# GCHQ ## 概要 GCHQ(Government Communications Headquarters)は英国の信号諜報機関で、Five Eyes(米・英・加・豪・NZ)の一員である。英国が19世紀の帝国統治のために敷設した通信インフラの遺産として、現代の光ファイバー海底ケーブルの約4分の1に物理的にアクセスできる立場にあり、これを活かして国際光ファイバー回線を傍受する Tempora を運用する(2012年時点で GCHQ 分析官300名・NSA 分析官250名が1日6億件の「通話イベント」をふるいにかけていた)。NSA の Bullrun に相当する暗号弱体化プログラムは GCHQ では Edgehill と呼ばれる。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 2 Who Is the Opponent?]] §2.2.1.2, §2.2.1.5) GCHQ の CNE(Computer and Network Exploitation)の代表例が、ベルギーの主要通信事業者 Belgacom を標的にした Operation Socialist(2010–11)である。Xkeyscore で同社の技術者3名を特定し、Quantuminsert でその PC を乗っ取ったうえで認証・課金サーバやコア Cisco ルータにマルウェアを設置し、欧州委員会の電話網へのアクセスも得た。NATO・EU 加盟国同士での重要インフラへの攻撃という前例のない事件で、2018年のベルギー検察の報告により当時の英外相 William Hague の承認があったことが判明したが、起訴には至らなかった。GCHQ の内部スライドは CNE 作戦が常に「UK deniable(英国の関与を否認できる)」ことを要件とすると説明している。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 2 Who Is the Opponent?]] §2.2.1.9) 第26章では、GCHQのEdgehill(NSAのBullrunに相当する暗号弱体化プログラム)に加え、2013年のSnowden暴露後にGCHQとFBIが主導した「Going Dark」論争が扱われる。GCHQ長官Robert Hannigan(2014年当時)はFacebookが英米相互法律扶助条約の手続きを経させることでテロ対策を妨げていると非難したが、Facebookは欧州本部がアイルランドにあり英国法が直接及ばないと反論した。GCHQの数学者Ian LevyとCrispin Robinsonは2018年、法執行機関が令状取得時に対象の鍵束へGCHQの公開鍵を静かに追加し「幽霊参加者(ghost user)」として通話に参加する方式を提案したが、Bruce Schneierはこの方式がWhatsAppには効くがSignalには効かないという事実自体が修正されるべきバグであり、義務化はそのバグ修正を妨げると反論した。2015年に英国の裁判所は、GCHQが米国経由で英国居住者の大量監視データを取得したことが欧州人権条約違反で違法だったと判断している。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 26 Surveillance or Privacy?]] §26.2.7.4) ## 関連 - 章: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 2 Who Is the Opponent?]] / [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 26 Surveillance or Privacy?]] - 実体: [[Edward Snowden]] / [[NSA]] - 概念: [[敵対者の類型論]] / [[暗号戦争]] / [[国家監視の歴史と法制度]] ## 出典 - Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 2, §2.2.1.2, §2.2.1.5, §2.2.1.9. - Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 26, §26.2.7.4.