# State of AI: An Empirical 100 Trillion Token Study with OpenRouter
> [!abstract] 概要(Abstract 和訳)
> 過去1年は大規模言語モデル(LLM)の進化と実運用の双方において転換点となった。2024年12月5日に初めて広く採用された推論モデル o1 がリリースされたことで、この分野は単発パターン生成から多段階の熟考推論(multi-step deliberation inference)へと移行し、展開・実験・新たな応用クラスの創出を加速させた。この急速な変化が進行する一方で、これらのモデルが実際にどう使われているかについての経験的理解は遅れをとってきた。本研究では、多様なLLMをまたぐAI推論プロバイダである OpenRouter プラットフォームを活用し、100兆トークンを超える実世界のLLM利用を、タスク・地域・時間の各軸で分析する。この経験的研究において、我々はオープンウェイトモデルの顕著な採用拡大、(多くが想定する生産性タスクだけでなく)創作ロールプレイの突出した人気とコーディング支援カテゴリの拡大、そしてエージェント型推論の台頭を観測した。さらに、定着率(retention)分析により、後続のコホートよりもはるかに長くエンゲージメントが持続する基盤的コホート(foundational cohorts)を特定した。我々はこの現象を Cinderella「Glass Slipper」効果と呼ぶ。これらの知見は、開発者とエンドユーザーが実際にLLMと関わる様式が複雑かつ多面的であることを裏付ける。我々はモデル開発者・AI開発者・インフラ提供者への含意を議論し、利用実態に基づくデータ駆動の理解がLLMシステムのより良い設計・展開にどう資するかを述べる。
## 論文情報
- タイトル: State of AI: An Empirical 100 Trillion Token Study with OpenRouter
- 著者: Malika Aubakirova(a16z / Andreessen Horowitz、筆頭著者)、Alex Atallah・Chris Clark・Justin Summerville(いずれも OpenRouter Inc.)、Anjney Midha(a16z)
- 媒体・発表年: arXiv preprint、2026年1月投稿(2025年12月時点のデータに基づく分析)
- arXiv ID: 2601.10088
## 概要
[[OpenRouter|OpenRouter Inc.]] は多数のLLMを仲介するAI推論プラットフォームであり、本論文はその課金メタデータから抽出した約2年分(直近13か月に重点)・100兆トークン超の request レベルデータを用いて、LLMの実利用パターンを定量的に描写した産業レポートである。プロンプト・応答本文には一切アクセスせず、トークン量・モデル種別・タイムスタンプ・地域・ツール呼び出しの有無などのメタデータのみを用いる点が方法論上の特徴。
## 問題設定
- **入力**: OpenRouter 上の匿名化された request 単位のメタデータ(モデル/プロバイダ識別子、prompt/completion トークン数、タイムスタンプ、地域、ストリーミング・キャンセル・ツール呼び出しの有無等)。
- **出力**: 週次集計されたモデル種別・カテゴリ・地域・コストの分布と時系列トレンド。
- **前提条件**: プロンプト本文そのものへはアクセスせず、Google Cloud Natural Language の `classifyText` API を利用した非独自の分類器 GoogleTagClassifier による低頻度サンプリング(全体の約0.25%、オプトイン)を用いてタスクカテゴリを推定する。カテゴリ関連の分析(第5章)は分類フィールドが導入された2025年5月以降のデータに限定される。
## 提案手法(データとメソッド)
- **データソース**: OpenRouter は300以上のモデル・60以上のプロバイダーを仲介する推論プラットフォームで、利用の50%超が米国外から発生する。課金地域を地理指標として用いる(IPベースの位置情報は不正確なため)。
- **カテゴリ分類**: GoogleTagClassifier の階層的タクソノミー(信頼度閾値0.5)を、Programming・Roleplay・Translation・General Q&A/Knowledge・Productivity/Writing・Education・Literature/Creative Writing 等の study-defined バケットへマッピング。複数ラベルの重複や新奇な横断的用途を捉えきれない限界がある。
- **モデル変数**: モデルを Open Source(重みが公開)/Closed Source(APIのみ)で二分。さらに開発拠点を中国(中国・台湾・香港の組織)と Rest-of-World(RoW)に区分。パラメータ数で Small(<15B)/Medium(15B–70B)/Large(≥70B)に分類。
- **時間軸**: 主要な分析期間は2024年11月3日〜2025年11月30日の約13か月。カテゴリ別分析(GoogleTagClassifier依存)は2025年5月以降に限定。週次・UTC正規化で集計。
- **コスト指標**: 1Mトークンあたりの実効コストはプロンプト・completion 両方のブレンドレートで、キャッシュ効果により公表リスト価格より低くなる。BYOK(Bring Your Own Key)利用は除外し、プラットフォーム仲介の標準利用のみを対象とする。
## 新規性
- Anthropic の Economic Index([[Anthropic]])や OpenAI の "How People Use ChatGPT" のような既存の実利用調査は自社プラットフォームの利用者に限定されるが、本研究は複数ベンダーのモデルを横断的に仲介する OpenRouter という立ち位置から、オープン/クローズド両方のモデル利用を単一の観測点で比較できる点が新規性である。
- 「Cinderella Glass Slipper効果」という、モデル-ワークロード適合(model-market fit)を定着率(retention)曲線から読み取る新しい分析フレームワークを提案している。
- 100兆トークン規模という、単一の公開研究としては極めて大規模なメタデータに基づく実証分析である。
## 実験設定
- **データセット**: OpenRouter の匿名化 request メタデータ、約2年分・数十億件の prompt–completion ペア、100兆トークン超。
- **分析基盤**: すべての集計・可視化は Hex analytics platform 上で再現可能な SQL パイプラインとして実行。
- **比較軸**: OSS vs. Closed、中国製 OSS vs. RoW OSS、モデルサイズ(Small/Medium/Large)、地域(北米・欧州・アジア等)、タスクカテゴリ(Programming・Roleplay・Translation 等)。
- **評価指標**: 週次トークンシェア(%)、Cohort別の月次アクティビティ定着率(%)、1Mトークンあたりの実効コスト($)。
## 実験結果
### オープン vs. クローズドソースモデルの構造変化
**Figure 1: ソース種別ごとのトークンシェア推移**
![[fig01-share-by-source-type.png]]
(Figure 1. 週次のトークン量シェアをソース種別で示した積み上げ面グラフ。薄い青がオープンウェイト(中国 vs. RoW)、濃い青がプロプライエタリ。破線はLlama 3.3 70B・DeepSeek V3・DeepSeek R1・Kimi K2・GPT OSSファミリー・Qwen 3 Coder等、主要なOSSモデルのリリース時期を示す。)
**Figure 2: モデル種別ごとの週次トークン量**
![[fig02-usage-by-source-type.png]]
(Figure 2. Closed(濃い赤)・Chinese OSS(オレンジ)・RoW OSS(ティール)の週次トークン利用量を積み上げ棒グラフで表示。2025年後半、特に中国製OSSモデルでのOSSシェア拡大が顕著。)
プロプライエタリモデル(特に北米大手プロバイダー)が依然としてトークン量の多数を占めるが、OSSモデルは2025年後半までに約1/3のシェアへ着実に成長した。中国製OSSモデルは2024年末の週次シェア1.2%という無視できる水準から、ある週には全体の約30%まで達し、1年間平均では約13.0%のシェアを占めた。RoW OSSは平均13.7%、プロプライエタリ(RoW)は平均70%のシェアを維持した。
**Table 1: モデル開発元別トークン総量(2024年11月〜2025年11月)**
| モデル開発元 | 総トークン量(兆) |
|---|---|
| DeepSeek | 14.37 |
| Qwen | 5.59 |
| Meta LLaMA | 3.96 |
| Mistral AI | 2.92 |
| OpenAI | 1.65 |
| Minimax | 1.26 |
| Z-AI | 1.18 |
| TNGTech | 1.13 |
| MoonshotAI | 0.92 |
| Google | 0.82 |
**Figure 3: 上位15 OSSモデルの週次シェア推移**
![[fig03-top15-oss-models-over-time.png]]
(Figure 3. 主要OSSモデルの週次相対トークンシェアを示す積み上げ面グラフ。2024年末は DeepSeek V3/R1 の2モデルでOSSトークンの過半数を占めていたが、2025年中盤の「Summer Inflection」以降、Qwen・Minimax M2・Kimi K2・GPT-OSS等の新規参入で市場が急速に多極化し、直近ではどのモデルも25%を超えない。)
**Figure 4: OSSモデルサイズ別の利用シェア**
![[fig04-oss-model-size-vs-usage.png]]
(Figure 4. Small/Medium/Large別の週次OSSトークンシェア。Smallモデルのシェアは減少傾向、Medium・Largeが伸長。)
**Figure 5: サイズ別OSSモデル数の推移**
![[fig05-oss-model-count-by-size.png]]
(Figure 5. 週次のOSSモデル数(サイズカテゴリ別カウント)。モデル数自体は各カテゴリで増加している一方、利用シェアはMedium・Largeへシフト。)
Small(<15B)モデルは供給が絶えず増える一方で利用シェアは減少しており、断片化が激しい。Medium(15B–70B)は Qwen2.5 Coder 32B(2024年11月)のリリースを契機に確立され、Mistral Small 3(2025年1月)・GPT-OSS 20B(2025年8月)らが競争を深化させた「model-market fit」の典型例として提示される。Large(≥70B)はQwen3 235B A22B Instruct・Z.AI GLM 4.5 Air・GPT-OSS-120Bなど多極的な構図。ただし論文はこの傾向を「OpenRouterはAPIサービスとしての観測点に過ぎず、自己ホスト型のSmallモデル利用は不可視である」という限界を明記している。
### OSSモデルの用途
**Figure 6: OSSモデルのカテゴリ別トレンド**
![[fig06-oss-category-trends.png]]
(Figure 6. OSSモデル利用のカテゴリ別分布。ロールプレイ(約52%)とプログラミングが大半を占める。)
**Figure 7: 中国製OSSモデルのカテゴリトレンド**
![[fig07-chinese-oss-category-trends.png]]
(Figure 7. 中国製OSSモデルに限定したカテゴリ内訳。ロールプレイが最大(約33%)だが、プログラミングとテクノロジーを合わせた割合(約39%)が全体OSSの水準(38%)よりやや高い。)
**Figure 8: プログラミング系クエリのモデル系統別シェア**
![[fig08-programming-by-model-source.png]]
(Figure 8. プロプライエタリ・中国製OSS・RoW OSSごとのプログラミング関連トークンシェア。2025年中盤は中国製OSS(Qwen 3 Coder等)がOSSコーディング支援の主体だったが、Q4にはMeta・OpenAIらのRoW OSSが優勢に転じた。)
**Figure 9: ロールプレイ系クエリのモデル系統別シェア**
![[fig09-roleplay-by-model-source.png]]
(Figure 9. ロールプレイ用途のトークン量を中国製OSS/RoW OSS/Closedで比較。2025年5月時点でプロプライエタリが約70%を占めていたが、直近ではRoW OSS(43%)とClosed(42%)がほぼ拮抗する構図へ移行。)
OSSモデル利用の過半数(52%)はロールプレイであり、プログラミング(15〜20%)が続く。ロールプレイはコンテンツフィルタの制約が比較的緩いOSSモデルの強みが表れる領域とされる。
### エージェント型推論の台頭
**Figure 10: 推論モデル vs. 非推論モデルのトークン推移**
![[fig10-reasoning-vs-nonreasoning-trends.png]]
(Figure 10. 推論最適化モデルへ流れる全トークンの割合。2025年初頭にはごく僅かだったが、直近は50%を超える。)
推論最適化モデル(GPT-5、Claude 4.5、Gemini 3等の高性能モデル群)が処理するトークンの割合は2025年に急伸し、直近で全体の50%超に達した。
**Figure 11: トークン量上位の推論モデル**
![[fig11-top-reasoning-models.png]]
(Figure 11. 推論系トラフィックのトップモデル。直近ではxAIのGrok Code Fast 1がGoogle Gemini 2.5 Pro/Flashを上回り最大シェア。)
**Figure 12: 週次のツール呼び出し比率**
![[fig12-tool-invocations-over-time.png]]
(Figure 12. finish reason が Tool Call に分類された request の割合。ツールが実際に呼び出された成功実行のみを反映する指標。)
**Figure 13: ツール提供量が多いモデル上位**
![[fig13-top-models-tools-provided.png]]
(Figure 13. ツール提供(tools provided)ボリュームの上位モデル。当初はGPT-4o-mini・Claude 3.5/3.7に集中していたが、2025年後半にClaude 4.5 Sonnet・Grok Code Fast・GLM 4.5等へ多様化。)
**Figure 14: プロンプトトークン長の増加**
![[fig14-prompt-length-growth.png]]
(Figure 14. 平均プロンプトトークン長は約1.5Kから6K超へ約4倍に増加。)
**Figure 15: 補完トークン長の増加**
![[fig15-completion-length-growth.png]]
(Figure 15. 平均completionトークン長は約150から400へほぼ3倍に増加。主に推論トークンの寄与による。)
**Figure 16: プログラミングがプロンプト長増加の主因であることを示す図**
![[fig16-programming-drives-prompt-growth.png]]
(Figure 16. カテゴリ別プロンプトトークン長。プログラミング関連リクエストが恒常的に2万トークンを超え、他カテゴリを大きく引き離す。)
**Figure 17: 平均シーケンス長の推移**
![[fig17-avg-sequence-length-over-time.png]]
(Figure 17. prompt+completionの平均トークン数は過去20か月で2,000トークン未満から5,400トークン超へ3倍以上に伸長。)
**Figure 18: プログラミング用途とその他用途のシーケンス長比較**
![[fig18-sequence-length-programming-vs-overall.png]]
(Figure 18. プログラミング関連プロンプトは一般的なプロンプトの3〜4倍のトークン長を持つ。)
これら(推論モデルシェアの上昇、ツール利用の拡大、シーケンス長の伸長、プログラミングの複雑性)を総合し、著者らはLLM利用の重心が単発の応答生成から「エージェント型推論(agentic inference)」— ツール呼び出し・状態管理・長文脈にわたる推論ループ — へシフトしたと結論づける。
### カテゴリ別利用実態
**Figure 19: 支配的カテゴリとしてのプログラミング**
![[fig19-programming-dominant-category.png]]
(Figure 19. プログラミング関連クエリの全体シェアは2025年初頭の約11%から直近50%超まで拡大。)
**Figure 20: プロバイダー別プログラミングリクエストシェア**
![[fig20-programming-share-by-provider.png]]
(Figure 20. プログラミング支出におけるモデルプロバイダー別シェア。Anthropicが観測期間の大半で60%超を占め続けたが、11月第3週に初めて60%を下回った。OpenAIは7月以降2%から約8%へ、Googleは約15%で安定。MiniMaxが急伸中。)
**Figure 21: カテゴリ内のタグ構成**
![[fig21a-tag-share-top6-categories.png]]
(Figure 21(a). 上位6カテゴリのトークンシェアをサブタグ別に分解。ロールプレイの約60%はGames/Roleplaying Gamesに集中。)
![[fig21b-tag-share-next6-categories.png]]
(Figure 21(b). 次点6カテゴリの内訳。Translation・Science・Health等は内部構造が比較的フラットで分散している。)
ロールプレイはGames/Roleplaying Games(約60%)、Writers Resources(15.6%)、Adult(15.4%)に集中し、構造化されたジャンルであることを示す。プログラミングはProgramming/Other(3分の2超)が支配的で、Development Tools(26.4%)が続く。Science は Machine Learning & AI(80.4%)に極端に偏っており、AI自己言及的な質問が主体であることを示唆する。Healthは単一サブタグが25%を超えない最も分散したカテゴリ。Finance・Legal・Academiaも同様に分散度が高く、成熟したワークフローが未確立であることを示唆する。
**Figure 22: 主要プロバイダーごとのカテゴリ構成**
![[fig22a-anthropic-category-mix.png]]
(Figure 22a. Anthropicはプログラミング+テクノロジーが80%超を占め、コーディング特化の利用構成。)
![[fig22b-google-category-mix.png]]
(Figure 22b. Googleはより多様な構成で、Translation・Science・Technology・一般知識に分散。)
![[fig22c-xai-category-mix.png]]
(Figure 22c. xAIはプログラミングが8割超を占めるが、11月下旬に無料配布の影響でTechnology・Roleplay・Academiaが拡大。)
**Figure 23: OpenAI・DeepSeek・Qwenのカテゴリ構成**
![[fig23a-openai-category-mix.png]]
(Figure 23a. OpenAIは年初はScienceが過半数だったが、年末にはプログラミング+テクノロジーが過半数(それぞれ29%)へシフト。)
![[fig23b-deepseek-category-mix.png]]
(Figure 23b. DeepSeekはロールプレイ・カジュアルチャット・エンタメ利用が3分の2超を占め、消費者志向の会話モデルとしての性格が強い。)
![[fig23c-qwen-category-mix.png]]
(Figure 23c. Qwenはプログラミングが常時40〜60%を占め、技術・開発者志向のモデルとしての性格が強い。)
### 地域別利用動向
**Figure 24: 世界地域別の支出シェア推移**
![[fig24-spend-by-world-region.png]]
(Figure 24. 週次のグローバル支出シェアを大陸別に示す。北米は最大地域だが観測期間の大半で全支出の半分未満に低下。アジアは約13%から約31%へ倍増以上に拡大。)
**Table 2: 言語別トークン量シェア**
| 言語 | トークンシェア(%) |
|---|---|
| 英語 | 82.87 |
| 中国語(簡体字) | 4.95 |
| ロシア語 | 2.47 |
| スペイン語 | 1.43 |
| タイ語 | 1.03 |
| その他(合算) | 7.25 |
英語が全体の80%超を占めるが、中国語(簡体字)は約5%を占め、DeepSeek・Qwen等の中国製OSSモデルの成長と符合する。
### ユーザー定着分析: Cinderella「Glass Slipper」効果
**Figure 25: モデル別コホート定着率**
![[fig25a-claude4sonnet-retention.png]]
(Figure 25a. Claude 4 Sonnet の月次定着率。2025年5月コホートは月5時点で約40%が定着し、後続コホートより顕著に高い。)
![[fig25b-gemini25pro-retention.png]]
(Figure 25b. Gemini 2.5 Pro の定着率。2025年6月コホートが同様に高い定着を示す。)
![[fig25c-gemini25flash-retention.png]]
(Figure 25(c). Gemini 2.5 Flash の定着率。)
![[fig25d-gpt4omini-retention.png]]
(Figure 25(d). GPT-4o Mini の定着率。2024年7月の単一コホート(オレンジ)のみが高い定着を示し、以降のコホートは軒並み低位で収束する「Dominant Launch Anomaly」を示す。)
![[fig25e-llama4maverick-retention.png]]
(Figure 25(e). Llama 4 Maverick の定着率。突出した基盤的コホートが存在せず、全コホートが一様に低い定着に終始する「No-Fit」の事例。)
![[fig25f-gemini20flash-retention.png]]
(Figure 25(f). Gemini 2.0 Flash の定着率。同様に基盤的コホートが形成されなかった事例。)
![[fig25g-deepseekr1-retention.png]]
(Figure 25g. DeepSeek R1 の定着率。2025年4月コホート等で月3付近に離脱後の定着率上昇(resurrection jump)が見られる「Boomerang Effect」。)
![[fig25h-deepseekchatv3-retention.png]]
(Figure 25h. DeepSeek Chat V3-0324 の定着率。2025年7月コホートで月2付近に同様のresurrection jumpが観測される。)
多くのモデルで急速なチャーンとコホート減衰が支配的だが、一部の早期コホートは持続的に高い定着を示す。著者らはこれを「基盤的コホート(foundational cohorts)」と呼び、ワークロードとモデルの間に深く持続的な適合(fit)が生じたことの証左と位置づける。この現象は「Cinderella Glass Slipper効果」と名付けられ、次の3つの含意として整理される: (1) 課題を最初に解決したモデルは持続的な優位性(First-to-Solve)を得る、(2) コホート定着はモデルの能力的な跳躍(capability inflection)を示す指標になる、(3) 基盤的コホートを形成できる時間的window は狭く一過性である。DeepSeekモデルではチャーンした利用者が競合を試した後に回帰する「Boomerang Effect」という追加の異常パターンも観測された。
### コストと利用量の力学
**Figure 26: カテゴリ別のlogコスト対log利用量**
![[fig26-log-cost-vs-usage-by-category.png]]
(Figure 26. 中央値コスト($0.73/1Mトークン)で四分割した散布図。Technologyが突出して高コストかつ高利用量。Roleplay・Programmingは低〜中コストで高利用量の「Mass-Market Volume Drivers」象限、Finance・Academia・Health・Marketingは低利用量・高コストの「Specialized Experts」象限、Translation・Legal・Triviaは低コスト・低利用量の「Niche Utilities」象限に分類される。)
**Figure 27: オープン/クローズドソース別のコスト対利用量**
![[fig27-cost-vs-usage-by-source-type.png]]
(Figure 27. log-logスケールでのコスト対利用量。クローズドモデルは高コスト・高利用量帯に、OSSモデルは低コスト・高volume帯に分布し、トレンドラインはほぼフラット。)
**Figure 28: モデル開発元別のコスト対利用量**
![[fig28-cost-vs-usage-by-model-author.png]]
(Figure 28. 開発元別に色分けした同様の散布図。Premium leaders(Claude 3.7 Sonnet・Sonnet 4)、Efficient giants(Gemini 2.0 Flash・DeepSeek V3-0324)、Long tail(Qwen 2 7B Instruct・IBM Granite 4.0 Micro)、Premium specialists(GPT-4・GPT-5 Pro)の4アーキタイプが識別される。)
**Table 3: セグメント別モデル例**
| セグメント | モデル | 価格($/1Mトークン) | 利用量(log) |
|---|---|---|---|
| Efficient giants | google/gemini-2.0-flash | 0.147 | 6.68 |
| Efficient giants | deepseek/deepseek-v3-0324 | 0.394 | 6.55 |
| Premium leaders | anthropic/claude-3.7-sonnet | 1.963 | 6.87 |
| Premium leaders | anthropic/claude-sonnet-4 | 1.937 | 6.84 |
| Long tail | qwen/qwen-2-7b-instruct | 0.052 | 2.91 |
| Long tail | ibm/granite-4.0-micro | 0.036 | 2.95 |
| Premium specialists | openai/gpt-4 | 34.068 | 3.53 |
| Premium specialists | openai/gpt-5-pro | 34.965 | 3.42 |
価格弾力性は市場全体としては低く(10%の価格低下に対し利用量増加は0.5〜0.7%程度)、需要は比較的非弾力的である。ただしこれはマクロな平均像であり、ミクロにはミッションクリティカルな企業利用(高価格でも高利用)とコスト敏感な開発者・趣味利用(低価格モデルへ集中)という異なる挙動が混在する。Efficient giants群にはJevonsのパラドックスに類似する挙動(低コスト化がむしろ総消費量を押し上げる)が観測される。
### 付録: カテゴリのサブ構成(補足)
**Figure 29: 主要カテゴリのサブ構成**
![[fig29a-appendix-roleplay-subtags.png]]
(Figure 29(a). ロールプレイのサブタグ内訳。Role-Playing Gameシナリオが58%を占める。)
![[fig29b-appendix-programming-subtags.png]]
(Figure 29(b). プログラミングのサブタグ内訳。単一の突出したサブドメインはなく、幅広いプログラミング話題に分散。)
![[fig29c-appendix-technology-subtags.png]]
(Figure 29(c). テクノロジーのサブタグ内訳。Intelligent AssistantsとProductivity Softwareの合計が65%を占める。)
## 考察
- 著者らは6つの含意を提示する: (1) 単一モデル・単一プロバイダーが支配しないマルチモデルエコシステムが定着している、(2) ロールプレイ・エンタメ用途がプロダクティビティ用途に匹敵する規模で存在し、モデル評価指標を再考する必要がある、(3) エージェント型推論への移行により評価軸が「言語品質」から「タスク完遂」へ移る、(4) アジア地域の消費・生産双方でのプレゼンス拡大により多言語・文化適応が競争軸になる、(5) 価格弾力性の低さはLLM市場がまだコモディティ化していないことを示す、(6) Cinderella Glass Slipper効果はモデル-ワークロード適合を測る新しいレンズであり、成長率よりも定着率を注視すべきだと主張する。
- 本論文自体が Anthropic Economic Index や OpenAI の "How People Use ChatGPT" と同種の「実利用に基づくAI経済分析」の系譜に位置づけられており、単一プラットフォームに閉じないマルチベンダー横断の視点を提供する点で相補的な立ち位置にある。
## 強み / 弱点・課題
**Strengths**
- 100兆トークンという極めて大規模な実運用メタデータに基づく分析であり、単一プロバイダーに閉じない複数モデル横断の視点を持つ。
- 定量分析に加え、「Cinderella Glass Slipper効果」のような再利用可能な分析フレームワークを提示している。
- 限界を明示的に議論し(プロンプト内容へのアクセス不可、GoogleTagClassifierタクソノミーの制約、課金地域ベースのジオロケーションの不正確性、OpenRouter観測点の代表性の限界)、結果を「示唆的パターン」として慎重に位置づけている。
**Weaknesses / Limitations**
- OpenRouterという単一プラットフォームの観測に基づき、企業内利用・自己ホスト展開・クローズドな内部システムは範囲外(論文の Limitations 節で明記)。
- エージェント型推論の検出は「ツール呼び出しの有無」等の代理指標(proxy)に依存し、直接的な行動計測ではない。
- ユーザー地理はIPベースではなく課金情報に基づく代理指標であり、サードパーティ課金や企業アカウントの集約により不正確になりうる。
- カテゴリ分類はプロンプト先頭1,000文字のみを対象とする非独自の分類器(GoogleTagClassifier)に依存し、事前定義タクソノミーの制約や複数ラベルの重複を完全には解消できない。