> 第一部ではループの概念と科学の自動化を論じ、本稿(第二部)では out of the loop から inside the loops への構造転換・調律論・知識のアーキテクチャド・リアリティ的機能を展開する。第三部は CES 2026 での体験から調律の主体が AI に移行する可能性を探究する予定。
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## 中核論点
### ループの三つの位置
著者は人間とループの関係を三段階で整理する。
| 概念 | 定義 |
|---|---|
| human-in-the-loop | 人間が制御ループ内で判断を担う |
| human-out-of-the-loop | 人間が支配的なループから退く |
| human-inside-the-loops | 人間が無数のループに囲まれた内側に位置する |
「out of the loop」は制御権を失うことを意味するが、それは空白への脱出ではない。呼吸・心拍・免疫・知覚など、人間の身体と環境はすでに無数のフィードバックループで満ちており、支配ループを退いた人間は「inside the loops」へ移行する。
### See-through と Feel-through の対比
**See-through(視覚的透明性)**は媒質の不在を条件とする。光は遮蔽物がなければ届く。稲見研究室の光学迷彩は再帰性反射材を使って物体背後の景色を物体表面に投影し、「見えないことによる見え」を実現する。
**Feel-through(触覚的透明性)**は逆に媒質の存在を条件とする。杖の先端の感覚は杖という媒質を通じて手に届く。学術的知識は Feel-through AR として機能する:概念的枠組みを媒質として世界と関わることで、素手では触れられない現象を感じることができる。
具体例として二人の人物が対置される:
- **ベートーヴェン**:聴覚喪失後、鉛筆をくわえてピアノ響板に当て振動で第九交響曲を作曲した
- **ヘレン・ケラー**:ベートーヴェンから約100年後、ラジオのダイアフラムに指を触れて同じ第九を「聴いた」
両者とも媒質への接触が聴覚の代替経路となっており、Feel-through の実践例として位置づけられる。
### 調律(チューニング)
調律とは、世界の見え方を変えるパラメータを外部から書き換えるプロセスである。変えられる主なパラメータは以下の四つ:
1. **注意の固定位置**(どこに意識を向けるか)
2. **予測の単純さ**(脳が次を予測するパターンの複雑度)
3. **身体信号の前景化**(固有感覚・内臓感覚の意識への浮上)
4. **時間感覚**(主観的時間の流れ)
調律の実践例として以下が挙げられる:
- **ケチャ**:バリ島の儀礼音楽。複雑なポリリズムが参加者の時間感覚・身体意識を変容させる
- **System F "Out of the Blue"**:Ferry Corsten によるトランス楽曲(2000年頃)。高速ビートの上に鮮烈なシンセリードが「突然」出現するように聴こえるが、実際には内側で回り続けるループが意識表面に浮上する構造を持つ
- **初期VR(VPL Research "RB2")**:解像度が低く遅延があったにもかかわらず、物理世界と別のループへの没入感を生成した
- **映画「8番出口」**:微小差分の探索が予測ループを加速させ、映画館退出後も知覚の書き換えが残効として持続する
- **ティモシー・リアリー**の向精神物質への言及:「VRはサイケデリックな体験に近づいている」を設計上の指摘として再解釈する
### 植物のアナロジー
植物は脳を持たないながら、光・水・季節に応じて応答するフィードバック機構を数億年維持している。計算的オーバーヘッドなく化学反応・形態変化を通じて情報処理を行う植物は、意識的な「回す側」なしに inside the loops を実現している先例として位置づけられる。
### サイバネティクスとの系譜
著者の所属する東京大学計数工学科システム情報工学コースは「ネオ・サイバネティクス」を掲げ、ノーバート・ウィーナーの系譜を継承する。著者は観測・判断・介入のループを扱う講義を担当しており、本稿の「ループ」概念はウィーナー的フィードバック制御論の延長として位置づけられる。
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## 末尾の問い
AI が「調律」の主体(人間や環境に代わって世界の見え方を変えるエージェント)になるとしたら、人間のエージェンシーには何が残るか。この問いは第三部へ引き継がれる。
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## 関連
- [[稲見昌彦]] — 著者
- [[東京大学先端科学技術研究センター]] — 所属機関
- [[inside the loops]] — 本稿の中核概念
- [[See-through]] — 視覚的透明性の概念
- [[Feel-through]] — 触覚的透明性の概念
- [[光学迷彩]] — See-through の技術的実現
- [[拡張現実感]] — 稲見の研究領域
- [[調律]] — 世界の見え方を変えるプロセス
- [[サイバネティクス]] — 知的背景
- [[VPL社]] — 初期VR企業
- [[ティモシー・リアリー]] — 言及人物
- [[ヘレン・ケラー]] — Feel-through の例
- [[ノーバート・ウィーナー]] — サイバネティクスの創始者
## 出典
- 原文: [note.com/drinami/n/nabeb23f470bd](https://note.com/drinami/n/nabeb23f470bd)
- 取得テキスト: [[.raw/articles/out-of-the-blue-part2-2026-06-19]]