# The Failure of Knowledge Management [[Mark Burgess]](CFEngine 作者、理論物理学者)が自身の Medium ブログに投稿した、知識管理(knowledge management)がなぜ産業として繰り返し失敗するかを論じたエッセイ(初出 2023-01-02)。 ## 要旨 Burgess の中心的主張は、知識管理システムが「知識」を静的なデータとして貯蔵・検索できるものと誤解している点にある。「記憶を手元に持つことと、何かを知っていることは同じではない。これが知識とその管理に関する大いなる誤解だ」と述べ、記憶には常に意味の割り当て(信頼できるか、文字通りか比喩か、一次体験か伝聞か)が伴うことを強調する。世界は動的な過程の相互作用でできており、知識を捉えるとは「その過程の旅路そのもの」を捉えることであって、文脈から切り離して保存すると、推論によっては置き換えられない意味を失う。 ### 自身の CFEngine 創業経験 Burgess は 2007 年に CFEngine 社を興した際の狙いを「構成管理(configuration)は既に無償で普及しきった枯れた問題であり、真に売るべきは"作り上げたモンスターを理解するための知識"の管理だ」と回顧する。しかし Gartner・Forrester ら業界アナリストは 1990 年代から市場を configuration と monitoring に二分しており、両者の橋渡しという発想は当時誰にも理解されなかった。結果的に Puppet・Chef という米国発の競合がそれぞれ旧来のシステム管理文化・Web プログラマ世代に訴求し、CFEngine を再び configuration 単体の事業に引き戻したため、Burgess は自身の関心を失い会社を去った。 ### エキスパートシステム・Topic Maps・RDF/OWL への批判 1990 年代の AI エキスパートシステムはタクソノミー・オントロジーで知識を組織化したが、これは「図書館・博物館」のモデルに過ぎず、探す対象を既に知っていなければ何も見つけられない。ファイルシステムやデータベースも同型の問題を持つ(「自分で植えて育てた庭でなければ、友人のようには知らない」)。Topic Maps・RDF(Resource Description Framework)・OWL(Web Ontology Language)も同じ分類学的アプローチの繰り返しであり、Burgess はこれらを「ほぼ失敗だった」と断じる。根本原因は「論理を使って知識をプログラムしようとする誤り」であり、「論理は脆く妥協を許さないが、知識はすべて解釈の問題である」。生物学的分類法(鳥/非鳥のような排他的カテゴリ)がカモノハシやペンギンで必ず破綻するのと同様、カテゴリは相互排他的ではなく、普遍的な地図は存在しない。 ### 知識は関係性である Burgess の代替モデルは「友人のように知る(knowing something like a friend)」というアナロジーである。「一度会っただけの人を知っていると主張しないのに、なぜ一度読んだだけの物事を知っていると主張するのか」。知識の鍵は個人的な関係性であり、時間をかけた反復・訓練(rehearsal)によって信頼を築くプロセスを経る必要がある。心理学者 [[Robin Dunbar]] の社会脳仮説(neocortex サイズと社会集団規模の比例関係、Dunbar数)を引用し、関係性を通じた知の獲得が生物学的に裏付けられた過程であると位置づける。ロンドンのタクシー運転手の海馬(hippocampus)が経路記憶の訓練で肥大化する研究も同じ文脈で言及される。 ### 具体例:自社ツールを使わなかった知識管理企業 Burgess は自身が関わった、ある知識管理製品企業の逸話を紹介する。同社は wiki に HOW-TO を重複タイトルで貯め、顧客向けドキュメントは別システムに、コードは別のバージョン管理システム(GitHub)に置き、ユーザーごとに独自のナレッジベースを作ってしまい、誰も他人のシステムの使い方が分からなかった。強制されて集めた情報はマグパイ(カササギ)のような寄せ集めに過ぎず、誰も読み返さない「テキストの墓場(graveyard for text)」と化した。 ### 結論 「共有の目的は標準化・中央集権化・合意形成ではなく、自発的協力によってのみ達成できる」。知識は本質的に個人的なものであり、中央標準は強制ではなく社会的協調から生まれた意図の較正(calibration of intent)を文書化するに過ぎない。組織の俊敏性は単一の知識表現ではなく、過程から過程へ移る能力に由来する。「目的の一貫性を維持すること(maintaining coherence of purpose)」は避けられない作業であり、完全には自動化できず目的が変わるたびに変化し続ける。「知識とはリハーサルと親密さ(intimacy)である」。 ## 関連 - エンティティ: [[Mark Burgess]] / [[Robin Dunbar]] - 概念: [[知識のリレーションシップモデル]] / [[知識グラフ]] ## 出典 - Mark Burgess, "The Failure of Knowledge Management", Medium, 2023-01-02. https://mark-burgess-oslo-mb.medium.com/the-failure-of-knowledge-management-5d97bb748fc3