# Computing Machinery and Intelligence
> [!abstract] 概要
> 私は「機械は思考できるか?」という問いを考察することを提案する。これは「機械」と「思考」という言葉の意味の定義から始めるべきであろう。これらの定義は可能な限り通常の言葉遣いを反映するように組み立てられるかもしれないが、そのような態度は危険である。「機械」や「思考」の意味を日常の使われ方を調べることで見出そうとするならば、「機械は思考できるか?」という問いの意味と答えはギャラップ調査のような統計的調査に求められるべきだという結論を逃れることは困難である。しかしこれは不条理である。そのような定義を試みる代わりに、私はこの問いを、それと密接に関連し比較的曖昧さの少ない言葉で表現された別の問いに置き換えることにする。
## 論文情報
- タイトル: Computing Machinery and Intelligence
- 著者: [[Alan Turing]]
- 媒体: *Mind: A Quarterly Review of Psychology and Philosophy*, Vol. 59, No. 236 (October 1950), pp. 433–460, Oxford University Press
- 原本: `.raw/papers/turing.pdf`
## 概要
Alan Turing が「機械は思考できるか(Can machines think?)」という哲学的大命題に対し、模倣ゲーム(Imitation Game、後の「[[チューリングテスト]]」)という操作的評価基準を提唱した、人工知能論・認知科学の最も影響力ある原典論文である。反論への包括的論駁と、子どもの機械(学習機械)によるAI実現のロードマップを提示した。
## 問題設定
「思考(think)」や「機械(machine)」という日常語の意味は極めて曖昧であり、客観的・科学的な議論が困難であった。また、思考と身体的外見(皮膚の質感や音声など)が混同されやすい問題があった。
## 提案手法
1. **模倣ゲーム(Imitation Game)**:
質問者(C)がテレタイプ通信を通じて壁の向こうにいる人間(男性Aまたは女性B)と対話し、どちらが男性/女性かを当てるゲームを出発点とする。次に、一方のプレイヤーを「機械」に置き換えたとき、質問者が人間同士のゲームと同等の頻度で誤判断するかどうかをテストとする。これにより、身体的外形を排し、純粋な知的振る舞いのみを客観的に評価する基準を確立した。
2. **デジタル計算機の普遍性(Universal Digital Computers)**:
蓄積装置(Store)、実行ユニット(Executive unit)、制御部(Control)からなるデジタル計算機を定義。普遍チューリングマシンの原理に基づき、十分な記憶容量と実行速度があれば、いかなる離散状態機械の挙動も模倣できることを示した。
## 9つの主要な反論に対する論駁
Turing は機械の知能に対する代表的な9つの批判を挙げ、各々に対して明快に反論した:
1. **神学的な反論 (The Theological Objection)**: 思考は神が人間にのみ与えた不滅の魂に宿るという見解 → 神の全能性を制限するものであり、神が望めば動物や機械に魂を与えることも可能である。
2. **「頭を砂に埋める」反論 (The 'Heads in the Sand' Objection)**: 機械が思考できると恐ろしい結果になるから思考できないと信じたい → 恐れに基づく願望に過ぎず、論駁に値しない。
3. **数学的な反論 (The Mathematical Objection)**: ゲーデルの不完全性定理や不決定性定理により、任意の強力な離散状態機械には答えられない質問が存在する → 人間知能も同様に誤りをおかすため、機械が絶対無誤謬でないことは知能の否定にならない。
4. **意識からの反論 (The Argument from Consciousness)**: 機械は自らの思考や感情を意識的に感じていない(Jefferson教授の指摘) → 他者の意識を完全に証明できない独我論(solipsism)に陥る。模倣ゲームでの受け答えこそが意識や思考の最も確実な証拠となる。
5. **種々の無能力の反論 (Arguments from Various Disabilities)**: 機械には親切であること、美しいものを見分けること、ジョークを理解すること、誤りをおかすことなどができないという主張 → 記憶容量の限界や過去の機械の制約に囚われた偏見に過ぎない。
6. **レディ・ラヴレスの異論 (Lady Lovelace's Objection)**: 解析機関は人間に命じられたことしか実行できず、独創(originate)を持たない → 計算機も人間が予期しない結果や驚き(surprise)を生み出すことが日常的にある。
7. **神経系の連続性からの反論 (Argument from Continuity in the Nervous System)**: 人間の神経系は連続的であり、離散状態システムでは正確に模倣できない → 離散状態機械は連続システムの振る舞いを任意の精度で近似模倣できるため、模倣ゲームの判定に影響しない。
8. **行動の非形式性からの反論 (The Argument from Informality of Behaviour)**: 人間の行動はあらゆる状況に対応する完全な規則の体系では記述できない → 「行動の規則(rules of conduct)」と「行動の法則(laws of behaviour)」の混同であり、完全に客観的な法則が存在しない証拠にはならない。
9. **超心理学的知覚からの反論 (The Argument from Extrasensory Perception)**: テレパシーや予知などのESP能力が人間に存在するなら機械は不利になる → 必要であれば防護部屋(telepathy-proof room)でテストを行えばよい。
## 学習機械(Learning Machines)の提唱
成人レベルの知能を直接記号やルールでプログラミングすることは困難であるとし、**子どもの脳(Child machine)** を構築して教育・学習(reward and punishment)を通じて進化させるアプローチを提案した。これは現代の機械学習、強化学習、ニューラルネットワークの基本的枠組みを明確に先取りした構想である。
## 新規性・意義
客観的な行動主義的テスト(チューリングテスト)の創案により、主観的・神学的・神秘的な議論に終始していた「知能」と「思考」の探究を、工学・情報科学の実験可能な領域へと引き戻した。また機械学習によるアプローチを明示的に提案した点で、AI研究の最重要原典である。
## 強み / 弱点・課題
- **強み**: 70年以上経過した現代の大規模言語モデル(LLM)の振る舞いや評価においても中心概念であり続ける不朽の洞察力。
- **弱点・課題**: 模倣ゲームは欺瞞(欺くこと)を評価指標としているため、真の理解(中国語の部屋論争など)や意図性、身体性(embodiment)の重要性については後進の哲学的議論を残した。