# ネットワークオペレーションの諸側面
> [!abstract] 概要
> ネットワークオペレーションは、通信網が正常に機能し、顧客に高品質なサービスを提供することを保証する。通信網が大規模化・複雑化するにつれて、従来は人手による保守に頼ってきたネットワークオペレーションを機械化・体系化する必要が生じている。近年、網・装置の製造メーカによって統合されたネットワークオペレーションシステムが構築されてきた。管理、オペレーションシステムと人間のオペレータとの間のインタフェース、通信網のデータベース構築などに起因して、いくつかのシステム上の技術的問題が発生している。
>
> Telecommunication Management Network(TMN)の標準化は、CCITTによって先行して進められてきた。TMNは、通信網の状態情報と制御コマンドメッセージを伝送するデータ通信網である。TMN標準の下では、さまざまなベンダーの装置が同一の通信網内で協調して動作できるようになり、異なるネットワークオペレーションシステム間でオペレーション情報を交換することも容易になる。
>
> Universal Intelligent Communication Network(UICN)は、郵政省が提唱する将来の通信網である。UICNにおいては、知的サービスにおけるソフトウェアの役割が重要になる。そのようなソフトウェアの保守・管理は、将来のネットワークオペレーションに困難をもたらす可能性がある。
>
> 本稿では、ネットワークオペレーションの幾つかの側面を概観する。
## 論文情報
- 著者: 大橋一([[大橋一|Hajime Ohashi]]、[[通信総合研究所]] 総合通信部 統合通信網研究室)
- 書誌: 『通信総合研究所季報』Vol.37 No.3, pp.449–457(1991年6月)。種別「解説」。1990年12月18日受理。英題: "Several Aspects of Network Operation"
- URL: https://www.nict.go.jp/publication/kiho/37/003/Kiho_Vol37_No003_pp449-457.pdf
## 概要
本稿は、通信事業者([[AT&T]])の立場から見たネットワークオペレーションの概念、OSI(Open Systems Interconnection)の網管理の枠組み、複数通信事業者が存在する環境での課題、故障診断・修復やオペレータインタフェースなど技術的側面での動向・課題、CCITTで標準化が進むTMN(Telecommunication Management Network)、将来の知的総合通信網UICN(Universal Intelligent Communication Network)におけるネットワークオペレーションの課題、という順に、ネットワークオペレーションの諸側面を概観する解説記事である。原著は日本語(和文)。図表番号・キャプションはOCR原文の乱れにより本ページでは埋め込めず、該当箇所はテキスト(markdown表)で代替した。
## 問題設定
- 通信網が社会的に果たす役割の重要性が増す中、安定性(常に同じ品質のサービス提供)と即応性(要求への迅速な応答)が一層求められるようになっている。これに応えるためにネットワークオペレーションの高度化が必要不可欠である、という社会的要請を出発点に置く。
- ネットワークオペレーションの高度化には、個々の技術的課題の研究に加えて、それらを適切に組み合わせて社会の発展に寄与するための、ネットワークオペレーションの諸側面についての横断的な検討が欠かせない、という立場を取る。
- 複数事業者環境(日本ではNTT民営化後の第1種・第2種通信事業者による競争環境)における事業者間の協調・接続・オペレーション連携の課題を扱う。
- 将来の知的総合通信網(UICN)では、通信資源に加え計算機・データベース・ソフトウェアという新たな資源が加わり、それらの保守管理がネットワークオペレーションの新課題になるという将来展望を扱う。
## 提案手法
本稿は新規手法を提案する論文ではなく、既存の概念・標準化動向・技術動向を整理する解説記事である。整理の枠組みは次の通り。
1. **ネットワークオペレーションの概念**を、事業者側の捉え方(AT&Tの例、第1表)と、機器製造メーカ側の捉え方(OSIの網管理の枠組み、第2表)という2つの代表例を用いて示す。
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| 顧客サービス | 顧客からのサービス要求に対応する。顧客との交渉、注文受付、顧客登録及び維持管理などの業務が含まれる |
| サービス開設 | 顧客のサービス要求に答えて、網資源の割り当て、回線への組み込みなどの作業を行う |
| 通信網運営 | 新たな設備・装置類の導入とそれらの機能を維持し、トラヒックを管理・確保する。試験、性能監視、トラヒック管理、トラヒックデータの収集などの作業がある。故障の修復もこれに含まれる。狭い意味でこの部分をネットワークオペレーションと呼ぶことも多い |
| 計画・建設 | 将来の需要に対応して設備の拡充を図る業務 |
| 調達 | 保守部品、設備機器などを製造メーカから調達する。メーカへの指導・助言、調達先との交渉・契約、在庫管理、配送などの作業が含まれる |
(第1表 ネットワークオペレーションの概念 — AT&T社の例。出典: 大橋論文が引く K. J. Lutz, "Operations Planning Strategies for New Network Services and Technologies," *IEEE JSAC* Vol.6 No.4, pp.61-64, 1988)
| 機能領域 | 内容 |
|---|---|
| フォールト管理 | 不具合箇所の特定と修復のための機能・手段の集合。誤り検出、故障源の特定、診断、回復操作などが含まれる |
| アカウント管理 | 顧客から料金を徴収するための機能・手段の集合 |
| 構成、命名管理 | 管理対象を識別し、管理するための機能・手段の集合。管理対象の構成を変更し、名前を割り当て、それらの状態情報を収集し、あるいは起動・停止を行う |
| 性能管理 | システム性能を改善するための機能・手段の集合。通信網を監視、分析し、制御、調整を行う手法が含まれる。例えば、統計データを収集して分析し、運用計画に反映するような作業がある |
| セキュリティ管理 | 管理機能の安全性を支援し、管理対象を保護する機能・手段の集合。通信網への不正なアクセスを防ぐための権限の認証手法、暗号化などの機能が含まれる |
(第2表 OSIにおける網管理の枠組み。ISOのOSIにおいて策定が進められている国際標準)
2. **複数事業者環境の課題**(第3章)を、通信網の社会基盤的性格と企業活動としての通信事業との間の緊張関係、地域間・事業者間の相互接続、サービスの標準化とベンダー差別化のトレードオフ、複数事業者間での故障対応時の原因切り分け・調整の観点から論じる。
3. **技術動向と課題**(第4章)を、故障診断・修復、オペレータインタフェース、網管理データベース、網資源の有効利用、輻輳制御、災害に対して強靭な通信網の構築、という6つの技術的側面ごとに整理する(第3表、後述)。
4. **TMN標準化**(第5章)を、TMN物理モデル(第1図。機能ブロック OS/MD/DCN/LCN/NE/WS とインタフェース参照点 Q/F/G/X からなる)と、機能ブロック・インタフェース点の定義(第4表)を用いて説明する。
5. **将来の知的総合通信網(UICN)の課題**(第6章)を、分散協調処理・資源割当・ソフトウェア保守管理の観点から論じる。
## 新規性
解説記事としての貢献は新規手法の提案ではなく、次の統合的整理にある。
- 通信事業者(AT&T)の業務分類という**経営・運用側の視点**と、OSIのFCAPS(フォールト・アカウント・構成/命名・性能・セキュリティ)という**標準化・機器側の視点**を、同じ「ネットワークオペレーション」概念の二つの捉え方として明示的に対比した。
- 単一事業者内の技術課題(故障診断、オペレータインタフェース、データベース、資源配分、輻輳制御、災害対策)と、複数事業者・複数ベンダー環境での協調課題(TMNによる相互接続性)、さらに将来の知的総合通信網(UICN)におけるソフトウェア保守管理という3つの時間軸・スケールの課題を1本の解説に統合した。
- 1991年という時点で、通信網の故障診断への人工知能技術(エキスパートシステム、状況に応じた知識選択を行う状況推論)の導入が「既に始まっている」と明記し、輻輳制御についても人工知能との組み合わせによる自動化が今後進むと予見した。これは、本wikiが[[AIOps]]の史的前例として扱う1986年の[[YES-MVS]](IBM Thomas J. Watson Research Center、計算機クラスタ運用)とは異なり、**通信キャリアの電話網・交換機オペレーション**という別ドメインでの同時代的なAI導入動向を報告する一次資料である。
## 実験設定
該当なし。本稿は解説記事であり、独自の実験・評価は行っていない。記述は参考文献(主に *IEEE JSAC* Vol.6 No.4 の TMN 特集号、CCITT勧告等)に基づく。
## 実験結果
該当なし(定量的な実験結果の報告はない)。
## 考察
- 標準化とベンダー独自性・サービス差別化との間にはトレードオフが存在する。電話サービスのような基本的サービスは標準化に適するが、付加価値の高い独自サービスは差別化を優先するため標準化に馴染みにくいと指摘する。
- 複数事業者環境での故障対応には、事業者間での原因の切り分け・対処の調整が必要であり、TMNのXインタフェース(異なる通信網どうしの接続点)による網の状態情報交換・制御依頼と、平常時の訓練・試験・情報交換を通じた相互の信頼確立が必要になると論じる。
- オペレータインタフェースについては、判断の誤りの防止(必要十分な情報提供)、慣れの防止(手順化・訓練の徹底)、グラフィックインタフェースの曖昧さ排除、知的支援(優先順位付きの操作候補提示)、メッセージ等の標準化、システムへの信頼感確保(訓練・試験)という6つの課題を挙げる(第3表)。
- 網管理データベースについては、単一のネットワークデータを目的別のビュー(ネットワークビュー)に変換して提供するオブジェクト指向の考え方に基づくデータベース構築が検討されていると報告する。OSIのMIB(Management Information Base)も同様にオブジェクト指向で管理対象の属性継承構造を持つとする。
- 網資源の有効利用については、線形計画問題を実用的な時間で解く内点法の登場により、通信網設計の最適化への応用が進み設備投資の節約につながったと述べる一方、災害時など急激な網構成変動には大規模な線形計画問題を逐次解くのは非現実的であり、優先度に基づく資源割当やあらかじめ用意した対処方法から選択するエキスパートシステムの開発が必要になると論じる。
- 災害に強い通信網の構築については、効率追求と安全性確保のトレードオフが社会全体の合意形成の問題であるとし、放送メディア(AM放送等)の安否確認情報伝達への活用や、システム監査に類する通信システムの安全性の系統的監査制度の検討を提言する。
- 将来のUICNでは、通信資源に加えて計算機・データベース・ソフトウェアが新たな資源となり、分散協調処理に伴う処理タスクの資源割当が課題になる。特にソフトウェアの保守管理では、不具合がハードウェア起因かソフトウェア起因か、どのソフトウェアのどの部分に誤りがあるかを特定することが非常に困難になるため、モジュール化・部品化の徹底と、モジュール単位の品質管理・データベース化・工程/データ構造/インタフェース管理が必要と結論する。
## 強み / 弱点・課題
- 強み: 経営・運用側の視点(AT&Tの業務分類)、標準化・機器側の視点(OSIのFCAPS、TMN)、将来の政策的視点(UICN)という3層を1本の解説に横断的に統合しており、1991年時点でのネットワークオペレーション概念の全体像を把握するための一次資料として価値がある。
- 強み: 故障診断へのエキスパートシステム導入、輻輳制御の自動化、線形計画法の内点法によるネットワーク資源配分最適化など、当時の技術動向を具体的な参考文献(*IEEE JSAC* Vol.6 No.4 の TMN 特集号等)とともに要領よくまとめている。
- 弱点/課題: 解説記事であるため独自データ・実験は一切なく、内容は既存の参考文献の要約・整理にとどまる。
- 弱点/課題: 原本PDFはJBig2圧縮の走査画像で構成されており、OCR抽出テキストの文字化け(単語の行またぎ分断、誤字)が激しく、本ページの記述は文脈から復元可能な範囲に限られる。第1図(TMN物理モデル)を含む図はすべてJBig2で画像デコード不能であり、本ページには埋め込めていない(第4表のテキスト説明で代替)。
## 出典
- 大橋一, 「ネットワークオペレーションの諸側面」, 『通信総合研究所季報』Vol.37 No.3, pp.449–457 (1991年6月).