# A Break in the Clouds: Towards a Cloud Definition > [!abstract] 概要 > 本稿は、クラウドコンピューティングとは何かを完全に定義することを目指して、このパラダイムに通常結び付けられる主な特徴を文献に基づいて論じる。20 を超える定義を調べ、合意的な定義と、本質的な特徴を含む最小の定義を抽出した。本稿はグリッドのパラダイムに特に注意を払う。グリッドはクラウド技術としばしば混同されるためである。また、グリッドとクラウドの関係と相違も述べる。 ## 論文情報 - タイトル: A Break in the Clouds: Towards a Cloud Definition - 著者: [[Luis M. Vaquero]], [[Luis Rodero-Merino]], [[Juan Caceres]](以上 [[Telefónica Investigación y Desarrollo]])、[[Maik Lindner]]([[SAP Research]]) - 媒体: ACM SIGCOMM Computer Communication Review, Vol. 39, No. 1(2009 年 1 月号、pp. 50-55)。査読を経ない編集者宛ての覚書(editorial note)として投稿されたと本文冒頭に明記されている。ファイル名の年は原本の整理上 2008 とした。 - 謝辞: EU FP7 RESERVOIR プロジェクト(#215605)の支援を受ける。 - キーワード: Cloud Computing, Cloud Definition, Grid ## 概要 クラウドの定義が文献ごとにばらついている状況を解消するため、20 超の定義を収集して特徴を抽出し、統合的定義と最小定義を導いた 6 ページの短報である。あわせて、混同されやすいグリッドとの違いを 12 の観点で表にして比較し、両者が仮想化とユーザビリティを軸に収斂すると論じる。定義は 2008 年時点のものであり、論文自身も「クラウドの概念はなお変化している」と断っている。 ## 問題設定 - クラウドは、「従量課金で資源へ透過的にアクセスでき、第三者が管理する無限かつ即時にスケールする基盤に依拠する」という考え方が繰り返し現れる一方、ハイプサイクルの「期待の過熱」段階にあり、ほぼあらゆるホスティング・計算資源のアウトソーシングを含む過度に一般的な用語になっていると著者らは見る。 - 既存の定義はどれも技術の一側面にしか注目していない。 - グリッドは Foster の定義が最も広く受け入れられているものの、どれも定着したとは言えず、明確な定義がなかったことが普及を妨げた可能性がある。クラウドで同じ轍を踏まないために、統一的な定義が要る。 ## 提案手法 手法と呼べるのは、定義の収集と特徴の抽出、およびその結合という文献整理である。 1. **アクターとシナリオの整理(§2、図1)**: サービス利用者、サービスプロバイダ(SP)、インフラストラクチャプロバイダ(IP)の 3 者を置く。IP は仮想化した資源を分割・割り当て・動的に拡縮し、SP はその上でサービスを運用する。提供する抽象度に応じて IaaS(SP へ仮想化インフラを提供)、PaaS(ソフトウェアプラットフォームを提供。例は Google App Engine)、SaaS(一般ユーザ向けのサービスをクラウド上でホスト)の 3 つのシナリオに分ける。 ![[wiki/sources/_attachments/2008__SIGCOMM__A-Break-in-the-Clouds-Towards-a-Cloud-Definition/fig01-cloud-actors.png]] Figure 1(図1)は、サービス利用者がサービスを利用し、SP がインフラストラクチャインタフェース経由でデプロイと管理を行い、IP 側は「インフラ管理」層が各ノードの仮想化層・OS・ハードウェアを束ねる構成を示す。 2. **定義の収集(§3、Table 1、表1)**: Geelan による専門家 21 人の定義集を中心に、Buyya、McFedries、Bragg らを加えた 22 件の定義を表にまとめる。 3. **特徴の抽出(Table 2、表2)**: 各定義から 10 の特徴を抽出する。ユーザフレンドリネス、仮想化、インターネット中心、資源の多様性、自動適応、スケーラビリティ、資源最適化、従量課金、サービス SLA、インフラ SLA である。SLA については Buyya らの「SP と利用者の間の SLA」に加え、SP と IP の間にも SLA が必要だと著者らが主張する。 4. **定義の提示**: 統合的定義は次のとおり。クラウドは、ハードウェア・開発プラットフォーム・サービスなどの、使いやすくアクセスしやすい仮想化資源の大規模プールである。資源は可変の負荷に合わせて動的に再構成(スケール)でき、最適な資源利用も可能にする。プールは通常、従量課金モデルで利用され、IP がカスタマイズされた SLA によって保証を与える。一方、全定義に共通する単一の特徴は無く、最小の共通項に最も近い集合は「スケーラビリティ・従量課金・仮想化」だとする。 5. **グリッドとの比較(§4、表3)**: Foster の定義(中央制御に属さない資源を標準・オープン・汎用のプロトコルで調整し、自明でない QoS を提供する系)を基準に、12 の観点で対比する。 ## 新規性 - 20 超の定義を一つの表に集め、特徴に分解したうえで、統合的定義と最小定義を分けて示した点。 - グリッドとクラウドの違いを、資源共有・異種性・仮想化・セキュリティ・高水準サービス・アーキテクチャ・ワークフロー・スケーラビリティと自己管理・ユーザビリティ・標準化・課金・QoS に分けて対照表にした点。 - 「クラウドの隔離によるセキュリティ」対「グリッドの資格情報の委譲によるセキュリティ」のように、両者の差を仮想化に帰着させて説明した点。 ## 実験設定 実験はない。分析対象は、2008 年 8 月時点の雑誌記事・ブログ・技術報告・会議講演を中心とした定義 22 件(表1)である。学術論文は Buyya らの論文など少数で、大半は業界の専門家の発言である。 ## 実験結果 定量的な結果はなく、主な成果物は次の表である。 - **表2(クラウドの特徴)**: スケーラビリティと従量課金が最も多くの文献(5 件)で挙げられ、次いで仮想化(4 件)、インターネット中心(4 件)が続く。インフラ SLA を挙げるのは 1 件のみで、著者らが重視する論点が既存定義では手薄なことが分かる。 - **Table 3(表3、グリッド対クラウド)**: 主な差は次のとおり。 - 資源共有: グリッドは協調(仮想組織)による公平配分、クラウドは割り当て済み資源を共有しない。 - セキュリティ: グリッドは資格情報の委譲、クラウドは隔離。 - 高水準サービス: グリッドは豊富、クラウドは未整備。 - アーキテクチャ: グリッドはサービス指向、クラウドは利用者が選ぶ。 - 制御の集中度: グリッドは分散、クラウドは(当時は)集中。 - 課金: グリッドは固定的、クラウドは柔軟。 - QoS: グリッドはベストエフォートに近く、クラウドは可用性と稼働時間に絞った限定的な保証。 - 異種資源の集約は両者に共通する。 - **収斂の見通し(§4.3)**: Next Generation Grids 専門家グループの構想を引き、グリッドが仮想化を取り込み、利用しやすい自動スケールのユーティリティへ向かうことをクラウドとの収斂と捉える。Amazon S3 は、CERN のデータグリッドと比べれば限定的なデータグリッドとみなせるとする。 ## 考察 - クラウドの鍵となる実現技術は仮想化であり、資源のオンデマンドな共有、隔離によるセキュリティなどの特徴の土台になる。 - 企業が機密データをクラウドに預けるにはセキュリティ強化が要り、企業が高い信頼を置くには QoS と SLA の履行が不可欠になる。 - Amazon の SLA(インフラ稼働率 99.9%)は初歩的な試みであり、同社の顧客契約は停電・システム障害などによる中断について免責している点を、著者らは指摘する。 - 各社が内部インタフェースを公開しないことが、クラウド間の相互運用とクラウドの世界的なフェデレーションを妨げると見る。仮想イメージ形式やインスタンス化・移行 API の標準化が要り、グリッドで培われた OGF の経験が役立つとする。 ## 強み / 弱点・課題 - 強み: 当時乱立した定義を短い紙幅で俯瞰でき、後続の議論(クラウドの特徴の列挙、グリッドとの違い)の出発点として引用しやすい。SP と IP の間の SLA という、利用者側 SLA だけでは見落とされる論点を明示した。 - 弱点: 査読を経ておらず、定義の大半が業界人の発言とブログ記事で、根拠の質にばらつきがある。「最小定義」は多数決に近く、なぜその 3 特徴が本質かの論証は薄い。グリッドとの比較(表3)も網羅的な実証ではなく、一般論の対照表である。 - 課題: 2008 年時点のクラウドは単一企業運営の集中型を前提としており、後のマルチクラウドやサーバレス、コンテナには当てはまらない。連合クラウド(フェデレーション)は展望にとどまる。 - 出典に無い記述は含めていない。表1・表2・表3 は本文中の表であり、要点のみ本ページに再構成した。 ## 関連 - 概念: [[クラウドコンピューティング]] / [[グリッドコンピューティング]] - エンティティ: [[Luis M. Vaquero]] / [[Luis Rodero-Merino]] / [[Juan Caceres]] / [[Maik Lindner]] / [[Telefónica Investigación y Desarrollo]] / [[SAP Research]] / [[Google App Engine]] / [[Amazon Web Services]] - 関連ソース: [[@2009__UCB TR__Above the Clouds - A Berkeley View of Cloud Computing]]