# FMECA ## 定義 FMECA(Failure Modes, Effects and Criticality Analysis、故障モード・影響・致命度解析)は、システムを構成する各部品のあらゆる故障モードを検討し、その故障モードがシステム動作に及ぼす影響を明らかにする解析手法である。故障の影響はサブシステムレベル・システム全体レベルなど複数の階層で検討され、故障モードはその影響の重大度に応じて分類される。致命度(criticality)の定量化を伴わない場合は FMEA(Failure Modes and Effects Analysis)とも呼ばれる。DESIGN 段階で最も広く使われ最も効果的な設計信頼性解析手法とされる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.2)。 FMECA はハードウェアアプローチ(抵抗の開放、軸受の焼き付きなど実際のハードウェア故障モードを検討する)と機能アプローチ(フィードバック喪失、メモリ喪失など機能故障を検討する。ハードウェア項目を一意に特定できない場合や、ハードウェアが未確定な設計初期段階で用いる)のいずれか、または両者の組み合わせで行われる。機能アプローチにおける機能故障は、ハードウェアアプローチの FMECA ではハードウェア故障の影響として現れうる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.2)。 ## RPN(Risk Priority Number)と致命度数 AIAG-3 形式のワークシートでは、故障モードの重大度(Severity)・発生確率(Occurrence)・事前検出可能性(Detection)をそれぞれ通常 1〜10 の尺度で評価し、その積として Risk Priority Number(RPN)を算出する。RPN は解析内の問題を比較し、是正処置の優先順位を付けるために用いられる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.2)。 ``` RPN = Severity × Occurrence × Detection ``` US MIL-STD-1629 Method 102(criticality analysis)に基づく形式では、故障モード致命度数を次式で求める。 ``` Cm = β α λp t ``` β は機能喪失・ミッション喪失の条件付き確率、α は故障モード比(単一故障モードの項目では α = 1)、λp は標準ベース予測などから得られる部品の故障率・ハザード率、t は動作時間または危険にさらされる時間である。λp t は故障確率 1 − exp(−αλp t) に置き換えることもできる。アイテム致命度数 Cr は、そのアイテムに属する各故障モードの致命度数 Cm の総和として求める(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.2、式7.1)。 ## 実施手順と視点 効果的な FMECA は、システムの設計・用途に精通したエンジニアのチームが実施すべきであり、購買・技術サポート・試験・施設・マーケティングなど他の機能領域の専門家で補強してよい。最初のステップは、仕様書・図面・CAE データ・応力解析・試験結果など、その時点で利用可能な設計情報をすべて収集することである。致命度解析には信頼性予測情報も必要になる。システム機能ブロック図と信頼性ブロック図(第6章)がまだなければ準備し、FMECA 作成と結果理解の基礎とする(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.3)。 FMECA は安全性・ミッション成功・可用性・修理コスト・故障モード検出可能性など複数の視点から実施でき、どの視点で解析するかを決定し明示する必要がある。たとえば安全関連の FMECA は、可用性に深刻な影響を与えるが安全上重要ではない項目に低い致命度数を与えることがある。複数の運用フェーズがある場合や冗長化がある場合は、冗長サブシステムの有無それぞれについて故障モードの影響を評価する必要がある。FMECA は初期の設計情報が得られ次第開始し、設計の進展に合わせて反復的に更新すべきであり、試験結果も解析の更新に反映すべきである。デジタル電子システムのように低レベル故障(集積回路内トランジスタ等)が起きにくく、影響がシステム状態に応じて動的に変わるような設計には、FMECA が不向きな場合があるとされる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.3)。 ## 用途 FMECA は安全・信頼性上重要な故障モードと影響の特定という主目的に加え、(1) 試験プログラムに含める項目の特定、(2) フローチャートや故障探索表などの診断ルーチンの準備、(3) 予防保守要求の準備、(4) 組込み試験(BIT)・故障表示・冗長化の設計、(5) 可試験性解析、(6) 自動試験・BIT 用ソフトウェアの開発、(7) 顧客への報告や製品安全訴訟における証拠としての正式記録の保持、(8) 誤ったダイオード極性など生産起因故障の検討(プロセス FMECA)、という複数の用途で活用される(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.4)。 ## ソフトウェアツールと標準 FMECA 用ソフトウェアはワークシートによる手作業より迅速・正確な作成を可能にし、設計変更・設計オプション・異なる視点・異なる入力想定への対応を容易にする。異なるシステム階層・運用フェーズ・視点での致命度ランキング、レポート作成の一部自動化、感度解析の迅速な実施を可能にする。BQR Reliability Engineering 社の CARE ソフトウェアはその一例であり、コンポーネント単位の故障ツリーと RPN 解析を提供する(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.5)。 FMECA の書式・ガイドラインを定める標準には、AIAG-3(自動車産業向け)、US MIL-STD-1629 Method 102、ISO/TS16949(自動車品質マネジメントシステム)、SAE J1739(自動車産業向け FMEA)、IEC 60812(Procedure for Failure Mode and Effects Analysis)、ARP5580(非自動車分野向け推奨実践)、P-302-720(NASA Flight Assurance Procedure)などがある(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.2)。 ## 派生・関連手法 プロセス FMECA(PFMECA)は通常の FMECA と同じ手順・書式で行うが、「部品や機能がどう故障しうるか」ではなく「工程がどう失敗しうるか」を問う点が異なる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.8.3)。 DRBFM(Design Review Based on Failure Modes)は、トヨタのエンジニアが開発した、既存の実績ある設計への変更点だけに焦点を絞った FMECA の縮小版である。DRBFM は FMECA と同様の様式のワークシートを使い、部品・機能・変更点・変更理由・潜在的故障モード・発生条件・顧客への影響・防止設計手順・推奨処置・処置結果を記録する(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.15)。 ## 横断的知見 - **FMECA は信頼性予測の不確実性を前提にした運用規律を組み込んでいる**: [[信頼性予測]] が示すように、部品故障率の予測は決定論的な物理法則とは異なり大きな不確実性を伴う。第7章の FMECA はこれを踏まえ、致命度数 Cm の計算に用いる λp(部品故障率)には現実的な最悪ケースの値を用いるべきとし、定量データの信頼性が乏しい場合は 0〜1 の定性的な値尺度(1=必ず発生、0.5=時々発生、0.1=めったに発生しない、0=決して発生しない)を推奨する。故障モードが重大なほど、より悲観的な想定を用いるべきとされる。これは信頼性予測の限界を否定するのではなく、その限界を前提に意思決定の型を与える対処である。(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 6 Reliability Prediction and Modelling]], [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] ch.7 §7.4.6) ## 未解決の問い - FMECA はデジタル電子システムのような低レベル故障の影響が動的な系には不向きだと本文で明記される(§7.4.3)が、具体的にどのような代替・補完手法が推奨されるかは第7章では示されていない。第9章(電子システム信頼性)の内容で確認する必要がある。 - FMECA は機械部品・電子部品の分野固有の実装でどう具体化されるか。第8章・第9章の担当が積み増す予定である。 - RPN の3因子(重大度・発生確率・検出可能性)の 1〜10 尺度がどのように較正されるか、また評価者間のばらつきをどう抑えるかは第7章では示されていない。 ## 関連 - 概念: [[Design for Reliability]] / [[信頼性予測]] - 実体: [[Patrick D. T. O'Connor]] / [[Andre Kleyner]] - ソース: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 7 Design for Reliability]] - 書籍: [[wiki/entities/Practical Reliability Engineering|Practical Reliability Engineering]] ## 出典 - P. D. T. O'Connor and A. Kleyner, *Practical Reliability Engineering*, 5th ed., Wiley, 2012, Chapter 7 §7.4.2-§7.4.6, §7.4.15, §7.8.3.