# Human Factors – as "Imagined" Navigation: [[index]] | [[overview]] ## 概要 [[Erik Hollnagel]] による、ある人間工学(Human Factors)ワークショップの2日目セッション「Work-as-Imagined and Work-as-Done: The Nitty Gritty of Human Factors」の講演資料(全21ページ)。「人間工学がどのように『想像』されてきたか(as Imagined)」という副題のとおり、産業革命(1698年)から2017年現在に至るまで、"人間要因" という概念そのものが各時代の技術水準に応じてどう再定義されてきたかを歴史的に辿り、最後にその歴史観自体への批判を提示する。アジェンダスライド(p.2)によれば、本講演の後に [[Sebastian Daeunert]](フランクフルト・タワー、DFS の事故調査官)による実務事例発表 "Work-as-Imagined and Work-as-Done – Improving Runway Ops" が続く2部構成のセッションである。 ## 主要メッセージ - 人間工学は「人間が問題になる」という前提そのものが歴史的な構築物であり、技術と人間能力の関係が変化するたびに再定義されてきた(p.3, p.60)。 - 前産業期(pre-industrial)から産業革命(1698年)までは、技術が単純・線形・疎結合であったため人間要因は問題にならなかった(p.4)。 - IT革命(1945年)以降、技術要求が人間の能力(human capacity)を上回る「需要-能力ギャップ」(demand-capacity gap)が生まれ、人間工学が「人間の限界を克服する」という発想(訓練・設計・自動化)として出発した(p.8-10)。 - 1984年のNormal Accident Theory(Perrow)以降、人間は「弱いリンク(weak link)」とみなされ、人間工学は人間を排除・制約することで安全を達成しようとする発想に転じた(p.15-19)。 - 産業の複雑化への解決策は、1910年から2017年まで一貫して「さらに高度な技術で対処する」という同型パターンを反復してきた(p.19)。 - Hollnagelは最終的に、この「人間要因」という発想自体が、単一要素への分解によって問題を解決しようとする単純化であり、人間を「工学的に設計しなおせる信頼できる機械」とみなす誤った前提に立っていると結論づける(p.21)。 ## 視覚的に重要な図表 **p.4 前産業期と産業革命後の対比図** ![[_attachments/5049/page-004.png]] 産業革命(1698年)を境に「個人」から「些末な(線形)システム」へ移行したことを示す帯グラフ。技術が単純・疎結合であった前産業期には人間要因が問題化しなかった理由(システム規模・部品数の少なさ、線形性、手作業中心、緩慢な処理、疎結合な人工物)を右側に列挙する。 **p.8 需要-能力ギャップの成長曲線** ![[_attachments/5049/page-008.png]] 横軸を年代(~1000年・~1800年・~1950年)、縦軸を能力・需要とし、一定の「人間の能力(human capacity)」の水平線に対し「技術的能力と需要」の曲線が1945年以降に急激に交差・上回る様子を描く。この交差が「人間は不正確・可変・遅い」という認識の起点になったとする。 **p.15 複雑・密結合系のマトリクス(Perrow, Normal Accidents)** ![[_attachments/5049/page-015.png]] Charles Perrow『Normal Accidents』の相互作用性(線形〜複雑)×結合度(疎〜密)の2軸マトリクスを引用し、原子力発電所・航空機・化学プラントを「密結合・複雑」象限に、郵便局・組立ラインを「疎結合・線形」象限に配置する。「複雑なシステムを持つのは、線形システムで出力を生み出す方法を知らないからだ」という引用とあわせ、複雑性が技術の必然的な副産物であることを示す。 **p.17 変動性を制約によって克服する図式** ![[_attachments/5049/page-017.png]] 「機能(Function)→成功(Success, 事故ゼロ)」という望ましい経路と、「機能→(緩慢な逸脱・急激な移行)→機能不全(根本原因)→失敗(事故・インシデント)」という望ましくない経路を対比し、バリア・規制・手順・標準化・規範による「個人・チーム・組織」への制約(赤いハッチング帯)が安全をパフォーマンスの制約によって達成しようとする発想であることを図示する。 ## 概念・実体への接続 - [[Erik Hollnagel]] — 本資料の単著者。人間工学史を「想像された(as Imagined)」ものとして相対化する視点は、同氏の Safety-I/Safety-II 論・「置き換えの神話」批判と地続き。 - [[Work-as-Imagined と Work-as-Done]](新規concept) — 本資料の副題そのものである WAI/WAD 概念の起点。 - [[レジリエンスエンジニアリング]] — 未解決の問いに「RE の『成功の条件を調べる』アプローチ(Work-as-Imagined vs. Work-as-Done)を SRE のポストモーテムに体系的に導入した事例の定量的評価はあるか」とあり、本資料はその起点となる一次資料。 - [[Safety-II]] — 「人間を排除・制約すべき信頼性の低い構成要素」とみなす post-NAT期の発想(p.15)は、Safety-I的発想の歴史的背景を与える。 - [[事故モデル]] — p.15のPerrowマトリクスはNormal Accident Theoryの図解であり、Hollnagelの単純線形/複雑線形/システミックという事故モデル3分類(→ [[wiki/entities/Resilience Engineering|Resilience Engineering: Concepts and Precepts]] 第1章)の歴史的文脈を補う。 - [[機能配分]] — p.11-12「Solutions: training – design – automation」は、Fitts(1951)のMABA-MABAリストを引用し、人間の機能配分思想の一次資料となる。 - [[Sebastian Daeunert]](新規entity) — 本講演の後に続く実務発表者。フランクフルト・タワー(DFS)の事故調査官。 ## 限界・不確実点 - 本資料はskybrary.aero の bookshelf に置かれたPDF単体であり、専用の公式ランディングページ・登壇イベント名・正確な開催日は確認できなかった。ワークショップのアジェンダスライド(p.2)から「人間工学ワークショップの2日目14:00〜17:00」というセッション構成は判明するが、開催地・主催組織・年内の正確な日付は特定できない。`date_published` は資料内の著作権表示「© Erik Hollnagel, 2017」のみを根拠に年単位の推定とし、`confidence: medium` とした。 - p.20「The ideal = Zero harm」スライドは組織名が画像内で黒塗り(マスク)されており、どの企業の安全ビジョンかは判読できない。 - 講演の音声・動画・文字起こしは提供されておらず、口頭説明・Q&Aは本ページに反映していない。