# EMV ## 概要 EMVは、Europay・Mastercard・VISAの3社が1990年代末に策定し、その後設立されたEMVCoが維持・拡張する、チップカード決済の国際標準規格群である。多くの欧州諸国ではPINで認証するため「chip and PIN」、米国・シンガポールでは署名で認証するため「chip and signature」と呼ばれる。標準は数千ページに及び、コンタクトレス決済やオンライン決済にまで拡張されている。基本プロトコルでは、カードが口座番号(PAN)と発行銀行が署名した証明書を端末に送り、端末が乱数(unpredictable number)・日付・金額・PINをカードに送り、カードがPINを検証したうえで認証要求暗号文(ARQC: authentication request cryptogram)を返す。銀行はARQCと残高を検証し、認証応答暗号文(ARPC)を返す。*Security Engineering* 第12章はEMVを「安全なシステムも非常に危険なシステムも構築できる構築キット」と評する。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 12 Banking and Bookkeeping]] ch.12 §12.6, §12.6.1) EMVには段階的に強化された変種がある。**SDA(static data authentication)**は公開鍵暗号を使えない安価なカード向けの初期のデフォルトで、PINが平文でカードに送られるため中間者攻撃に脆弱であり、磁気ストライプへの後方互換性を悪用したフォールバック詐欺の温床になった。**DDA(dynamic data authentication)**はカードに秘密鍵を持たせ、乱数への署名でカードの存在を保証し、PINを公開鍵で暗号化することでスキマーによるPIN収集を防ぐ。**CDA(combined data authentication)**はDDAに加えてMACへの署名も行い、より安全なオフライン処理を可能にする。EMVの既知の脆弱性として、カード検証方式リスト(CVM list)がプロトコル上認証されていないという欠陥に起因する**No-PIN攻撃**(2011年にフランスで実行犯4人が逮捕)と、端末が生成する「予測不能な数」が実際には予測可能だったことに起因する**preplay攻撃**(2011-2014年に複数の欧州の事件で発覚)がある。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 12 Banking and Bookkeeping]] ch.12 §12.6.1.1, §12.6.1.2, §12.6.1.3, §12.6.2) ## 関連 - ソース: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 12 Banking and Bookkeeping]](§12.6〜§12.6.3) - 概念: [[認証プロトコルの失敗モード]](No-PIN攻撃・preplay攻撃を金融応用の具体例として追記) ## 出典 - Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 12, §12.6-§12.6.3.