# Edward Snowden
## 概要
Edward Snowden は元 NSA のシステム管理者で、2013年6月に約5万点の機密文書を Guardian の記者に提供し、Five Eyes(米・英・加・豪・NZ)諸国の信号諜報(signals intelligence)能力を明るみに出した内部告発者(whistleblower)である。最初の報道は Verizon への通話記録の一括提出命令、続いて Prism・Tempora・Muscular・Bullrun/Edgehill・Xkeyscore・Quantum といった一連の収集プログラムが暴露された。香港で Guardian の記者と接触した後、ラテンアメリカへの亡命を試みたが米国政府によるパスポート無効化を受けてモスクワで足止めされ、ロシアで亡命を得た。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 2 Who Is the Opponent?]] §2.2.1.1)
2015年には Princeton での会議にテレプレゼンスロボットの形で出席し、CDN(Akamai・Cloudflare など)を利用する現代のウェブサイトの多くが、利用者端末から CDN までは暗号化されていても、追加料金を払わない限り CDN からバックホール区間が暗号化されていないという実態を指摘した。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 2 Who Is the Opponent?]] §2.2.1.3)
著者 Ross Anderson は、Snowden 以前に同様の告発を試みた内部告発者 Bill Binney が逮捕・嫌がらせを受けた経緯があり、Snowden が正規の(たとえば議会委員会を通じた)報告経路を選ばなかった背景にはこの前例があったと指摘する。オバマ政権の NSA レビューグループも事後的にこの点(前例となった攻撃的な対応の不適切さ)を認めている。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 2 Who Is the Opponent?]] §2.3.6)
第10章では、Snowden がコンパートメント化の失敗という文脈で再登場する。彼はNSAのシステム管理者としてディスクレショナリアクセス制御を回避し、多数のコンパートメントにアクセスできる立場にあった。著者は、コンパートメント化の失敗が長年アクセス権を蓄積した裏切り者Aldrich Amesのような人物ではなく、内部告発者Snowdenを生んだのは「幸運だったのかもしれない」と評する。Snowdenが検索できなかった数少ないコンパートメントの一つが、NSAがどの暗号系をどう攻略できるかという情報で、「極度にコンパートメント化された情報(ECI)」に指定されていた。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 10 Boundaries]] §10.2)
第26章では、Snowdenが2013年に暴露した内容が国家監視の法制度史・暗号戦争第2幕という文脈でより広く扱われる。彼の暴露は、NSAが「国内で行われたすべての通話のデータベースを作る」構想を実行に移していたこと(Boundless Informantが30日間で30億件の通話記録を可視化)、GCHQが米国経由で英国居住者の大量監視データを違法に取得していたこと、NSAとGCHQがBullrun/Edgehillという暗号弱体化プログラム(年間予算1億ドル)を運用していたことを明るみに出した。これらの暴露は2015年の米国Freedom Act(通信データの一括収集への制限)、Max Schremsによる欧州司法裁判所でのSafe Harbour協定無効化(2015年)訴訟の直接の論拠、そしてサービス事業者(Google・Microsoft・Yahoo)による内部ネットワーク暗号化の加速とメッセージングサービスのエンドツーエンド暗号化採用という、法・産業の両面での反応を引き起こした。著者は本章末で、Snowdenの効果は諜報機関の実際の能力に対しては主として技術的(暗号利用の拡大)なものにとどまり、政策上の効果は「サーベイランス資本主義」の行き過ぎを抑制する方向へのプライバシー意識の高まりという、より緩やかなものになるだろうと評している。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 26 Surveillance or Privacy?]] §26.2.2, §26.2.6-§26.2.7.4, §26.6.3, §26.8)
## 関連
- 章: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 2 Who Is the Opponent?]] / [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 10 Boundaries]] / [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 26 Surveillance or Privacy?]]
- 実体: [[NSA]] / [[GCHQ]] / [[Max Schrems]]
- 概念: [[敵対者の類型論]] / [[マルチラテラルセキュリティ]] / [[国家監視の歴史と法制度]] / [[暗号戦争]]
## 出典
- Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 2, §2.2.1.1–§2.2.1.3, §2.3.6.
- Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 10, §10.2.
- Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 26, §26.2.2, §26.2.6-§26.2.7.4, §26.6.3, §26.8.