> [!abstract] 概要(Abstract 日本語訳)
> 2つのパラダイムが情報システム(Information Systems)分野の研究の多くを特徴づけている。行動科学と設計科学である。行動科学のパラダイムは、人間または組織の行動を説明または予測する理論を開発し検証しようとする。設計科学のパラダイムは、新規かつ革新的な人工物を創出することによって人間および組織の能力の境界を拡張しようとする。両パラダイムはいずれも IS 分野にとって基盤的であり、人々・組織・技術の合流点に位置づけられる分野の性質にふさわしい。我々の目的は、簡潔な概念的フレームワークと、理解・実行・評価のための明確なガイドラインを通じて、情報システムにおけるデザインサイエンス研究の遂行を記述することである。設計科学のパラダイムにおいては、問題領域とその解決策についての知識と理解は、設計された人工物の構築と適用のなかで達成される。研究文献における3つの最近の模範事例が、これらのガイドラインの適用を実演するために用いられる。我々は、より広い IS コミュニティの文脈における高品質のデザインサイエンス研究を遂行することの課題についての分析をもって結論とする。
## 論文情報
- タイトル: Design Science in Information Systems Research
- 著者: [[Alan R. Hevner]](University of South Florida)・[[Salvatore T. March]](Vanderbilt University, Owen Graduate School of Management)・[[Jinsoo Park]](Korea University)・[[Sudha Ram]](University of Arizona)
- 媒体: *MIS Quarterly*, Vol. 28, No. 1, pp. 75-105, March 2004(Research Essay。Allen S. Lee が accepting senior editor)
- キーワード: Information Systems research methodologies, design science, design artifact, business environment, technology infrastructure, search strategies, experimental methods, creativity(Source: p.75)
## 概要
行動科学とデザインサイエンスという2つの研究パラダイムを対比し、IS 研究がその両方を必要とすると論じたうえで、デザインサイエンス研究を理解・実行・評価するための概念的フレームワークと7つのガイドラインを提示する研究エッセイ。3つの模範論文にガイドラインを適用して具体的な運用方法を実演し、最後にデザインサイエンス研究の遂行に伴う課題を論じる。[[@1995__Decision Support Systems__Design and Natural Science Research on Information Technology]](March and Smith 1995)が提示した build/evaluate(デザインサイエンス)と theorize/justify(行動科学)の区別、および Simon の *The Sciences of the Artificial* を土台に、より実践的なガイドライン集として発展させたものである(Source: 本文中で March and Smith 1995 を繰り返し引用)。
## 問題設定
- **背景**: IS 研究は人々・組織・技術の合流点に位置し、行動科学(組織的・人間的現象を説明・予測する理論の開発)とデザインサイエンス(人間・組織の能力を拡張する人工物の構築)という2つの相補的だが異なるパラダイムによって知識が獲得される(Source: Abstract, p.76)。
- **課題**: デザインサイエンス研究をどう遂行し、評価し、伝達すべきかについて、IS 分野には簡潔で明確なガイドラインが欠けている。ルーチンなシステム構築(routine design)とデザインサイエンス研究を区別する基準も不明瞭である(Source: pp.81-82)。
- **必要なもの**: 研究者・査読者・編集者・読者が、デザインサイエンス研究の要件を理解するための概念的フレームワークとガイドラインが必要である(Source: p.82)。
## 提案手法
### 背景: 組織設計とIS設計の連携(Figure 1)
デザインサイエンス研究フレームワークの導入に先立ち、論文は組織における設計活動一般の重要性を、Henderson and Venkatraman (1993) の戦略アラインメントモデルを土台に位置づける。
**Figure 1: Organizational Design and Information Systems Design Activities**
![[_attachments/Design-Science-in-Information-Systems-Research/fig01-org-design-is-design-activities.png]]
(Figure 1. Business Strategy と Information Technology Strategy の間を Strategy Alignment(戦略アラインメント)が、Organizational Infrastructure と Information Systems Infrastructure の間を Infrastructure Alignment(インフラアラインメント)が結ぶ。上段の戦略層から下段のインフラ層へは、それぞれ Organizational Design Activities(組織設計活動)と Information Systems Design Activities(情報システム設計活動)が向かう。Henderson and Venkatraman (1993) の "Strategic Alignment: Leveraging Information Technology for Transforming Organizations" から翻案。Source: Figure 1, p.79)
- ビジネス戦略と IT 戦略、組織インフラと情報システムインフラの間には本質的な整合(alignment)関係があり、戦略をインフラへ効果的に転換するには、図の両側で広範な設計活動(組織設計・情報システム設計)が必要になる(Source: p.78)。IS 研究は、ビジネス戦略・IT戦略・組織インフラ・IS インフラの相互作用に対処しなければならないという、本論文全体の問題意識の出発点となる。
### アーキテクチャ: IS研究フレームワーク(Figure 2)
論文全体の中核をなす概念的フレームワークは、環境(Environment)・IS研究(IS Research)・知識ベース(Knowledge Base)の三層構造からなる。
**Figure 2: Information Systems Research Framework**
![[_attachments/Design-Science-in-Information-Systems-Research/fig02-is-research-framework.png]]
(Figure 2. 左側の Environment は People(役割・能力・特性)・Organizations(戦略・構造と文化・プロセス)・Technology(インフラ・アプリケーション・通信アーキテクチャ・開発能力)からなり、ビジネスニーズ(Business Needs)を規定する。中央の IS Research は Develop/Build(理論・人工物)と Justify/Evaluate(分析・ケーススタディ・実験・フィールド調査・シミュレーション)の Assess/Refine ループからなる。右側の Knowledge Base は Foundations(理論・フレームワーク・道具・構成要素・モデル・方法・具体化物)と Methodologies(データ分析技法・形式論・尺度・検証基準)からなる。Environment と IS Research の間を Relevance(関連性)が、IS Research と Knowledge Base の間を Rigor(厳密性)が結ぶ。下段の左向き矢印は「Application in the Appropriate Environment」(適切な環境への適用)、右向き矢印は「Additions to the Knowledge Base」(知識ベースへの貢献)を示す。Source: Figure 2, p.80)
- **環境(Environment)**が問題空間(problem space)を規定する。ビジネスニーズは、組織内の人々が知覚する目標・課題・機会からなり、組織の戦略・構造・文化・既存のビジネスプロセス、および既存または計画中の技術インフラ・アプリケーション・通信アーキテクチャ・開発能力の文脈の中で評価される(Source: p.79)。
- 与えられたビジネスニーズに対し、IS 研究は**行動科学**(現象を説明・予測する理論の開発と正当化)と**デザインサイエンス**(ニーズを満たす人工物の構築と評価)という2つの相補的な段階で遂行される。行動科学の目標は真理(truth)、デザインサイエンスの目標は有用性(utility)であるが、両者は不可分であり、真理は設計に情報を与え、有用性は理論に情報を与えるとする(Source: p.80)。
- **知識ベース(Knowledge Base)**は Foundations(理論・フレームワーク・道具・構成要素・モデル・方法・具体化物)と Methodologies(データ分析技法・形式論・尺度・検証基準)からなり、研究の develop/build 段階に生の材料を、justify/evaluate 段階にガイドラインを提供する。既存の基盤と方法論を適切に適用することで厳密性(rigor)が達成される(Source: p.80)。
- デザインサイエンス研究はしばしば「厄介な問題(wicked problems)」(Rittel and Webber 1984)に対処する。その特徴は、(1) ill-defined な環境文脈に基づく不安定な要件と制約、(2) 問題とその解決策の下位構成要素間の複雑な相互作用、(3) 設計プロセス・設計人工物ともに変更しうる本質的な柔軟性、(4) 有効な解決策の生成に人間の認知能力(創造性)への決定的な依存、(5) 有効な解決策の生成に人間の社会的能力(チームワーク)への決定的な依存、である(Source: p.81)。
### アルゴリズム/手法の詳細: 7つのガイドライン(Table 1)
**Table 1. Design-Science Research Guidelines**
| ガイドライン | 説明 |
|---|---|
| 1. Design as an Artifact(人工物としての設計) | デザインサイエンス研究は、構成要素(construct)・モデル(model)・方法(method)・具体化物(instantiation)のいずれかの形をとる実行可能な人工物を生み出さなければならない。 |
| 2. Problem Relevance(問題の関連性) | デザインサイエンス研究の目的は、重要かつ関連性の高いビジネス問題に対する技術に基づく解決策を開発することである。 |
| 3. Design Evaluation(設計評価) | 設計人工物の有用性・品質・有効性は、十分に実行された評価方法によって厳密に実証されなければならない。 |
| 4. Research Contributions(研究貢献) | 効果的なデザインサイエンス研究は、設計人工物・設計基盤(foundations)・設計方法論(methodologies)のいずれかの領域において、明確かつ検証可能な貢献をもたらさなければならない。 |
| 5. Research Rigor(研究の厳密性) | デザインサイエンス研究は、設計人工物の構築と評価の両方において厳密な方法の適用に依拠する。 |
| 6. Design as a Search Process(探索プロセスとしての設計) | 有効な人工物の探索には、問題環境における法則(law)を満たしつつ、目的の達成のために利用可能な手段(means)を活用することが求められる。 |
| 7. Communication of Research(研究の伝達) | デザインサイエンス研究は、技術志向の読者と経営志向の読者の両方に対して効果的に提示されなければならない。 |
(Table 1. 出典: Table 1, p.83)
- **Guideline 1**: IT 人工物は、構成要素(語彙と記号)・モデル(抽象化と表現)・方法(アルゴリズムと実践)・具体化物(実装・プロトタイプシステム)の4類型からなる。人工物は人・組織から独立した存在ではなく、ビジネスニーズを満たすうえで人・組織と相互依存的かつ対等な関係にあると位置づける(Source: pp.82-84)。
- **Guideline 2**: 問題は「目標状態と現在の状態の差」として形式的に定義され、問題解決はその差を縮小・解消するための行為の探索過程として定義される(Simon 1996 に依拠)(Source: p.85)。
- **Guideline 3**: 設計評価には5種類の方法群(Observational・Analytical・Experimental・Testing・Descriptive)があり、選択される評価方法は設計された人工物と選定された評価指標に適切に対応させる必要がある(Table 2、下記)。加えて、Simon(1996)や Gelernter(1998)の「machine beauty」概念を引きつつ、設計のスタイル(style)の評価も設計評価に含めるべきだと論じる(Source: pp.85-87)。
- **Guideline 4**: デザインサイエンス研究の貢献は、(1) 設計人工物そのもの、(2) 基盤(foundations、構成要素・モデル・方法・具体化物の拡張)、(3) 方法論(methodologies、評価方法・評価指標の開発)の3種類に大別され、いずれか1つ以上が求められる(Source: pp.87-88)。
- **Guideline 5**: 研究の厳密性は、構築(construction)においては人工物の適用可能性と一般化可能性の観点から、評価(evaluation)においては性能指標に対するクレームの観点から評価される。行動科学的知見(利用者の主体群・訓練・時間・タスク等)も人工物構築・評価に必要となる場合があるとする(Source: pp.87-89)。
- **Guideline 6**: 設計は本質的に反復的な探索過程であり、最適解の探索はしばしば計算論的に困難(intractable)である。設計問題は手段(means、解決策を構成する行為と資源)・目的(ends、解決策に対する目標と制約)・法則(laws、環境における制御不能な力)の3要素で定式化され、多くの場合、問題の一部のみを明示的に表現するか、部分問題への分解によって単純化される。ヒューリスティック探索戦略によって、最適ではなくとも実用可能な「満足化(satisficing、Simon 1996)」解を発見することが現実的な目標となる(Source: pp.88-90、Figure 3)。
**Figure 3: The Generate/Test Cycle**
![[_attachments/Design-Science-in-Information-Systems-Research/fig03-generate-test-cycle.png]]
(Figure 3. Simon(1996)に基づく設計プロセスのモデル。「Generate Design Alternatives」(設計代替案の生成)と「Test Alternatives Against Requirements/Constraints」(要件・制約に対する代替案の検証)を両方向の矢印で結んだ循環構造として設計プロセスを描く。Source: Figure 3, p.89)
- **Guideline 7**: 技術志向の読者には人工物を構築・適用するための十分な詳細が、経営志向の読者には組織資源をその人工物の構築・利用にコミットすべきか判断するための十分な詳細が、それぞれ必要である。Zmud(1997)を引き、経営志向の読者向けには人工物そのものの本質よりも「特定の文脈における個人的・組織的な利得のためにその人工物を効果的に適用するために必要な知識」に重点を置くべきだとする(Source: pp.89-90)。
### 実装上の工夫: Table 1 と Figure 2 の対応関係
- Guideline 4(研究貢献)は Figure 2 の下段の矢印と対応づけられる。「IS Research → Environment」の左向き矢印は人工物そのものの貢献、「IS Research → Knowledge Base」の右向き矢印は基盤・方法論への貢献を示す(Source: p.87)。TAM(Technology Acceptance Model, Venkatesh 2000)は行動科学理論として提示されているが、設計人工物・実装プロセスを評価する指標も提供しており、その設計への含意は未探究のままである、という例が挙げられる(Source: p.87)。
- デザインサイエンス研究と行動科学研究の関係は一方向ではなく相互に挑戦し合う関係にあるとされる。技術受容モデル(TAM)は IT 受容を予測・説明する理論としてデザインサイエンス研究者に受容問題を克服する人工物の創出を挑戦させる(Source: p.84)。
### 評価方法(Table 2)
**Table 2. Design Evaluation Methods**
| カテゴリ | 方法 |
|---|---|
| 1. Observational | Case Study: 業務環境の中で人工物を深く研究する / Field Study: 複数プロジェクトにわたる人工物の利用を監視する |
| 2. Analytical | Static Analysis: 静的な性質(複雑さ等)について人工物の構造を検査する / Architecture Analysis: 技術的な IS アーキテクチャへの人工物の適合を研究する / Optimization: 人工物固有の最適性を実証する、または人工物の挙動に最適性の境界を与える / Dynamic Analysis: 動的な性質(性能等)について使用中の人工物を研究する |
| 3. Experimental | Controlled Experiment: 統制された環境で人工物の性質(使いやすさ等)を研究する / Simulation: 人工データを用いて人工物を実行する |
| 4. Testing | Functional (Black Box) Testing: 人工物のインタフェースを実行して欠陥・不具合を発見する / Structural (White Box) Testing: 人工物の実装においてある指標(実行パス等)のカバレッジテストを行う |
| 5. Descriptive | Informed Argument: 知識ベースの情報(関連研究等)を用いて人工物の有用性について説得力のある論証を構築する / Scenarios: 人工物の有用性を実証するために詳細なシナリオを構築する |
(Table 2. 出典: Table 2, p.86)
- Descriptive な評価方法は、他の評価形式が実行不可能なほど革新的な人工物にのみ用いるべきだとされる(Source: p.86)。
## 新規性
- [[@1995__Decision Support Systems__Design and Natural Science Research on Information Technology]](March and Smith 1995)が提示した4×4フレームワーク(研究出力 × 研究活動)を土台にしつつ、本論文はこれを研究の**遂行・評価・伝達のための実践的ガイドライン**へと発展させた点が新規性である。March and Smith (1995) 自身が「build 活動はよく理解されていない」と述べていた点に対し、本論文は Guideline 6(探索プロセスとしての設計)で Simon の Generate/Test Cycle を援用し、means・ends・laws という具体的な語彙で build 活動を定式化する(Source: p.88, Figure 3)。
- ルーチンなシステム構築(routine design)とデザインサイエンス研究を明確に区別する基準として、「知識ベースの基盤・方法論への明確な貢献」を挙げる。既存知識の適用は routine design であり、未解決の問題を革新的な方法で、あるいは既知の問題をより効果的・効率的な方法で解決することがデザインサイエンス研究であるとする(Source: p.82)。
- 3つの模範論文(Gavish and Gerdes 1998; Aalst and Kumar 2003; Markus, Majchrzak, and Gasser 2002)を実際に7ガイドラインへ照らして分析するという実演的アプローチにより、抽象的なガイドラインを具体的な査読・評価の実務へ橋渡ししている(Source: pp.90-98)。
## 実験設定
本論文は概念的フレームワーク・ガイドライン提案論文であり、独自の実証実験は行っていない。代わりに、3種類の異なる IS 学術誌から選んだ3本の模範論文にガイドラインを適用する事例分析を行う(Source: p.90)。
- **模範論文1**: Gavish and Gerdes (1998), *Decision Support Systems* — Group Decision Support Systems(GDSS)環境における匿名性(anonymity)実装技法の開発。
- **模範論文2**: Aalst and Kumar (2003), *Information Systems Research* — 電子商取引ワークフローのための eXchangeable Routing Language(XRL)の設計。
- **模範論文3**: Markus, Majchrzak, and Gasser (2002), *MIS Quarterly* — 創発的知識プロセス(emergent knowledge processes, EKP)を支援する情報システムのための設計理論。
各模範論文は Problem Relevance・Research Rigor・Design as a Search Process・Design as an Artifact・Design Evaluation・Research Contributions・Research Communication の7観点(ガイドラインに対応)から分析される(Source: pp.90-98)。
## 実験結果
- **Gavish and Gerdes (1998)**: GDSS における手続き的匿名性(procedural anonymity)を実現する5つの機構(メッセージ暗号化・送信者ヘッダー除去・再送時の再暗号化・送信順序のランダム化・ダミーメッセージの挿入)を設計。匿名性の主張は付録Aで形式的証明により正当化され、コスト便益分析も提示される。ただしプロトタイプでの実装(instantiation)は行われていない(Source: pp.91-93)。
- **Aalst and Kumar (2003)**: Petri net を基礎とするワークフロー言語 XRL(13の基本構成要素を持つ)と、XRL/flower ワークフロー管理アーキテクチャ、およびワークフローの健全性(soundness)を検証する Wolfan ツールという3つの人工物を設計。既存の商用ワークフロー言語との比較、標準規格(WfMC Interoperability Wf-XML Binding)との適合性検討、プロトタイプ実装によるユーザーインタフェース画面の提示によって評価される(Source: pp.93-95)。
- **Markus, Majchrzak, and Gasser (2002)**: 創発的知識プロセス(EKP)を支援する TOP Modeler というソフトウェア(具体化物)と、EKP 向けシステム開発の6原則(方法)を、18ヶ月にわたる Hewlett-Packard・General Motors 等の製造業組織との action research を通じて開発。商用化され「2ダース以上の実利用状況」で使われたと報告される。ただし他の人工物との形式的な比較評価は行われていない(Source: pp.95-97)。
## 考察
- 行動科学とデザインサイエンスは、それぞれ固有の陥りやすい危険(danger)を持つ。デザインサイエンスパラダイムの危険は、技術的人工物への過度の注力と十分な理論基盤の維持の失敗であり、実際の組織現場では役に立たない、うまく設計された人工物という結果を招きうる。行動科学パラダイムの危険は、文脈的理論への過度の注力と、技術的可能性を十分に識別・予見できないことであり、旧式・非効率な技術を対象とする理論や原則という結果を招きうる。両パラダイムの完全な研究サイクルが必要だと論じる(Source: p.98)。
- デザインサイエンス研究には固有の課題として、(1) IS 設計というエンジニアリング分野を構築するための理論的基盤が不十分であること、(2) ビジネス/技術環境を正確に表現するための構成要素・モデル・方法・道具の不足(高度に抽象的な数理モデルは「現実世界」との関連が薄いと批判される一方、多くの非形式的・記述的な IS モデルは基礎理論を欠くというトレードオフ)、(3) 既存の知識ベースがしばしば設計目的には不十分で、設計者は直感・経験・試行錯誤に頼らざるを得ないこと、が挙げられる(Source: p.99)。
- デザインサイエンス研究は「陳腐化しやすい(perishable)」と特徴づけられる。技術の急速な進歩により、ビジネス環境で効果的に実装される前に、あるいは組織資源をコミットする十分な投資回収が実現する前に、デザインサイエンス研究の成果が無効化されうる。1980年代の人工知能コミュニティの約束や、より最近のオブジェクト指向データベース研究が例として挙げられる(Source: p.99)。
- 厳密な評価方法(rigorous evaluation methods)をデザインサイエンス研究に適用することは極めて困難である。単一プロジェクトでの人工物の使用は、異なる環境への一般化を保証しない(Markus et al. 2002 を例に)(Source: p.99)。
## 強み / 弱点・課題
**強み**
- March and Smith (1995) の4×4フレームワークを、7つの明確なガイドラインという、査読者・研究者が直接運用できる実践的な形式へ翻訳している点(Source: Table 1, p.83)。
- 3本の実在する模範論文への適用によって、ガイドラインが抽象論にとどまらず、実際の論文評価にどう使えるかを具体的に示している点(Source: pp.90-98)。
- 行動科学とデザインサイエンスを対立するものではなく相互補完的なものとして位置づけ、両パラダイムの完全な研究サイクルを主張する統合的立場を明確に打ち出している点(Source: p.98)。
**弱点・課題(論文が自ら指摘するもの)**
- ガイドラインの機械的・義務的な適用には反対しており(Klein and Myers 1999 に従う)、「いつ・どこで・どのようにガイドラインを適用するかは研究者・査読者・編集者の創造的な技能と判断に委ねられる」としている。これは実務上の一貫した運用を難しくしうる(Source: p.82)。
- IS 設計というエンジニアリング分野の理論的基盤が不十分であるという課題は、本論文自身が今後の課題として提示するにとどまり、解決策は示されていない(Source: p.99)。
- 3つの模範論文のうち少なくとも2つ(Gavish and Gerdes 1998; Markus et al. 2002)は、著者ら自身が「人工物のプロトタイプでの実装(instantiation)が評価されていない」または「他の人工物との形式的な比較評価が行われていない」と指摘しており、ガイドライン適用の模範例自体にも Guideline 3(設計評価)の観点で限界が残ることを論文自身が認めている(Source: pp.92-93, p.97)。