# DevOpsとは何だったのか > [!abstract] 概要 > [[Gosuke Miyashita]](mizzy)による、DevOpsという言葉の起源と変遷を辿るブログ記事。DevOpsが元々は開発部門と運用部門という組織の分断を解消する文化運動だったこと、[[John Willis]] のCAMS(Culture・Automation・Measurement・Sharing)がその輪郭を示していたこと、その後Automation偏重・ツール名・職種名として消費されていったこと、『Effective DevOps』の「小文字のdevops」という抵抗も定着しなかったこと、そしてDevOpsが包含していた要素が [[Infrastructure as Code]]・CI/CD・フィーチャーフラグ・[[DORA]]・[[ChatOps]] という独立領域に分解されていったことを論じる。最後に、この現象がSREという言葉にも繰り返されつつあると指摘する。 ## 書誌情報 - タイトル: DevOpsとは何だったのか - 著者: [[Gosuke Miyashita]](ハンドル: mizzy) - 公開日: 2026-07-13 - URL: https://mizzy.org/blog/2026/07/13/2/ ## 主要主張 ### DevOpsの原点(2008〜2009年) - 2008年、Agile 2008(トロント)で [[Andrew Clay Shafer]] が「Agile Infrastructure」というBoF(Birds of a Feather)セッションを企画したが参加者はほぼ集まらず、Shafer本人も現れなかった。会場に来た唯一の参加者が [[Patrick Debois]] であり、二人は廊下で話し込んで Agile Systems Administration グループを立ち上げた。 - 2009年6月のVelocity 2009で、Flickrの [[John Allspaw]] とPaul Hammond氏が「10+ Deploys per Day: Dev and Ops Cooperation at Flickr」を発表。開発者と運用者の対立ではなく協力による高頻度デプロイを実証した。 - この発表に触発された Debois が2009年10月、ベルギーのゲントで最初の devopsdays を開催。DevOpsという語はこのカンファレンス名(dev + ops + days)に由来する。Debois自身は後のインタビューで「Agile System Administration Days」が長すぎたので短縮しただけで、業界用語化する意図はなかったと語っている。 - 結論として、DevOpsは元々、開発部門と運用部門という「組織の分断」を解消したいという問題意識から生まれた語であり、技術レイヤー・開発工程・特定ツール群を指す語ではなかった。 ### CAMS(2010年)——初期の定義の輪郭 - [[John Willis]] が2010年7月の「What Devops Means to Me」で提示したのがCAMS: Culture(文化)・Automation(自動化)・Measurement(計測)・Sharing(共有)。Cultureが先頭で、Automationは4分の1に過ぎなかった。 - 同年、[[John Allspaw]] は「Incomplete Thought: The DevOps Disconnect」へのコメントで「抽象化のことでも、Infrastructure as Codeのことでも、特定ツールのことでも、職種や役職のことでもない。協力とコミュニケーションの文化、そこから生まれるツールやプロセスのことだ」と明言した(このコメントを著者は2011年6月のDevOpsカンファレンスの発表や2012年のtumblrで再度引用している)。 ### モノの名前になっていくDevOps - 2016年の『Effective DevOps』([[Jennifer Davis]]・[[Ryn Daniels]]著)5章「devopsに対する誤解とアンチパターン」は、「devopsはチームである」「devopsは肩書だ」「devopsには認定資格が必要だ」「devopsはツールの問題だ」「devopsとは自動化のことだ」という誤解を列挙している。CAMSで4分の1に過ぎなかったAutomationが、devopsそのものと同一視されるところまで来ていたことがわかる。 - 同書は「devops-as-a-service」といった商品化への言及もしており、2016年時点ですでに一章を割いて反論が必要なほど誤解が進行していた。 ### 小文字のdevops - 『Effective DevOps』は本文中で一貫して小文字のdevopsを使用。理由は「はじめに」のコラムで説明される: (1) オンライン投票ではDevOps表記が圧勝したが、DevOpsという表記自体がDevとOpsのみに重点を置くことの現れであり、DevSecOps・DevQAOpsのような語を生む一因になっている、(2) Twitterの#devopsハッシュタグが「こちら対あちら」の対話を変え、人を重視した持続可能な働き方でつながる人々のために使われていた、(3) 組織固有の問題は開発・運用の対立に限らない。 - 同書は devops を「情報のサイロを壊し、関係を観察し、チーム間の誤解を解消するための反復的取り組みを強調する、プロフェッショナルで文化的な運動」と定義している。 - 結果として小文字のdevopsは定着しなかった。AWSドキュメントやGoogle CloudのDORAレポートも一貫してDevOps表記であり、これは訳語の問題でも日本語という言語の問題でもなく、「文化の運動という掴みどころのないものより、職種・ツール・資格という名乗れる/買えるものの方が流通しやすい」ためだと著者は結論づける。 ### 別の言葉へと分解されていくDevOps - Velocity 2009のFlickr発表で挙げられた要素は、それぞれ独立した言葉・市場に育った: インフラの自動化→[[Infrastructure as Code]]、ワンステップビルド&デプロイ→CI/CD、機能フラグ→フィーチャーフラグ、メトリック共有→オブザーバビリティ・[[DORA]]の4キーメトリクス、IRC/IMのロボット→[[ChatOps]]。 - Flickr発表の核心にあった「安定性か変化か」というDevとOpsの対立は、SREのエラーバジェットという仕組みに落とし込まれた。この構図の象徴が「class SRE implements DevOps」([[Liz Fong-Jones]]・Seth Vargo氏が2018年に打ち出したフレーズ、The Site Reliability Workbookの章タイトルにもなった)。 - Platform Engineering文脈で「DevOpsは死んだ」という言説が広まった(2022年 Sid Palas氏の投稿、The New Stack記事、CNCFウェビナー)。象徴的なのは、DORA(DevOps Research and Assessment)が2025年に年次レポート名を「Accelerate State of DevOps Report」から「State of AI-assisted Software Development」へ改称し、組織名からもDevOpsという語が消えたこと。 ### 問題は解決したのか - Automation・Measurementには後継の語(Infrastructure as Code・CI/CD・DORA)ができたが、先頭にあったCultureの後継——部門間の分断・対立の解消——はTeam Topologies、Learning from Incidents、Resilience Engineeringが一部を引き受けているものの、これらも本・カンファレンス・コンサルティングという「名乗れる・売り買いできる」形に整形されて流通している。 - DevSecOps(2013年頃、DevOps誕生から約4年後に登場)やPlatform Engineering(開発者へ寄りすぎた運用の認知負荷をプラットフォームチームが引き受け直す動き、CNCF Platforms White Paperに整理あり)は、部門間の分担問題が名前と形を変えて今も続いていることを示す。 - 著者は、maru氏のSRE NEXT 2026参加レポートにある「開発の時系列上の役割・技術レイヤー・組織上のロールを混ぜると、SREが『運用の問題をソフトウェアエンジニアリングで解決するプラクティス』ではなく『インフラレイヤー担当の職種』になってしまう」という指摘を引き、DevOpsに起きたのと同じ現象がSREにも起きつつあると結論づける。DevOpsの一番の価値は「名前のなかった問題に名前を与えたこと」であり、その名前が消費し尽くされた今、問題は解決されないまま名前を再び失いつつあるのかもしれない、と締めくくる。 ## 抽出した概念候補 - [[DevOps]](新設) - CAMS(Culture・Automation・Measurement・Sharing) - 小文字のdevops - class SRE implements DevOps ## 抽出した実体候補 - [[Gosuke Miyashita]](著者、mizzy) - [[Patrick Debois]] - [[Andrew Clay Shafer]] - [[John Allspaw]](既存ページ更新) - [[John Willis]] - [[Liz Fong-Jones]](既存ページ更新) - Jennifer Davis / Ryn Daniels(『Effective DevOps』著者、本文言及のみ) - Sid Palas(Platform Engineering論争の発端、本文言及のみ) ## 統合メモ - [[SRE]] の横断的知見に、「class SRE implements DevOps」という定式化自体がDevOpsと同じ「文化→職種・技術レイヤー消費」パターンを反復している、という視点を追記できる。 - [[プラットフォームエンジニアリング]] に、DevOpsが分解して生まれた領域の一つとしての系譜(認知負荷の再配分)を追記できる。 - [[DORA]] に、2025年の改称(DevOps色の除去)を追記できる。 - [[ChatOps]]・[[Infrastructure as Code]] に、DevOps由来の実践要素として一方向の系譜リンクを追加できる。 ## 出典 - https://mizzy.org/blog/2026/07/13/2/