# LISA made LISA obsolete (That's a compliment!)
## 概要
著者 [[Thomas A. Limoncelli]](元 Google SRE、当時 Stack Overflow, Inc. の SRE マネージャー)による、[[USENIX]] が [[LISA]](Large Installation System Administration)カンファレンスを 35 年の歴史を経て終了させたことへの追悼と総括のエッセイ。「LISA は LISA 自身を陳腐化させた、それは賛辞である」という逆説でこの終了を位置づけ、LISA が掲げた「急進的なアイデア」が今や業界の常識となったことを勝利宣言する。後継として USENIX の SREcon へバトンが渡ったことを歓迎し、「SREcon は LISA の半分以下の期間で自らを陳腐化させるだろう」と予測する。(Source: 記事冒頭)
## LISA の 5 つの急進的アイデア
LISA は明文化されたマニフェストを持たなかったが、著者は記憶に基づき創設の理念を以下 5 点として再構成する。
1. システム管理は重要である
2. コンピュータは能動的に管理されるべきである
3. 自動化は重要である
4. システム管理は人間のプロセスである
5. TCP/IP や POSIX(Unix)のようなオープンシステムが未来である
(Source: §"LISA's radical ideas")
### 1. システム管理は重要である
1987 年の LISA 創設当時、システム管理は「システムの用務員(system janitor)」と蔑まれる評価の低い仕事だった。著者自身、1991 年の大学卒業時に指導教員から「もっと期待していたのに」と落胆され、USENIX の著名人物から「もう何年も operaaaaaaations なんてやってないよ」と鼻であしらわれた体験を明かす。USENIX 理事会も当初「システム管理には研究的な面白さがない」と提案を却下し、対象を「Large Installation」システム管理という研究的な枠組みに絞り込むことで説得に成功したという創設秘話が語られる。USENIX は SAGE Salary Survey(給与調査)と LISA 倫理規定(元は SAGE 倫理規定)を通じてシステム管理者の待遇・専門職としての地位向上を主導した。(Source: §Radical idea #1)
### 2. コンピュータは能動的に管理されるべきである
かつて大型コンピュータはベンダーが設置・設定し、顧客は OS レベルの変更を行わなかった。Unix ワークステーションの普及とマルチベンダー環境化がこのベンダー管理パラダイムを崩し、LISA 参加者は設定管理の自動化(post-install スクリプト → 自動 OS インストール → 設定管理ツール[cfEngine・Puppet・Chef]→ 今日でいう Infrastructure as Code)を積み上げていった。ベンダー提供が不十分だったコンポーネント(初期の BIND の脆弱性・信頼性の低い NFS オートマウンタ・共有ライブラリ)を独自に置き換える文化があった。LDAP/Kerberos/ActiveDirectory/SSO/SAML/OAuth のような統一認証も、LISA で学んだ急進的アイデアの系譜にあると位置づける。(Source: §Radical idea #2)
### 3. 自動化は重要である
ネットワーク以前は「歩き回るシステム管理(system administration by walking around)」が主流で、1990 年代後半までは暗号学的認証もプライバシーもない rsh によるループ処理がそれに続いた。LISA は「自分を自動化して仕事をなくす」ことを目標に掲げる文化の発祥地であり、Tom Christiansen が教えた Perl が最初のシステム管理者向け言語として普及した。LISA に併設された configuration management workshop(設定管理ワークショップ)が cfEngine・BCFG2・Puppet を生み、それが Chef・Ansible へとつながり、今日の Infrastructure as Code(IaC)/GitOps の源流になった。「言語は命令的か宣言的か」「システムはファイルを変更すべきかゼロから生成すべきか」「ステートフルかステートレスか」といった設計論争が、当時から白熱した議論として交わされていたことが記録される。著者自身も当時のワークショップで、学術的に完璧すぎて典型的なシステム管理者に普及しないシステムへの批判とモックアップ提示を行っており、そのアイデアは後に実製品へ反映されたと振り返る。(Source: §Radical idea #3)
### 4. システム管理は人間のプロセスである
LISA 初期には「ソフトスキル」(コミュニケーション・時間管理・会議運営)を教えるという発想自体が業界では異質だった。[[Evi Nemeth]] は 7 層プロトコルスタックの上に「財務層」「政治層」を加えた 9 層版 T シャツを販売し、この認識を象徴した。著者自身が LISA '97 で最初の「ソフトスキル」論文("Upgrading Yourself from System Clerk to System Advocate")を発表し、ソフトスキルのみを扱うチュートリアルクラスを最初に教えた人物でもある。チケットシステムの普及過程(「チケットシステムって何?」→「チケットシステムが必要だ」→「チケットシステムがないなんて信じられない」)という業界の変遷もこの人間的プロセスの一部として語られる。(Source: §Radical idea #4)
### 5. オープンシステムは未来である
DECNET・IPX・AppleTalk・OSI プロトコルのような非 IP プロトコルが乱立していた時代に、LISA は TCP/IP と POSIX(Unix)の優位性を早くから見抜いていた。現在 50 億人以上が(意識せずとも)TCP/IP を日常的に使っている。(Source: §Radical idea #5)
## LISA の良い面と悪い面
LISA はドレスコードのない最初の専門カンファレンスであり、LGBT フレンドリーな文化を持っていた。LISA が始まった当時は LGBT であることを理由に解雇することが合法だった時代であり、夜間の Birds of a Feather(BoF)セッションには LGBT 枠が設けられ、後年には Woman in Technology BoF も高い参加率を誇った。一方で負の側面も率直に記録される——ZFS に関する論文を「話がうますぎる」という理由で却下し歴史的スクープを逃したこと、SAGE/LISA を USENIX から分離しようとして失敗しコミュニティを分断した計画、複数の議長が任期中に不運(交通事故・家族の死・予期しない転職等)に見舞われた「LISA 議長の呪い」。また Linux・Web アプリ・クラウド・DevOps といった新技術への抵抗感が LISA コミュニティ内に生じた背景には、「自分たちが何年もやってきたことが、あたかも新しいものであるかのように再ブランディングされる」ことへの不快感があったと分析する。(Source: §"LISA: The good and the bad")
## 著書 The Practice of System and Network Administration
著者は [[Christine Hogan]] との共著 [[The Practice of System and Network Administration]](TPOSANA)の構想を LISA 2000 でのインデックスカード方式のブレインストーミングから語り、2005 年に LISA Outstanding Achievement Award を受賞したことを報告する。(Source: §"Writing books")
## 未来
LISA の終了を業界の「思春期の終わり」に例え、SRE/DevOps の時代を「成人期」と位置づけて後継の SREcon への期待を語り、"See you at SREcon!" と結ぶ。(Source: §"The future")
## 出典
- Thomas A. Limoncelli, "LISA made LISA obsolete (That's a compliment!)", *;login: online*, USENIX, 2022-10-27. https://www.usenix.org/publications/loginonline/lisa-made-lisa-obsolete-thats-compliment