# Donald T. Campbell ## 概要 心理学者。遺伝コードに刻まれた生物学的適応から現代の理論物理学者の理論に至るまで、あらゆる真の知識の増大は「盲目的変異と選択的保持(blind variation and selective retention)」という過程を経ると論じた。ここでの「盲目的」とは変異が完全にランダムであることを意味せず、完全あるいは十分な導きなしに生じることを指す。Campbell 自身の言葉では「既知のものを超えて進むとき、人は盲目的に進むほかない。賢明に進めるとすれば、それはすでに何らかの一般的な知恵を獲得していることを示す」とされる。Karl Popper はこれに、過去の知識が及ぶ範囲でのみ盲目性は相対的なものになる、と補足を加えている。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 2 Design and the Growth of Knowledge - The Davis Wing and the Problem of Airfoil Design, 1908-1945]], p.48) 著者はこの変異-選択理論を、David R. Davis の翼型形状変異(ほぼ完全に盲目的な cut-and-try)と Eastman N. Jacobs の層流翼型着想(理論的概念に基づく、より盲目性の低い変異)という 2 つの対照的な事例に当てはめて論じ、第 8 章で詳細な変異-選択モデルへと発展させる。書籍全体の序文でも、著者の思考の影響源の 1 人として Campbell の名が挙げられている。(Source: 同上, p.48-49; [[What Engineers Know and How They Know It]] 序文) ## 第8章: 変異-選択モデルの本格的展開 第8章「A Variation-Selection Model for the Growth of Engineering Knowledge」(本書最終章)は、Campbell モデルを工学知識の成長過程に本格的に適用する。著者はこの章の冒頭で、Campbell モデルを「踏み台(springboard)」としつつ、その仕事に「決定的に依拠(depends critically)」していると明言する。同時に、モデルに著者独自の着想も加わっており、本書全体の唯一の結論として押しつけるものではないとも留保している。第8章の詳細な内容(盲目性・代理選択・入れ子の階層・不確かさ等の概念)は [[変異選択モデル]] に集約する。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 8 A Variation-Selection Model for the Growth of Engineering Knowledge]], p.241) Campbell モデルの三要素は、Campbell 自身の言葉で「(a) 変異を導入する機構、(b) 一貫した選択過程、(c) 選択された変異を保存・伝播する機構」とされる。著者は工学への適用にあたり(c)(保存・伝播の機構)は工学では自明として立ち入らず、(a)(b)に絞って論じる。この選択と論じ方は、Campbell モデルへの批判(特に科学的発展への適用をめぐるもの)に対し、著者は Thomas Gamble による綿密な検討がその批判に耐えると信頼する立場を取り、自ら弁護は行わない(Source: 同上, p.242)。 第8章で著者が Campbell に帰する主要概念は3つある。第一に「盲目性(blindness)」——ランダムではなく予見不能性を意味するという特徴づけ——である。第二に「代理選択(vicarious selection)」——直接試行に代え分析・実験で変異を試すこと——も Campbell に由来する概念だと著者は明記する。第三に「入れ子の階層(nested hierarchy)」——ある水準の変異-選択過程が下位の変異-選択過程の産物を利用する構造——も Campbell モデルの本質的特徴の一つだが、Campbell 自身はこれを異なる文脈で用いているとも著者は注記する(Source: 同上, p.245-247)。 著者はまた、Campbell が「科学的知識の成長が変異-選択過程をどう反映するかを詳細に肉付けする」必要性を指摘し、その方向でいくつかの考察も行っていたと述べるが、著者の知る限りその課題(工学と対をなす科学版の変異-選択モデルの構築)は未達のままだと第8章終盤で言及している(Source: 同上, p.253-254)。 ## 関連 - [[翼型設計]] - [[変異選択モデル]] — 第8章が Campbell モデルを工学知識に適用して構築する枠組みの詳細。 - [[工学設計知識]] - [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 2 Design and the Growth of Knowledge - The Davis Wing and the Problem of Airfoil Design, 1908-1945]] - [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 8 A Variation-Selection Model for the Growth of Engineering Knowledge]] - [[What Engineers Know and How They Know It]] ## 出典 - Walter G. Vincenti, *What Engineers Know and How They Know It*, The Johns Hopkins University Press, 1990, Chapter 2, p. 48-49; Chapter 8, pp. 241-254.