# SREアンチパターン
## 定義
SREアンチパターンとは、SRE組織が繰り返し陥ってきた「魅力的な誤り」──1回や2回でなく何度も経験される、良識に見えて後になって誤りだと判明する常識──の類型を指す。[[Blake Bisset]](Dropbox)は『SREの探求』23章で18個のアンチパターンを、名前・簡潔な定義(box)・症状・処方箋という共通フォーマットで体系的に列挙した。アンチパターンは通常の失敗談(「今回はFoo Campで起こった……」という一回性の逸話)とは区別され、業界で繰り返し観測される構造的な誤りのパターンを指す。(Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 23 SREのアンチパターン]] §23冒頭)
Bissetの18個は3つの群に整理できる。(1) 旧来の運用パラダイムをSREの看板だけで踏襲する失敗(サイトリライアビリティオペレーション・画面を見つめる人間・群衆によるインシデント対応・根本原因=ヒューマンエラー・ページャーの引き渡し・マジックスモークを消すのは私だ・アラートリライアビリティエンジニアリング・ドッグウォーカーを雇う)、(2) リリース速度と信頼性のトレードオフを誤って扱う失敗(スピードバンプエンジニアリング・設計の難所・棒が多すぎてニンジンが不足・プロダクションの延期・MTTF>MTTR・依存性地獄)、(3) 組織・ガバナンス・SLOの設計不備(小回りの利かないガバナンス・不適切な「おやおや」のSLO・ファイアウォール越しにAPIを投げ渡す・運用チームの修復)である。(Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 23 SREのアンチパターン]])
## 横断的知見
- **Bissetのアンチパターン1(サイトリライアビリティオペレーション)とアンチパターン18(運用チームの修復)は、[[カーゴカルトSRE]]の両極を成す**: 前者は「業務の性質を変えずに看板だけをSREへ掛け替える」失敗、後者は「看板は変えずSREという駒を投入するだけで組織構造を変えない」失敗であり、既存の[[カーゴカルトSRE]]概念が集約するStoneの「名前だけのSRE」(3章)やWadatの4症状と同じ現象を、異なる軸(看板の掛け替え対駒の入れ替え)に分解する。(Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 23 SREのアンチパターン]] §23.1, §23.18, [[カーゴカルトSRE]])
- **アンチパターン11(棒が多すぎてニンジンが不足)は、[[SREエンゲージメントモデル]]が集約する「プッシュ対プル」の対立軸を、Yoshikawaの4区分(誰がやる形か)とは独立の「提供様式」の軸として再定式化する**: SoundCloud(6章)の実例やKip・Randyのプッシュ対プルモデル(『SREエンタープライズロードマップ』4章)が扱ってきたテーマを、Bissetは業界横断のアンチパターンとして命名し、その処方箋を「魅力的な選択肢として提供する」という語彙で説明する。(Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 23 SREのアンチパターン]] §23.11, [[SREエンゲージメントモデル]])
- **アンチパターン7(アラートリライアビリティエンジニアリング)は、Yang+ DSN2022の実証的な6分類([[アラートアンチパターン]])に、実務者の視点から「なぜアラートが増殖するか」という組織的原因論を補う**: 経験的な症例分類(Yang+ 2022)と実務者の一次証言(Bisset)が相補的な関係にある。(Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 23 SREのアンチパターン]] §23.7, [[アラートアンチパターン]])
## 未解決の問い
- Bissetの18個のアンチパターンは著者自身が「網羅的ではない」と明言する(§23.19)。他の実務者(Google・Facebook・Netflix等)が観測する組織固有のアンチパターンと突き合わせたとき、どの程度重複し、どの程度新規のパターンが見つかるか。
- 18個のアンチパターンは相互に独立ではなく、いくつかは因果的に連鎖する(例: アンチパターン10「設計の難所」の失敗がアンチパターン15「小回りの利かないガバナンス」を招く等)。アンチパターン間の依存関係・遷移パターンを明示的にマッピングする体系化はまだ存在しない。
- 「アンチパターンリポジトリ」という著者の構想(§23.19、ハッシュタグ#SREantipatternsでの収集提案)は、2018年の原書刊行後どのように実現したか、実現していないか。
- 18個のアンチパターンのうち、AIエージェントによる運用自動化が進んだ2020年代後半の文脈で新たに深刻化するもの(例: アンチパターン2「画面を見つめる人間」は自動化のアイロニーとどう再結合するか)はどれか。
## 関連
- [[カーゴカルトSRE]] — アンチパターン1・18が両極を成す、名前だけのSREという現象
- [[SREエンゲージメントモデル]] — アンチパターン10・11が扱うプッシュ対プルの提供様式軸
- [[アラートアンチパターン]] — アンチパターン7と相補的な実証的分類
- [[自動化のアイロニー]] — アンチパターン2「画面を見つめる人間」と監視のアイロニーの接続
- [[オンコールストレス管理]] — アンチパターン6「マジックスモークを消すのは私だ!」のヒーロー文化批判
- [[心理的安全性]] — アンチパターン4「根本原因=ヒューマンエラー」の寄与要因という語彙
- [[SRE組織変革]] — アンチパターン15・18が扱う組織・ガバナンス設計
- [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 23 SREのアンチパターン]] — 18個のアンチパターンの原典
- [[Blake Bisset]] / [[Dropbox]]
## 出典
- Blake Bisset, 「SRE のアンチパターン」, David N. Blank-Edelman(編)『SREの探求』, オライリー・ジャパン, 2021, 23 章.