# DevOpsとSREの関係 ## 定義 「DevOpsとSREはどう関係するか」という問い自体を扱う概念である。[[DevOps]] concept が個々の横断的知見の中でこの問いに触れているのに対し、本 concept は問いそのものを主題とし、実務者・研究者がこれまでに提示してきた説明の**軸**を整理する。『SREの探求』12章の編者 [[David N. Blank-Edelman]] は「SREのコミュニティと交流するようになった最初の頃から、DevOpsとSREの関係に興味を持ってきた」「私が知る限り、これはまだ解決していない疑問だ」と述べ、この問いに単一の正解がないことを前提としてコミュニティへ意見を募った(Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 12 DevOpsとSRE:コミュニティからの声]] §12.1)。 34か国1,165人の投稿の一部を編集した同章から抽出できる主要な説明軸は次の7つである(いずれも単一ソース内の異なる回答者による整理。詳細な回答者名は同章の source ページを参照)。 1. **実装関係**: SREをDevOpsの高度にスケーラブルな実装形・具体化とする(Tanner Lund、Santiago Suarez Ordoñez、Chad Todd)。 2. **アプローチ対役割**: DevOpsはアプローチ・哲学、SREは職務上の役割とする(Chris McEniry、Chris Sinjakli、Jason Gwartz、Aaron Blew)。 3. **成熟度に応じた移行**: 組織規模の拡大に伴いDevOps文化からSREへ段階的に移行する(Tim Heckman、Pranay Kanwar、Michael Ewald、Sean Lutner)。 4. **SDLCパイプライン上の注目方向**: DevOpsはパイプライン前半から後半へ、SREはプロダクションでの運用を起点に前段階へ遡って対応する([[Thomas A. Limoncelli]] のLimoncelliモデル、図12-1)。 5. **用語としての先後関係**: Google外ではDevOpsという語がSREより少なくとも6年早く定着していた(Mark Rendell)。 6. **別個だが重複が大きい/組織構造・政治的事情による区別**: 実際に意味のある相違点よりも組織の都合による名付けの違いだとする(Paula Paul、John Siegrist)。 7. **共通の問題への異なる反応(相補的)**: SREとDevOpsは対立する二者択一ではなく、反復速度を高める圧力という共通の問題への異なる反応であり、組み合わせて活用できる(Robert Treat、Chris Short、Andrew Farmer、Bennie Johnston)。 (Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 12 DevOpsとSRE:コミュニティからの声]] §12.4) ## 横断的知見 - **「どちらが先か」という問いには、少なくとも「用語としての先後」と「実践としての先後」という2つの異なる軸があり、両者は逆方向の答えを示す**: 12章のMark Rendellは、Google外の業界一般で「DevOps」という語が「SRE」という語より少なくとも6年早く使われてきたと述べ、SREに関連する言説の蓄積がDevOpsよりずっと短いとする(用語としての先後、Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 12 DevOpsとSRE:コミュニティからの声]] §12.4)。一方11章でGene Kimは、『The DevOps Handbook』の執筆過程で「私たちが積極的に活用していて今では当たり前のことと思えるまでになっているDevOpsのパターンの実に多くについて、Googleが先駆者だったのだと繰り返し気付かされた」と述べ、自動化テスト文化・レディネスレビュー・単一共有ソースコードリポジトリという具体的なパターンをGoogleのSRE実践から抽出されたものとして紹介する(実践としての先後、Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 11 DevOpsの幅広い実践現場で活用されているSREのパターン]] §11.0-§11.1)。つまり「DevOps」という**語**が業界に広まったのはSREという語より早いが、DevOpsが実践として結晶化させた**個別パターンの少なくとも一部**はSREという語が使われる以前のGoogle社内実践に遡るという、語と実践の起源が逆方向にねじれた関係にある。 - **Limoncelliモデルは、原著者自身による一次資料(12章)と、別の著者を介した二次紹介(『SREをはじめよう』1章)の両方が本 wiki に存在する**: [[Thomas A. Limoncelli]] 自身は12章で、SDLCパイプライン上の求人広告の傾向分析からこのモデルへ至った経緯を一人称で説明し、DevOpsが前半から後半へ、SREがプロダクション運用を起点に前段階へ遡るという図12-1を提示する(Source: [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 12 DevOpsとSRE:コミュニティからの声]] §12.4、図12-1)。同じモデルは『SREをはじめよう』1章でも [[David N. Blank-Edelman]] を通じて間接的に紹介されており、同章はモデルの評価として「両者が態度・意図では重ならないように見えて実際には多く重なる理由をこのモデルが説明してくれる」と述べる(Source: [[@2024__OReillyJapan__SREをはじめよう - Chapter 1 はじめに]])。一次資料が後から取り込まれたことで、これまで間接的にしか参照できなかったモデルの提唱者自身の論拠(求人広告分析、「パラシュート部隊」としてのSREの前半介入)が確認できるようになった。 - **「class SRE implements DevOps」という実装関係の定式化(Google SRE Workbook, 2018)は、12章コミュニティ回答の「立場A」と同じ結論に、異なる論拠から到達している**: Google SRE Workbookの定式化はSREをDevOpsの哲学(サイロ除去・小さく頻繁な変更・測定・共有)を具体的な実装(SLO・エラーバジェット・トイル上限)に落とし込むものと位置づける(Source: [[@2018__Google SRE Workbook__Chapter 1 How SRE Relates to DevOps]])。12章のTanner Lund・Santiago Suarez Ordoñezも同じ「SRE=DevOpsの実装形」という結論に達するが、論拠はコードによるスケーラビリティ(Lund)や10年間の試行錯誤の蓄積(Suarez Ordoñez)であり、Google SRE Workbookが挙げる具体的な実装要素(SLO・エラーバジェット)への言及はない。同じ結論を異なる実務者が異なる理由づけで独立に導いている点は、この整理が特定企業の公式見解にとどまらず実務者の間で広く共有された直観であることを示唆する。 ## 未解決の問い - 12章の7つの説明軸(実装関係・アプローチ対役割・成熟度移行・パイプライン注目方向・用語先後・組織事情・相補的反応)は互いに排他的ではなく、同じ回答者が複数の軸にまたがって言及する場合もある。これらの軸自体を統合するメタな枠組みは存在するか、それとも「解決していない疑問」(Blank-Edelman)のまま多軸併存が本質なのか。 - 「立場A(SRE=DevOpsの実装形)」と「立場F(組織構造・政治的事情による区別に過ぎない)」は、前者が実質的な相違を前提とし後者がそれを否定する点で緊張関係にある。この緊張は、単に組織ごとの実態の違いを反映しているのか、それとも問いの立て方自体に曖昧さがあるのか。 - Limoncelliモデルの「SREはパイプライン前半へパラシュート部隊のように介入する」という記述は、[[SREエンゲージメントモデル]] concept が扱う「SREチームが開発チームとどう関わるか」の類型論とどう対応するか。両者は独立に発展した枠組みであり、明示的な突き合わせは本 concept の現ソース群では未検証。 - 用語の先後関係(Mark Rendell、12章)と実践の先後関係(Gene Kim、11章)のねじれは、他の企業・地域の一次資料でも同様に確認できるか、それともGoogle・Accenture・Stack Overflowという限られた立場からの観察に留まるか。 ## 関連 - [[DevOps]](CAMS・起源・分解・「class SRE implements DevOps」など、DevOps概念そのものの横断的知見) - [[SRE]] - [[SREエンゲージメントモデル]] - [[Thomas A. Limoncelli]] / [[David N. Blank-Edelman]] - [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 12 DevOpsとSRE:コミュニティからの声]](本 concept の主要な一次資料) - [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 11 DevOpsの幅広い実践現場で活用されているSREのパターン]](実践としての先後関係) - [[@2024__OReillyJapan__SREをはじめよう - Chapter 1 はじめに]](Limoncelliモデルの二次紹介) ## 出典 - [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 12 DevOpsとSRE:コミュニティからの声]](David N. Blank-Edelman 編, 『SREの探求』, オライリー・ジャパン, 2021, 12章) - [[@2021__OReillyJapan__SREの探求 - Chapter 11 DevOpsの幅広い実践現場で活用されているSREのパターン]](Gene Kim, 『SREの探求』, オライリー・ジャパン, 2021, 11章) - [[@2024__OReillyJapan__SREをはじめよう - Chapter 1 はじめに]] - [[@2018__Google SRE Workbook__Chapter 1 How SRE Relates to DevOps]]