# A Review of Data Centers Energy Consumption and Reliability Modeling
> [!abstract] 概要
> データセンターの効率と信頼性を高めることは、データセンター運用においてエンドユーザーへのサービス品質を維持するための技術的課題である。データセンター構成要素のエネルギー消費モデルは、内部設備の最適設計とデータセンターのエネルギー消費の抑制を確実にするために極めて重要である。データセンターの信頼性モデリングもまた重要であり、それはエンドユーザーの満足度がデータセンターサービスの可用性に依存するためである。本レビューでは、データセンターのエネルギー消費モデリングと信頼性モデリングに関する最新動向(state-of-the-art)と研究ギャップを識別し、それらがデータセンターの設計・計画・運用に関する将来の研究に有益となりうることを示す。IT(情報技術)・IPCS(内部電源調整システム)・冷却負荷区画という主要な負荷区画におけるデータセンター構成要素のエネルギー消費モデルは体系的にレビューされ分類され、それによって異なる用途に対する各モデルの利点と欠点が明らかになる。この分析と関連知見に基づき、モデルパラメータと変数の入手可能性は精度よりも重要であり、エネルギー消費モデルはデータセンターの信頼性研究においてしばしば必要とされると結論づけられる。さらに、IPCSの消費モデリングに関する研究の不足が識別され、IPCSの電力損失は信頼性問題を引き起こしうるためデータセンター設計において重要視されるべきである。データセンター信頼性分析に関するレビューが存在しないことが識別され、これが本稿がデータセンター信頼性評価の側面をレビューする動機となっており、それはデータセンターにおける新技術・新設備の導入を確実にするために必要である。信頼性指標・信頼性モデル・方法論の最新動向は本稿で初めて体系的にレビューされ、方法論は解析的アプローチとシミュレーションベースアプローチの2群に分けられる。データセンター冷却区画の信頼性分析とデータセンター構成要素の故障データに関する研究が不足していることが識別された。加えて、データセンターの信頼性分析における異なる負荷区画間の依存関係も含まれ、データセンターのサービス信頼性がIPCSと冷却区画によって影響を受けることが示される。
## 論文情報
- タイトル: A Review of Data Centers Energy Consumption and Reliability Modeling
- 著者: Kazi Main Uddin Ahmed(Graduate Student Member, IEEE)、Math H. J. Bollen(Fellow, IEEE)、Manuel Alvarez(Member, IEEE)
- 所属: Electric Power Engineering, Luleå University of Technology, Skellefteå, Sweden
- 媒体: IEEE Access, vol. 9, pp. 152536-152559, 2021(2021-11-02 出版、CC BY 4.0)
- DOI: 10.1109/ACCESS.2021.3125092
## 概要
データセンターの負荷区画(IT・IPCS・冷却)のエネルギー消費モデルと、データセンターの信頼性モデリング(指標・手法論)を体系的にレビューした論文である。査読済み文献193本を対象とし、特にデータセンター信頼性分析に特化したレビューが従来存在しなかった点を埋めることを主眼とする。
## 問題設定
クラウドサービス拡大に伴いデータセンターの規模とエネルギー需要が増大する一方、エネルギー効率向上とサービス信頼性維持はトレードオフの関係にある操作上の課題である。著者らはIDC(International Data Corporation)の報告を引用し、世界のデータ通信・デジタルサービス需要が2022年までに42,000エクサバイトに倍増すると見込まれることを背景に挙げる。米国データセンターは2016年時点で年間約83億kWhを消費(1テラバイトあたり27.7kWh、CO2排出量約35kg)し、2010〜2018年にサーバー台数は30%、仮想マシン数は550%増加した。世界のデータセンターのエネルギー需要は同期間に194TWhから205TWhへ拡大し、CO2排出量は2030年までに7.2億トンに達すると予測されている[4]。
Web of Scienceの調査によれば2005〜2020年の間に少なくとも56本のレビュー論文が公開されているが、「データセンターの信頼性・可用性モデリング」を扱うレビューは見つからなかった。著者らは"energy consumption and management"と"reliability assessment"のキーワードでGoogle Scholar・Web of Science・IEEE Xplore・ACM Digital Library・Citeseer・ScienceDirect・SpringerLink・SCOPUSを検索し、Systematic Literature Review(SLR)手法[11]に基づき193本の関連論文を分析した。
**Figure 1: データセンターに関するWeb of Science索引付き出版統計(2021年2月27日時点でのデータ収集)**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig01-publication-trend-all.png]]
(Figure 1. データセンターのエネルギー効率・信頼性に関する出版数の全期間推移。近年になるほど出版数が急増している。)
**Figure 1b: データセンター信頼性に関する出版統計**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig01b-publication-trend-reliability.png]]
(Figure 1b. データセンター信頼性を扱う論文数の年別推移。エネルギー効率に関する論文数より少なく、2016年以降は減少傾向にあることが、データセンター信頼性モデリングのSLRを行う動機の一つとされる。)
## レビューの構成(taxonomy)
**Figure 2: データセンターのエネルギー消費・信頼性モデリングの分類法(taxonomy)**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig02-taxonomy.png]]
(Figure 2. データセンターエネルギー消費モデリングを「インフラ中心」と「ソフトウェア中心」の観点、信頼性モデリングをTier分類・信頼性指標/手法・負荷区画間依存性の観点で整理した全体構成図。)
データセンターは3つの主要負荷区画から構成される。IT負荷(サーバー・ストレージ・ネットワーク機器等、消費比率45%)、内部電源調整システム(IPCS: UPS・PDU・PSU、消費比率8%)、冷却・環境制御区画(消費比率38%、ネットワーク機器5%含む残余で合計100%)である。
**Figure 3: 典型的なデータセンターの内部構造**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig03-dc-internal-structure.png]]
(Figure 3. ユーティリティ供給・再生可能エネルギー・バックアップ発電機からUPS・PDU・PSUを経てラック内サーバーへ電力が供給され、CRACによる冷気/温気循環がラックを冷却する構成。)
**Figure 4: データセンターにおける電力消費比率の分析**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig04-power-consumption-proportion.png]]
(Figure 4. IT機器45%・冷却負荷38%・電源調整設備8%・ネットワーク機器5%・building switchgear/protection 3%・照明1%という典型的なデータセンターの電力消費内訳。[8], [24])
## レビュー対象の既存レビュー論文の整理
**Table 1. 主要な貢献に基づく既往レビュー論文の要約**
| レビュー対象 | 参考文献 |
|---|---|
| データセンターの気流制御・分配・管理 | [12]–[22] |
| データセンター構成要素の数値負荷モデリング | [6], [14], [23]–[29] |
| エネルギー消費モデルの提案と実験検証 | [6], [25] |
| データセンター性能評価手法(性能指標含む) | [13], [16], [23], [30], [31], [28] |
| データセンター負荷区画の動的挙動 | [6] |
| 運用コスト分析 | [30], [32], [33] |
| 効率的運用を含む省電力技術 | [24], [26], [31], [34]–[38] |
| 計算負荷・データトラフィック管理/制御による省エネ | [39]–[43] |
| データセンター資源のスケジューリング・管理 | [38], [40], [44]–[49] |
| データセンターアーキテクチャ評価 | [23], [28], [37], [41] |
「データセンター信頼性・可用性モデリング」を扱うレビュー論文は見つからなかった、という点が本稿の存在意義になっている(Table 2 は既往レビュー論文の被引用数一覧であり、傾向確認のための表であるため転記は省略する)。
## IT負荷区画のモデル(サーバー電力消費モデル)
サーバーはIT負荷区画で最も電力を消費する構成要素であり、著者らはサーバー電力消費モデルを次の4群に分類する。
**Figure 5: サーバーの構成要素別エネルギー消費割合**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig05-server-component-consumption.png]]
(Figure 5. CPU 32%、周辺スロット20%、伝導損失15%、メモリ14%、マザーボード10%、ディスク5%、冷却ファン4%というサーバー内訳。[23], [24])
### 1) 加算型電力モデル(Additive Power Models)
サーバー各構成要素の電力消費の総和として表現するモデル群。最も単純なモデルは CPU とメモリのみを考慮し(式: `E_server(A) = E_CPU(A) + E_mem(A)` [62])、以降のモデルはディスク・NIC・I/O等を段階的に追加する(`P_server = P_base + P_CPU + P_disk + P_net + P_mem` [66])。
**Table 3. 文献に見られる加算型サーバー電力モデルの要約**
| 式 | 限界 |
|---|---|
| `E_server(A) = E_CPU(A) + E_mem(A)` [62] | 特定ワークロード A に固有で、数千台規模の大規模構成には適用しにくい[63][69]。ただしプロトタイプのベンチマークや実験結果分析には適する[62]。 |
| `E_server = E_CPU + E_mem + E_I/O` [63] | マザーボードが小型化した現行プラットフォームでは構成要素個別の電力測定が困難[64]。 |
| `E_server = E_CPU + E_mem + E_disk + E_NIC` [64][70] | より多くの構成要素を考慮するがファンとマザーボード消費を無視しており[65][71]で批判されている。 |
| `P_server = ΣP_mb + ΣP_Fan + ΣP_PSU` [72] | PSU消費をサーバー消費に含めているが、実際にはPSUはIPCSの一部である。[52]で修正を加えた類似手法が使われている。 |
### 2) ベースライン・アクティブ(BA)モデル
サーバー電力を待機時のベースライン電力 `P_base` と、CPU・メモリ・I/O等の稼働負荷に応じたアクティブ電力 `P_active` の和として表す(`P_BA = P_base + P_active + P1`、式(5))。
**Table 4. 文献に見られるベースライン・アクティブモデルの要約**
| 式 | 限界 |
|---|---|
| `P_server = P_base + Σ P_i^VM`(VMごとの重み付き利用率を含む)[74] | VMはハードウェア電力計に直接接続できず、`P_M^VM`はサーバー利用率の関数として計算される。 |
| `P_server = P_fix + P_var` [75] | 冷却区画の電力消費をサーバー電力に加算し、クラウドシステム向けに提案・検証されたモデル。 |
| `P_server = P_IT + nP_pump + mP_fan` [76] | 液冷サーバーにのみ厳密に有効なモデル。 |
| `P_server = P_IT + P_fan` [53] | `P_IT`と`P_fan`は実験値に基づく回帰モデルからさらに導出される。 |
### 3) 回帰モデル
CPU・メモリ・ストレージ等の性能カウンタと電力消費の相関に基づく「Power Law モデル」で、2010〜2014年に普及した。回帰モデルは動的電力使用量を誤差5%未満で予測できる一方[78]、非線形モデルでは誤差が約1%まで下がる場合がある[23]。単純回帰・多重回帰・非線形モデルの3群に分類される。
**Table 5. 文献に見られる単純回帰モデルの要約**
| 式 | 限界 |
|---|---|
| `P_s[t1,t2] = P_idle + (Conn_s[t1,t2]/Conn_Max_s)(P_max_s - P_idle)` [81] | CDN向けに提案されたモデルでリアルタイム検証が難しく、接続数データが一般には入手しづらい。 |
| `P_n = P_n^0 + (P_max - P_n^0)(r_n/r_n^*)` [60] | グッドプット比に基づくモデルで仮想化サーバー向けに検証済み。 |
| `P_λ = (λ/μ)(P_CPU + P_other) + (1 - λ/μ)P_idle` [82] | 比 λ/μ はサーバー利用率を表し(6)式と等価。 |
| `P(u) = k・P_max + (1-k)・P_max・u` [83] | k はアイドル状態の消費電力比であり CPU 利用率 u に依存するため測定が難しい。 |
多重回帰モデルの代表例として、CPU・メモリ・ディスク・ネットワークの利用率を組み合わせる式(8)〜(11)、CPU温度を追加したWitkowski et al.[89]による式(11)の拡張がある。
### 4) 利用率ベースモデル
CPU利用率を主要な指標とし、最も基本的な形は `P_server = P_idle + (P_active - P_idle)・u`(式6)である。CPUの温度・電圧・周波数から導かれる基礎的な回路電力モデル `P(f) = c0 + c1・f^3`(式15)、`P_dyn = ACV^2f`(式16)も紹介される。1Wの節電がサーバーレベルで1.5W、システム全体で最大3Wの節約につながるとされる[97]。
**Table 6. 電力消費モデルの応用・利点・欠点**
| モデル群 | 応用 | 利点 | 欠点 |
|---|---|---|---|
| 加算型 | VM配置コストモデル、データホール全体のエネルギー消費シミュレーション(EnergyPlus/OpenStudio)[102]、サーバー電力消費最適化[62][63] | 大規模構成のサーバー電力予測に広く利用でき他区画にも拡張可能[103] | CPU・メモリ・ファン等、複数のモニタリングパラメータが必要 |
| ベースライン・アクティブ | データセンターレベルの負荷分散・QoS監視の確率的プログラム定式化[104]、IT負荷とQoSのバランス管理[105]、CPU支配型サーバーの電力推定・冷却負荷計算[73][74] | 稼働電力のみを監視すればよく、IT負荷と他区画(特に冷却)の消費を関連付けやすい | CPU支配的でないシステムでは予測誤差が大きく、部分的な利用率域・サーバー種別に限定される |
| 回帰モデル | データセンターのエネルギー消費モデリング[106]、モバイルエッジ環境の消費最適化[107][108] | エネルギー管理・最適化用途でIT負荷区画をモデル化しやすい | 特定の実験構成に基づくモデルが多い |
| 利用率ベース | VM配置・資源予測の最適化[109]、VMの動的統合、資源利用率向上、SLA評価[110]、全体消費監視・省エネ(IT負荷[58][96]、他区画[8][52]) | 異なるワークロードのサーバー電力傾向を捉えやすく他用途に関連付けやすい | 回帰モデル同様、サーバー電力の精密な予測には不向き |
**Table 7. データセンター負荷区画モデリングのレビュー対象と参考文献の要約**
| レビュー対象 | 参考文献 |
|---|---|
| 電力消費モデルの応用 | 10, 25, 28, 33, 51-61 |
| IT負荷モデル | 23, 24, 39-41 |
| サーバー消費モデル | 8, 23, 53, 58, 60, 62-68, 70-96 |
| 1. 加算型電力モデル | 62-68, 70, 72 |
| 2. ベースライン・アクティブ(BA)電力モデル | 53, 73-76 |
| 3. 回帰モデル | 23, 74, 75 |
| a. 単純回帰モデル | 60, 73, 78-83 |
| b. 多重回帰モデル | 73, 84-90 |
| c. 非線形モデル | 58, 78, 83, 91, 92 |
| 4. 利用率ベースモデル | 58, 78, 81, 83, 93-96 |
| サーバー電力消費モデルの重要性 | 8, 23, 97-101 |
| サーバー電力消費モデルの応用・利点・欠点 | 52, 62, 63, 73-74, 102, 110 |
| 内部電源調整システムモデル | 8, 18, 52, 53, 111-115, 121 |
| 冷却区画モデル | 112, 122-124, 128, 133 |
| 1. CRAC ユニットモデル | 52, 125-131 |
| 2. チラー・冷却塔消費モデル | 18, 128, 132 |
## 内部電源調整システム(IPCS)モデル
IPCSはUPS・PDU・PSU、および保護・電力フロー制御機器(遮断器・自動切替スイッチ・バイパススイッチ等)から構成され、IT負荷区画へのQoSを保証する電力品質と信頼性を確保する[8][18]。
**Figure 6: IPCSの構成例**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig06-ipcs-diagram.png]]
(Figure 6. ユーティリティ供給・再生可能エネルギー・バックアップ発電機から主配電盤・UPS・PDU・PSUを経てラック内サーバーへ至る電力経路。[113])
PDUの電力損失は式(18) `P_PDU_Loss = P_PDU_idle + φ_PDU・(ΣP_server)^2` として表され、UPSは式(19) `P_UPS_Loss = P_UPS_idle + φ_UPS・ΣP_PDU` として表される。PDUは供給電力の3%を消費し[52][115]、常時接続によりアイドル損失が増加する[115]。480VACシステムにおけるPSUの効率(87.56%)はPDUの効率(94.03%)より低い[114]。
**Figure 7: IT負荷とIPCS機器の電力消費**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig07a-it-ipcs-consumption.png]]
(Figure 7a. 10,000台のサーバー(定格1kW、1000ラック、10MW)を想定したシミュレーションで、IT負荷の10,000kWに対しIPCS機器が1,301kW(約13%)を消費するという分析結果。[112][121]に基づく著者らの試算。)
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig07b-pdu-ups-psu-share.png]]
(Figure 7b. IPCS内訳としてPDUがIT負荷の7.3%、UPSが4.7%、PSUが1.0%(供給電力に対する負荷依存の損失と仮定)を消費するという内訳。PDUの電力損失がUPS・PSUより大きいと結論づけられる。[8][52])
## 冷却区画モデル
冷却・環境制御系はCRACユニットとチラー/冷却塔の2大要素からなる。CRACの電力消費は供給冷媒温度とCOPの関数として `P_CRACcool = Q_inlet / C_CoP`(式20)で表され、可変周波数駆動を用いたモデルでは `P_craci = P_craci,100・θ_i^2.75` という経験式が示される。気流量に基づくモデルでは `P_heat = 1.33×10^-5 × (P_sf^max/η_heat) × f`(式21)、`P_CRAC = P_idle_CRAC + P_heat`(式22)が示され、質量流量の3乗に比例するモデル `P_CRAC = P_CRACIdle + P_CRACDyn・f^3`(式23)も紹介される。チラーの電力消費は利用率の2次関数(式24)、または冷凍系電力を効率で除した形(式25)でモデル化される。冷却分配ユニット(CDU)を含む raised-floor 型冷却システムの加算モデルとして `P_rf = P_CRAC + P_cdu + P_misc`(式26)が示される。チラープラントは最大熱負荷 `P_sf^max` の少なくとも70%を処理できるよう設計されるべきとされる[132]。
## データセンター信頼性モデリング
信頼性は「特定の運用条件下で意図した期間にわたり機能を適切に遂行する確率」と定義され、修理可能なシステムでは可用性(availability)が信頼性指標として広く用いられる[135][136]。
### Tier 分類
Uptime Instituteが導入したTier分類は、電源供給経路の冗長性に基づきTier I(最低信頼性)からTier IV(最高信頼性)までの4段階でデータセンターの可用性を規定する[136][137]。2013年4月時点で236件のTier認証が発行された[139]。
**Figure 8: データセンターのTier分類**
![[_attachments/A-Review-of-Data-Centers-Energy-Consumption-and-Reliability-Modeling/fig08-tier-classification-pyramid.png]]
(Figure 8. Tier 1(小規模事業者、年間28.8時間ダウンタイム、冗長性なし)からTier 4(大企業、年間2.4分ダウンタイム、2N+1完全冗長)までの4段階ピラミッド。)
**Table 8. Tier分類要件の概要**[136]–[138]
| | Tier I | Tier II | Tier III | Tier IV |
|---|---|---|---|---|
| ユーティリティ供給(接続点) | 単一 | 単一 | 単一 | 二重 |
| バックアップ発電機台数 | 任意 | N | N+1 | 2N |
| バックアップ系統(UPS) | N | N+1 | N+1 | 2N |
| 保守 | 停止して保守 | 停止して保守 | 無停止で保守可能 | 障害許容 |
| 可用性 | 0.999947 | 0.9999512 | 0.9999791 | 0.9999976 |
| 可用性(9の数) | 4 | 4 | 4 | 5 |
このTier分類が用いる決定論的手法は、系統電源の停止確率・IPCS構成要素ごとの異なる故障率・電源供給経路のランダムな故障モードを考慮していない、と著者らは指摘する。さらに、電源経路の冗長化が共通モード故障(common mode failure)によりかえって可用性を低下させうること(ラックレベルPSUの共通モード故障の影響は[113]で分析)、単一故障点(PDU等)のみを想定した二重給電PDUも電源容量不足により給電に失敗しうること([8]で議論)、決定論的な一定故障率・修理率を仮定した解析は実際の大規模・複雑なIPCSの不確実性を捉えられないことが、Tier分類の前提の限界として挙げられる。
### 信頼性指標
IT負荷区画向けにはQoS・KQI・KPI、MTBF・MTTR・可用性・信頼性、rack-levelの"loss of workload probability (LOWP)"[113]などが用いられる。サービス可用性は式(27) `A_Service = t_up / (t_up + t_down)` で表される。DPM(Defects Per Million Operation)は式(28) `R_DPM = (O_f/O_a)×1,000,000` で定義され、サービス信頼性 `r_Service = 100% - R_DPM/1,000,000` として表される。IPCS区画向けにはMTBF・MTTR・可用性・severity・risk(財務損失換算)の5指標が[136]で示される。冷却区画向けには操作可用性 `A_O(∞) = 1/(λ_sys/μ_sys + 1)`(式29)、機能可用性 `A_f(∞) = A_O(∞)(1-p_us) + (1-A_O(∞))p_t`(式30)、信頼性重要度指標 `I_i = R_s(U_i,p_i) - R_s(D_i,p_i)`(式31)が紹介される。
**Table 9. データセンター信頼性分析のレビュー対象と参考文献の要約**
| レビュー対象 | 参考文献 |
|---|---|
| データセンターのTier分類 | 8, 113, 136-140 |
| 信頼性モデリングで考慮すべき要因 | 7, 136, 141 |
| 信頼性モデリングに用いる指標 | 7-9, 101, 113, 136, 142-154 |
| 1. IT負荷・サービス向け信頼性指標 | 7, 8, 101, 113, 142-151 |
| 2. IPCS区画向け信頼性指標 | 8, 114, 136 |
| 3. 冷却区画向け信頼性指標 | 9, 152-154 |
| 信頼性モデリングに用いる方法論 | 9, 135, 148, 152-186 |
| 1. 解析的アプローチ | 9, 148, 152, 154, 157-176 |
| 2. シミュレーションベースアプローチ | 135, 156, 176, 178-186 |
| 負荷区画・サブシステムの依存性(dependability) | 8, 32, 101, 113, 147-148, 187-193 |
### 信頼性モデリングの方法論
解析的アプローチではReliability Block Diagrams(RBD)や故障木解析(fault tree analysis)が計算量の少なさから広く用いられ、Dynamic RBDへの拡張[169]やcolored Petri netとの比較検証も行われている。シミュレーションベースアプローチではMarkovモデル・Markov chain Monte Carlo(MCMC)・Monte Carloシミュレーション・stochastic petri netsが用いられ、Tier IVデータセンターは5〜6ナイン(100万回の確率事象のうちごくわずかな故障事象)の可用性を要求されるため、故障モードの精度が重要になるとされる。
### 負荷区画間の依存性(dependability)
冷却区画への依存性分析では、電気・冷却・ネットワークの3サブシステムの可用性がデータセンター全体の信頼性に与える影響が分析され[148]、周囲温度10°Cの上昇でIPCSのバッテリ寿命が50%低下し、サーバー内の受動素子(コンデンサ等)の寿命も同様に50%低下することが示されている[147]。IPCSへの依存性分析では、IPCSの電力損失によりサーバー故障可能性が設置容量の20%に達しうること[8]、電気的故障・意図しない停止により極端な場合には設置サーバーの33%が稼働不能になりうること[101]が示されている。
## 限界と今後の課題
著者ら自身が本稿で扱わなかった点として次を挙げている。
- エネルギー管理技術(データセンター効率改善のための手法)自体は対象外で、構成要素のエネルギー消費モデルのみを扱う。
- 再生可能エネルギー生成やフリークーリング等の持続可能なグリーン技術がエネルギー消費モデリングに与える影響は今回のスコープ外(将来分析予定)。
- Monte Carlo・MCMC・stochastic petri nets等シミュレーション手法の詳細な数理モデルは対象外で、データセンター信頼性評価への応用のみをレビューしている。
## 結論と提言
著者らは、エネルギー消費モデルのパラメータ・変数の入手可能性を精度より重視すべきこと、IPCSの消費モデリング研究の不足、データセンター運用向けの標準規格の必要性(Tier分類と併せて)、冷却区画の信頼性分析への注力、構成要素の統計的故障・修理データの公開の必要性(データセンター事業者は機密保持傾向が強く、こうしたデータが乏しいことが課題[176])を提言している。
## 強み / 弱点・課題
- **強み**: データセンターエネルギー消費モデル(4分類・数十本の文献)とデータセンター信頼性モデリング(初のレビュー)の両方を統一的なtaxonomyの下で扱い、負荷区画間の相互依存(エネルギー消費モデルが信頼性評価にどう使われるか)まで踏み込んでいる。
- **弱点・限界**(著者ら自身の言及に基づく): エネルギー管理技術・グリーン技術・シミュレーション手法の数理的詳細を対象外としている。193本の文献を分析したとしても、関連する全論文の網羅を保証できないと著者ら自身が明言している。データセンター構成要素の故障・修理データの公開の乏しさは、レビュー対象文献自体が抱える構造的な限界として指摘されている。