## 記事情報
- タイトル: Why Software Is Eating the World
- 著者: [[Marc Andreessen]]
- 媒体: [[Andreessen Horowitz]](a16z.com)
- 公開日: 2011-08-20
- URL: https://a16z.com/why-software-is-eating-the-world/
## 概要
Netscape 共同創業者で [[Andreessen Horowitz]] 共同創業者・ジェネラルパートナーの [[Marc Andreessen]] が 2011 年に発表したエッセイ。2000 年代末〜2010 年代初頭の Facebook・Twitter・Zynga 等の新興インターネット企業の評価額高騰が「新たなバブル」ではないかという当時の論争に対し、これらは実体を伴う高成長・高利益率企業であり、ソフトウェア企業があらゆる産業の大部分を代替しつつあるという広範な経済的転換の一環だと主張する。「Software is eating the world」というフレーズの初出であり、後年 VC 業界で繰り返し引用される定型句(ミーム)となった。
## 中心テーゼ
筆者の理論は、「ソフトウェア企業が経済の広範な領域を乗っ取りつつある、劇的かつ広範な技術的・経済的転換の最中にある」という一文に要約される。動画から農業、国防に至るまで、主要な事業・産業が今後ソフトウェアによって運営され、オンラインサービスとして提供されるようになる。多くの勝者はシリコンバレー流のスタートアップであり、既存の産業構造に侵入し覆す立場になると予測する。
## なぜ「今」起きているのか
記事は3つの技術的前提条件が同時に揃ったことを転換の理由として挙げる。
- **ブロードバンド Internet の普及**: 執筆当時、世界で20億人以上がブロードバンド Internet を利用しており、筆者が Netscape に在籍していた約10年前の 5,000万人から大幅に増加した。今後10年で少なくとも50億人がスマートフォンを持つと予測している。
- **スタートアップの起業コスト低下(クラウドの効果)**: [[Ben Horowitz|パートナーの Ben Horowitz]] が最初のクラウドコンピューティング企業 [[Loudcloud]] の CEO を務めていた 2000 年当時、基本的な Internet アプリケーションを1顧客が運用するコストは月額約 15万ドルだった。同等のアプリケーションを今日 Amazon のクラウドで運用すると月額約 1,500 ドルになる(約 100 分の1)。この起業コストの劇的な低下と、オンラインサービス市場の拡大が組み合わさり、世界経済が初めて全面的にデジタルで結びつく状況が生まれたと論じる。
## 論証の構造:産業別の事例
記事は具体的な産業を列挙し、各産業で「ソフトウェア企業」が既存プレイヤーに取って代わりつつあることを示す。数値の根拠は記事本文の記述による。
- **書籍**: 2001年、Borders はオンライン書籍販売を「非戦略的」と判断し、自社のオンライン事業を Amazon に譲渡する契約を結んだ。今日、世界最大の書店 Amazon はソフトウェア企業であり、実店舗を持たずにあらゆるものをオンライン販売するソフトウェアエンジンがその中核能力である。Borders が経営破綻に瀕する一方で、Amazon は自社サイトで初めて Kindle 電子書籍を紙の本より優先する配置に変更した。
- **映像**: 契約者数で今日最大の動画サービスは [[Netflix]] であり、ソフトウェア企業である。Netflix が Blockbuster を駆逐した経緯はよく知られており、Comcast や Time Warner などの既存事業者も TV Everywhere のような取り組みでソフトウェア企業への転換を進めている。
- **音楽**: Apple の iTunes、Spotify、Pandora が今日の主要音楽企業であり、いずれもソフトウェア企業である。デジタルチャネル経由の業界収益は 2010 年に 46億ドルに達し、総収益に占める割合は 2004 年の 2% から 29% へ成長した。
- **ゲーム**: 娯楽産業で最も急成長しているのはビデオゲーム企業であり、業界規模は5年前の300億ドルから600億ドルへ成長した。FarmVille などを手がける Zynga はオンライン専業で配信しており、第1四半期の収益は前年から倍増して2億3,500万ドルに達した。Angry Birds の Rovio は同年1億ドル超の収益が見込まれる(iPhone に Angry Birds を投入した 2009年末時点ではほぼ倒産寸前だった)。一方、Electronic Arts や Nintendo など従来型のゲーム企業は収益の停滞・減少に直面している。
- **映画**: Pixar は数十年で最良の新興映画制作会社であり、ソフトウェア企業だった。Disney はアニメーション映画分野で存在感を保つために、ソフトウェア企業である Pixar を買収せざるを得なかった。
- **写真**: 写真は既にソフトウェアに置き換えられており、Shutterfly・Snapfish・Flickr のような企業が Kodak の立ち位置に代わって台頭した。
- **広告・小売マーケティング**: 今日最大のダイレクトマーケティングプラットフォームは Google であり、ソフトウェア企業である。Groupon・Living Social・Foursquare 等がこれに続き、小売マーケティング産業をソフトウェアで置き換えつつある。Groupon は創業からわずか2年で 2010年に7億ドル超の収益を上げた。
- **通信**: 今日最も急成長する通信企業は Skype であり、Microsoft に85億ドルで買収されたソフトウェア企業である。米国3位の通信企業 CenturyLink(時価総額200億ドル)のアクセス回線数は年率約7%で減少しており、Qwest 買収による収益を除くとレガシーサービス収益は11%超減少した。一方、AT&T と Verizon はスマートフォンメーカーとの提携によりソフトウェア企業へと転換することで生き残っている。
- **人材採用**: [[LinkedIn]] は今日最も急成長する採用企業である。従業員が自身の履歴書をリアルタイムで採用担当者に検索させられる仕組みにより、4,000億ドル規模の採用産業を置き換える機会を得ている。
## 物理世界の産業への波及
記事は、主に物理世界に存在すると見なされてきた産業でもソフトウェアが価値連鎖の大部分を担いつつあると指摘する。
- **自動車**: エンジン制御・安全機能・エンターテインメント・ナビゲーション・モバイル/衛星/GPS ネットワークとの接続にソフトウェアが使われ、ハイブリッド・電気自動車への移行がこの傾向を加速させる。Google と主要自動車メーカーによる自動運転車の開発も既に進行中と記述される。
- **小売物流**: 今日を代表する実店舗小売業者 Wal-Mart は物流・配送能力にソフトウェアを活用して競合を凌駕してきた。FedEx も「トラック・飛行機・配送拠点が付随するソフトウェアネットワーク」と捉えるのが適切だとされ、航空会社の成否も運賃設定・路線最適化のソフトウェア能力に懸かる。
- **資源・農業**: 石油・ガス企業はスーパーコンピューティングとデータ可視化・分析の早期採用者であり、今日の資源探査に不可欠である。農業も土壌の衛星分析と作付け選定アルゴリズムによりソフトウェア主導が進む。
- **金融**: 過去30年で金融サービス産業はソフトウェアにより目に見える形で変革されてきた。コーヒー1杯の決済から1兆ドル規模のクレジットデフォルトデリバティブ取引まで、事実上すべての金融取引がソフトウェアで処理される。Square や [[PayPal]](当該四半期に前年比31%増の10億ドル超の収益)が代表例として挙げられる。
- **医療・教育**: 筆者は医療と教育を次にソフトウェアによる根本的変革を迎える産業と位置づけ、自身のベンチャーキャピタル(a16z)がこの2分野の意欲的なスタートアップに投資していると述べる。
- **国防**: 現代の戦闘兵士は情報・通信・兵站・武器誘導を提供するソフトウェアの網に組み込まれており、ソフトウェア駆動のドローンが人間パイロットを危険にさらさずに空爆を実行し、情報機関はソフトウェアによる大規模データマイニングでテロ計画の追跡を行っていると記述される。
## 既存ソフトウェア企業への含意
ソフトウェア革命はソフトウェアベースの既存産業自体にも及ぶ。Oracle や Microsoft のような有力な既存ソフトウェア企業も、Salesforce.com や Android(Google 自身がハンドセットメーカーを所有する状況下で)のような新興ソフトウェアに置き換えられる脅威に直面していると述べる。石油・ガスのように現実世界の要素が大きい産業では、ソフトウェア革命は主に既存企業にとっての機会となる一方、多くの産業では新しいソフトウェアの発想がシリコンバレー流の新興企業の台頭を招き、既存企業との攻防が今後10年で激化すると予測する。この構図を、"creative destruction"(創造的破壊)という語を生んだ経済学者 Joseph Schumpeter になぞらえている。
## 課題として挙げられている点
筆者はこの転換に伴う3つの課題を挙げる。
1. **経済的逆風**: 当時の新興企業は1990年代よりも厳しいマクロ経済の逆風の中で構築されており、その中で成功する企業はより強靭になり、経済が安定すれば一層速く成長すると論じる。
2. **教育・人材不足**: ソフトウェア革命に参加するための教育・スキルが米国内外で不足している。シリコンバレーの有能なエンジニア・マネージャー・マーケター・営業担当者は複数の高待遇オファーを得られる一方、全国的な失業・不完全雇用は高止まりしている。既存産業でソフトウェアによる破壊の「負け組」側に取り残された労働者は、自らの分野で二度と働けなくなる可能性すらあると指摘し、教育以外にこの問題を解決する道はないと述べる。
3. **新興企業自身の実証責任**: 新興企業は強い企業文化を築き、顧客を満足させ、独自の競争優位を確立し、上昇する評価額を正当化する必要があり、それは決して容易ではないと釘を刺す。
## 結び
筆者は、評価額の是非を問い続けるのではなく、新世代のテクノロジー企業がどのように事業を行っているか、それが企業や経済にどのような広範な帰結をもたらすか、そして米国内外でイノベーティブなソフトウェア企業を増やすために何ができるかを理解することに焦点を移すべきだと結論づける。