# なめらかなシステムと運用維持の終わらぬ未来
## 概要
[[三宅悠介]]([[GMOペパボ]] ペパボ研究所)による DICOMO2025(マルチメディア、分散、協調とモバイルシンポジウム)IOT 統一テーマセッション招待講演(2025-06-27)。「なめらかなシステム」を 2018 年の提案から 7 年ぶりに再定義し、目的が固定的に与えられる枠組みからの転換を軸に、AI エージェントネットワークによる意味の翻訳と関係性の媒介を構想した。
## 主要メッセージ
- **τέλος(テロス)的前提の転回**: 古典ギリシャ時代のアリストテレスから現代の AI エージェントに至るまで、システムの目的(τέλος)は終局的な不変の目標として**固定的**に捉えられてきた。しかし利用者は自身の目的をシステム利用に先立って明確に知覚しているとは限らず、目的は継続的コミュニケーションを通じて**事後的に形成**される(p.5-6)。
- **なめらかなシステムの背景**: 情報システムが多様かつ継続的に変化する環境で機能するには構成やロジックを更新し変化に追従する必要があるが、従来はこの追従を**運用維持業務として運用者が人手で**担ってきた。この時間差が安定性・利用者満足度の低下と運用負担の増加を招く(p.12-13)。
- **2 つの要求と 2 つのアプローチ**: (1) 利用者の主観的コンテキストを織り込んだ**総体としてのシステム**(要求①)、(2) コンテキストの**事後的形成**(要求②)。[[コンテキスト・アウェアネス]]は要求①を満たすが要求②には不十分。[[基礎情報学]]の HACS は大きな進展をもたらすが、情報システムを他律的 ICT に留める見方に限界がある(p.27-35)。
- **2018 年のなめらかなシステムの定義** (p.38-41): 互いに影響を及ぼし合う継続的な関係にある利用者と情報システムとからなる総体としてのシステム。3 要件(継続的関係でコンテキスト見出し・創出、明示的操作なし、最適サービスの自動提供)。
- **先行提案の限界** (p.44): 与えられた目的のもとでの適応的振る舞いの実現に留まっていた。「宣言的 AI」も目的が固定で手続きが生成されるに過ぎない(p.45)。
- **エフェクチュエーション** (p.48-49): 5 つのヒューリスティクス(手中の鳥・許容可能な損失・クレイジーキルト・レモネード・飛行機のパイロット)に基づく起業家的思考様式。手段から始め対話的・探索的に目的を構成する方式は、なめらかなシステムが目指すものと整合する。
- **なめらかなシステムの再定義(仮)** (p.52-53): 「常に未決定かつ生成途上にある目的に向けて、共に行為する主体として連帯を形成し続ける関係から構成される総体としてのシステム」。主体から**関係性**への視座転換。要件(1) にコンテキストに基づく「新たな目的とそれに対応する手段の都度生成」が加わった。
- **4 構成要件** (p.55-59): (1) 創発性の担保と構造的自律性——目的は相互作用から創発的に立ち現れ、各エージェントの自律性とミクロ・マクロの循環的関与が必要。(2) 現実/問題との接続性——エージェントは人間や環境と構造的に結びつき、意味や目的は文脈的・内的関心に根ざして形成される。(3) 非斉一性と関係可変性による持続的調整——異質で非対称な構成要素間の関係を状況に応じて組み替え、自律/他律の切替を通じた継続的な調整構造。(4) 人間の限界を超えた動的な意味構成支援——多数エージェントの並行対話が内的表象や微細な関心を掘り起こし、明示的な指示なしに目的が浮上する。
- **エージェント層による媒介と意味の翻訳** (p.60-61): 命令の中継ではなく意味の翻訳と関係性の媒介を担う新たな構造。ユーザの未表現の内的表象(感情・欲求など)を社会的に流通可能な形に変換する。人間どうしの直接的な需要-供給ではなく、文脈や背景を含んだ「共鳴的マッチング」を可能にする。
- **要件(3) の実現に向けて** (p.63-65): 多腕バンディット方策による適応的情報システム(三宅博士学位論文、九州大学、2024)と Dynamic Isomorphic IoT System Architecture(栗林博士学位論文、北陸先端科学技術大学院大学、2025)。
## 視覚的に重要な図表
**p.5 τέλος**
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ギリシャ語 τέλος(/ˈtɛ.los/)を全面に提示し、目的概念の転回を導入。
**p.22 自律適応システムの課題**
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User ⇄ Information System ⇄ Operator の 3 者関係。互いを「わからないもの」として向き合う構図。
**p.32 基礎情報学が提唱するシステム(HACS)**
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ドミニク・チェン(2014)の図 1「自律システムの基本構造」を引用。人間と構造的にカップリングした複合システムの模式図。
**p.40 なめらかなシステムのモデル**
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栗林・三宅・松本(DICOMO2018)のモデル図。ユーザー・情報システム・開発運用者の 3 者が構造的カップリングで継続的につながる複合システム。
**p.48 エフェクチュエーションのプロセス**
![[_attachments/dicomo2025-coherently-fittable-system/page-048.png]]
エフェクチュエーションの 5 つのヒューリスティクスと資源の拡大サイクル・制約の集約サイクルの図。
**p.52 なめらかなシステムの定義(仮)**
![[_attachments/dicomo2025-coherently-fittable-system/page-052.png]]
2018 年定義から仮定義への転換。「主体から関係性へ」の矢印。
**p.56 創発性の担保と構造的自律性**
![[_attachments/dicomo2025-coherently-fittable-system/page-056.png]]
エージェント間のネットワーク構造図。分離されたエージェント間の関係性が意味の共創の基盤となる。
**p.64 多腕バンディット方策による適応的情報システム**
![[_attachments/dicomo2025-coherently-fittable-system/page-064.png]]
User(s) → System → Feedback のループと Exploitation/Exploration。三宅博士学位論文(九州大学, 2024)。
**p.65 Dynamic Isomorphic IoT System Architecture**
![[_attachments/dicomo2025-coherently-fittable-system/page-065.png]]
デバイス層・エッジ層・クラウド層にわたる統合的アーキテクチャ。栗林博士学位論文(北陸先端大, 2025)。
## 概念・実体への接続
- [[なめらかなシステム]] — 本講演の中心概念。2018 年定義の再定義を提示
- [[再帰化]] — 2022 年のペパボテックカンファレンスで三宅が展開した前段の概念
- [[エフェクチュエーション]] — 目的を与えられる前提からの転換の実践枠組み
- [[基礎情報学]] — 西垣通の HACS。なめらかなシステムの構想に大きな進展をもたらした一方、ICT を他律的存在に留める限界
- [[コンテキスト・アウェアネス]] — 要求①を満たすアプローチ
- [[サイバネティクス]] — ウィーナーの生命体参照の工学的伝統。p.20 に引用
- [[三宅悠介]] — 登壇者
- [[栗林健太郎]] — DICOMO2018 共著者、Dynamic Isomorphic IoT System Architecture の博士論文
## 限界・不確実点
- なめらかなシステムの再定義は「仮」と明示されている(p.52-53)。最終的な定義は今後の研究で確定される。
- 4 構成要件(p.55-59)は概念レベルの提示であり、具体的な実装やプロトタイプの記述はない。
- エフェクチュエーションのプロセス図の出典は「Read, S. (2009)」とされるが正確な書誌情報は不明。
- transcript なし。