# Followship ## 定義 Followship(フォロワーシップ)とは、共通の目標や目的のために協働する経験豊富な対応者たちの**適応的コレオグラフィ(adaptive choreography)**である([[Laura Maguire]]、[[@2023__SREcon23Americas__An Organizational Response to Incidents]] p.14, p.28)。インシデント対応システム(ICS)の枠組みでは Incident Commander という単一役割の選定・訓練・力量識別に組織的関心が集中しがちだが、実際の対応者の大半は「フォロワー」であり、フォロワー全体の働きを底上げすることがフォースマルチプライヤーになるという問題意識から提示された概念である。 ## Attention の非対称性という出発点 Maguire は Incident Commander に「Some irate VP(苛立った VP 某)」と対応者チームの双方から Attention(注意)が集中する三角関係図(p.16-19)を示し、実際の Impact(影響)は対応者チーム側に生じているにもかかわらず、組織的関心が IC 個人に偏る非対称性を可視化した。この非対称性こそが、フォロワー側の働きを不可視化してきた構造的原因だと位置づける。 ## 調整のパラドックス(coordination paradox) 複雑適応系ではあらゆる人のメンタルモデルが部分的・不完全にしかなり得ない(Woods, 2017)。ゆえに非定型・例外的事象に対処するには多様な視点の統合が必要になる(Grayson, 2018; Watts-Perotti & Woods, 2001)。しかし他者と協働すること自体が追加の認知負荷(Cost of Coordination, CoC)を生む(Klein et al., 2005; Maguire, 2019)ため、協調から得られる利益とその負荷はトレードオフの関係にある——これが調整のパラドックスである。対応者はこの負荷に DELEGATE(委任)・DELAY(後回し)・DIMINISH(優先度低下)・DROP(切り捨て)という4戦略で対処する(p.25)。 ## フォロワーシップが見える8つの行動 [[@2023__SREcon23Americas__An Organizational Response to Incidents]](p.51-65)は、フォロワーシップを具体的な発話例とともに8行動に整理する: 1. **Anticipating** — 他者の作業順序を先読みする("I'll hold on asking the network team until we have the results back.") 2. **Initiating** — 作業・連絡・アウトリーチを自発的に始める("I'll open a ticket with Google support.") 3. **Signalling intent** — 意図を表明し協調を助ける("Ben, I am in the database now and can run those queries") 4. **Proactively providing information / stating assumptions** — 能動的な情報共有と前提の明示("I think the payments team just launched a new feature that might be causing our issues.") 5. **Relaxing goals and constraints** — 互恵性を示すために自分の目標・制約を緩める 6. **Synchronizing** — 活動を同期させる 7. **Preparing themselves to be useful** — 役立つための準備("I'm going to read the backscroll so I can come up to speed on what's been tried already") 8. **Looking in and listening in** — 状況を観察し傾聴する ## 共通基盤(common ground)としてのフォロワーシップの土台 フォロワーシップは「相互の知識・信念・仮定」である共通基盤(common ground)の上に成立する。知識は team/others/technical system/organization の4象限(Maguire, 2020)に整理される。実際のインシデントチャットログ例(VEng2 が特定サービスの一時停止を提案し、現場の Eng2(ic) が「その挙動は通常運用(BAU)であり停止できない」と拒否する)は、共通基盤の欠如が組織間の協調を機能不全にする具体例として示される。 ## Reconfiguring(組織再編)という現象 インシデント対応チームは初期構成のまま固定されず、時間とともに再編される。Jeli の実データ(p.74-80)では、Front end → Back end → Research → Product → Customer Success → Sales の順に担当チームが段階的に判明・追加されていく様子が可視化されており、フォロワーシップは固定チームではなく時間発展する構成の中で発揮される。 ## 組織がフォロワーシップを育てる方法: Observe / Talk / Analyze - **Observe(観察)**: 対応者間の相互作用、共有された前提の有無、不同意の許容度、相互支援の様子を観察する。 - **Talk(共通言語化)**: common ground・signaling・updating・anticipating・synchronizing・prioritizing・grounding という「話し方について話す」ための共通語彙を組織内に作る。 - **Analyze(事後分析)**: post-incident analysis によって、システムの壊れ方・依存関係・知識の可搬性・支援の得やすさを明らかにする。 ## アンチパターン - **Shame, Blame, Retrain(恥・非難・再教育)**: フォロワーシップではなく個人の落ち度に帰属する反応。 - **MTTI(Mean Time To Innocence)**: 「自分は悪くない」ことを証明するまでの時間。協調ではなく自己防衛にリソースが割かれる。 - **調整コストを組織境界の向こう側へ押し付けること**: 自チームの CoC を下げるために他チームへ負荷を転嫁する。 ## 横断的知見 - **Incident Commander 中心主義への補完的視点**: [[Incident Commander]] concept はIC個人の役割定義・訓練・アンチパターンを扱うが、いずれも「IC対応者」という単一役割の内部設計に閉じている。Maguire のフォロワーシップは同じ問題領域を「IC以外の全員」の側から照らし、両者は補完関係にある。(Source: [[@2023__SREcon23Americas__An Organizational Response to Incidents]], [[@2016__OReilly__SRE Book - Chapter 14 Managing Incidents]]) - **Adaptive Choreography は Response Trio([[Laura Maguire]] の別トークでの引用)とフォロワーシップ(本人トーク)の両方で使われる中心概念**: [[@2023__SREcon23Americas__Human Observability of Incident Response]](Matt Davis)は Maguire の Adaptive Choreography をコンダクター・コミュニケーター・問題解決者の3役割(Response Trio)として引用したが、Maguire 本人のトークではこの概念を「フォロワー全体の協調行動」というより広い射程で使う。同じ理論的支柱が、他者による引用では「役割分担モデル」に、提唱者本人では「役割を超えた協調行動の総体」に力点を変えて現れている。(Source: [[@2023__SREcon23Americas__Human Observability of Incident Response]], [[@2023__SREcon23Americas__An Organizational Response to Incidents]]) ## 未解決の問い - フォロワーシップの8行動は、経験の浅い対応者にどう訓練・可視化できるか? スライドは経験豊富な対応者の観察から抽出された記述的モデルであり、育成手法までは踏み込んでいない。 - Reconfiguring(組織再編)の速度・パターンは、インシデントの重大度や技術ドメインによってどう変わるか? - MTTI(Mean Time To Innocence)を定量的に計測した研究はあるか? スライドは概念提示に留まる。 ## 関連 - [[Incident Commander]] — IC個人の役割設計。本概念はその補完(フォロワー側の働き) - [[Joint Activity]] — フォロワーシップが成立する協働の理論的基盤 - [[Common Grounding]] — フォロワーシップの土台となる相互理解の維持プロセス - [[Laura Maguire]] — 提唱者 - [[Jeli]] — 実例として引用される製品(People View・Narrative Marker) ## 出典 - [[@2023__SREcon23Americas__An Organizational Response to Incidents]] — SRECon Americas 2023。Followship の中心命題・調整のパラドックス・8行動・Observe/Talk/Analyze フレームワークの出典 - [[@2023__SREcon23Americas__Human Observability of Incident Response]] — SREcon23 Americas。Maguire の Adaptive Choreography を Response Trio として引用