# LeanとDevOpsの科学[Accelerate]
## 概要
『LeanとDevOpsの科学[Accelerate]』は、DevOps のプラクティスが組織の業績に及ぼす効果を、逸話ではなく大規模なアンケート調査と統計モデルによって実証した書籍である。DevOps Research and Assessment(DORA)による 4 年間の *State of DevOps Report* を土台に、計量心理学の手法で潜在的構成概念を測定し、ソフトウェアデリバリのパフォーマンスと組織全体のパフォーマンスの関係を予測モデルとして提示する。本書の中核となるのは、改善促進効果の高い 24 の**ケイパビリティ**と、デリバリ性能を測る 4 つの指標である。
## 書誌情報
- 書名: LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を加速する
- 原書: *Accelerate: The Science of Lean Software and DevOps — Building and Scaling High Performing Technology Organizations*(IT Revolution Press、2018-03)
- 著者: [[Nicole Forsgren]]、[[Jez Humble]]、[[Gene Kim]](第16章のみ Karen Whitley Bell・Steve Bell / Lean IT Strategies, LLC)
- 訳者: 武舎広幸、武舎るみ
- 出版社: 株式会社インプレス
- 発行: 2018-11-21 初版第1刷
- ISBN: 978-4-295-00490-5
- 構成: 全 3 部 17 章 + 付録 A〜C(320 ページ)
- URL: https://book.impress.co.jp/books/1118101029
- 「本書に寄せて」= [[Martin Fowler]](ThoughtWorks 主任研究員)、「序文」= Courtney Kissler(Nike)
## 構成と主要テーマ
本書は 3 部 17 章に付録 A〜C が付く。wiki には**前付「はじめに」・本編 17 章・付録A** を取り込んだ(付録B「統計データ」と付録C「本調査研究で使用してきた統計的手法」は未取り込み)。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Introduction はじめに]] — 著者 3 名が 2013 年末に Puppet 社のチームと合流して 4 年間・23,000 件超の回答を集めた調査研究の成り立ちと、本書の 3 部構成による読み方を著者自身が語る前付。
### 第1部 調査結果から見えてきたもの(第1〜11章)
4 年間の調査から見えた「何がソフトウェアデリバリのパフォーマンスを高めるのか」を、技術・プロセス・文化・人・リーダーシップの順に積み上げて示す。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 1 業務を加速させるということ]] — 成熟度モデルからケイパビリティモデルへ転換すべき 4 つの理由を説き、24 のキーとなるケイパビリティと 2017 年の性能比較を先取りして提示する導入章。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 2 開発組織のパフォーマンスを計測]] — コード量・ベロシティ・利用率という従来の生産性測定を退け、4 指標とクラスター分析によるハイ/ミディアム/ローパフォーマー分類を定義し、速度と安定性の間にトレードオフがないことを示す。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 3 組織文化のモデル化と測定、改善の方法]] — Ron Westrum の組織文化 3 類型(不健全・官僚的・創造的)をリッカート尺度で測定し、組織文化がソフトウェアデリバリと組織のパフォーマンス・職務満足度を予測できることを立証する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 4 技術的プラクティス―継続的デリバリの基本原則と効果]] — 継続的デリバリを 1 つのケイパビリティとして測定し、バージョン管理・テスト自動化・トランクベースの開発など個々のプラクティスの実証効果を検証する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 5 アーキテクチャのキーポイント]] — システムのタイプはパフォーマンスと相関せず、テスト容易性・デプロイ容易性という疎結合アーキテクチャの 2 特性がハイパフォーマーを予測することを示す。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 6 デリバリライフサイクルに情報セキュリティを組み込む]] — 情報セキュリティを開発ライフサイクルの上流へシフトレフトさせることで、デリバリのパフォーマンスとセキュリティの質を同時に高められることを実証する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 7 ソフトウェア管理のプラクティス]] — リーンマネジメントを WIP 制限・作業フローの可視化・負担の軽い変更承認プロセスの 3 構成要素でモデル化し、チーム外承認の必須化が速度を悪化させながら品質を改善しないことを示す。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 8 製品開発のプラクティス]] — リーン製品開発の 4 ケイパビリティがパフォーマンスと組織文化を高めバーンアウトを軽減し、ソフトウェアデリバリのパフォーマンスと好循環をなすことを示す。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 9 作業を持続可能にするデプロイ負荷とバーンアウトの軽減]] — デプロイ関連の負荷とバーンアウトを測定尺度として定義し、技術的プラクティスとリーン思考のプラクティスが両方を軽減することを示す。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 10 従業員の満足度、アイデンティティ、コミットメント]] — eNPS・帰属意識・職務満足度が組織の収益性・生産性・市場占有率を底上げすることを示し、あわせて調査対象のジェンダー・少数人種の内訳を報告する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 11 変革型リーダーシップとマネジメントの役割]] — 変革型リーダーシップの 5 次元を測定し、その影響が技術とリーンのケイパビリティを介した**間接的**なものであること(リーダー単独ではハイパフォーマンスに届かないこと)を示す。
### 第2部 調査・分析方法(第12〜15章)
第1部の主張がどこまで言えるのかを、統計・計量心理学・調査設計の観点から自ら検証する。実務書としては異例の分量を方法論に割いており、本書の主張の信頼性はこの部に依存する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 12 統計学的背景]] — 調査研究の分類、Leek のデータ分析 6 類型、相関と因果の区別、データフィッシングの回避、階層的クラスター分析によるパフォーマー識別という統計的枠組みを提示する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 13 計量心理学入門]] — 組織文化のような直接測れない対象を潜在的構成概念として数量化する手続きと、弁別的妥当性・収束的妥当性・信頼性の検定を解説する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 14 アンケート調査を採用する理由]] — システムから取れる客観データではなくアンケート調査を用いる 5 つの理由を、IBM のディスクストレージ事例などの具体例で論証する。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 15 データの収集方法]] — 母集団の絞り込みと紹介による抽出(スノーボールサンプリング)の採用理由、その 2 つの制約への対処、代表性への懸念に対する 4 つの検証手段を説明する。
### 第3部 改善努力の実際(第16〜17章)
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 16 ハイパフォーマンスを実現するリーダーシップとマネジメント]] — [[ING]] Netherlands の事例研究。スクワッド/トライブ/チャプターという組織モデル、オーベヤとキャッチボールによる可視化と学びの流れ、「コーチとしてのリーダー」への転換を描く(本章のみ Karen Whitley Bell・Steve Bell の執筆)。
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Chapter 17 おわりに]] — ソフトウェアデリバリのパフォーマンスがあらゆる組織にとって極めて重要であることが全調査で一貫して証明されたと振り返り、「ハイパフォーマンスは購入も模倣もできない」と結ぶ本編最終章。
### 付録
→ [[@2018__Impress__LeanとDevOpsの科学 - Appendix A 改善促進効果の高いケイパビリティ]] — 24 のケイパビリティを継続的デリバリ / アーキテクチャ / 製品とプロセス / リーン思考に基づく管理と監視 / 組織文化の 5 カテゴリーに分類し、詳説する章へのリンクを添えた参照資料。
## 影響と位置づけ
本書の方法論上の特徴は、実務書でありながら**主張の限界を自ら定義している**点にある。第2部の 4 章を丸ごと調査設計・計量心理学・統計的推論に割き、相関と因果を区別し、スノーボールサンプリングという標本抽出の制約を明示したうえで、母集団を「DevOps 用語に馴染みのある専門家・組織」に絞ったトレードオフまで書いている。第1部の各章が示す「予測関係」は、この第2部の留保とセットで読むべきものとして提示されている。
もう 1 つの特徴は、**成熟度モデルの否定**である。到達段階で組織を格付けするのではなく、改善効果の高いケイパビリティを個別に測って伸ばすという枠組みを取り、その 24 個を付録A に一覧化した。第16章が「ハイパフォーマンス文化は実装(模倣)できない」と結ぶのは、この立場の帰結にあたる。
## 関連
- 概念: [[DORA]] / [[継続的デリバリ]] / [[疎結合のアーキテクチャ]] / [[情報セキュリティのシフトレフト]] / [[リーンマネジメント]] / [[リーン製品開発]] / [[Westrumの組織文化類型]] / [[変革型リーダーシップ]] / [[デプロイ関連の負荷]] / [[バーンアウト]] / [[従業員エンゲージメント]] / [[IT業界における多様性]] / [[潜在的構成概念の測定]] / [[スクワッド・トライブ・チャプター]]
- 人物: [[Nicole Forsgren]] / [[Jez Humble]] / [[Gene Kim]] / [[Martin Fowler]] / [[Ron Westrum]]
- 組織: [[Puppet]] / [[IT Revolution]] / [[ING]]
- 既存ノート層(一方向参照): [[structures/SRE - MOC|SRE - MOC]] / [[structures/Software Engineering - MOC|Software Engineering - MOC]]
## 出典
- Nicole Forsgren, Jez Humble, Gene Kim 著, 武舎広幸・武舎るみ 訳, 『LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を加速する』, インプレス, 2018.