# DRM(デジタル著作権管理) ## 定義 DRM(digital rights management)とは、コンテンツファイルを暗号化して複製不能にし、復号鍵とその利用条件(何回再生できるか、CDに焼けるかなど)を記した「ライセンス」をユーザー固有鍵で別途暗号化して配布する仕組みである。コンテンツを再生するアプリケーションは、ライセンスに記された条件に従うことが信頼される。1990年代のWindows Media Player・2000年代のFairPlay(Apple)から、2017年以降のHTML5 Encrypted Media Extensions(ブラウザでのNetflix視聴保護)、ゲームプラットフォームのアンチチート機構、クラウド上のユーザーデータ保護、銀行アプリのRuntime Application Self-Protection(RASP)まで、「暗号化+ライセンス」という同一のパターンが繰り返し応用されてきた。ペイTVの条件付きアクセス(スマートカードによる鍵管理)やDVDのCSSも同種の設計思想に基づく。DRMを技術的に成立させる中核の困難は、汎用コンピュータ上ではコンテンツ所有者にとって利用者自身が「敵」であり、鍵管理ロジックをどこかタンパー耐性のある場所(ドングル・スマートカード・クラウド・enclave)に隔離しない限り、逆アセンブラを持つ攻撃者に鍵管理コードを解析され続けるという点にある。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 24 Copyright and DRM]] ch.24 §24.1, §24.3.1, §24.3.3) ## 横断的知見 - **DRMの鍵管理コードをどこに隔離するかという設計問題は、第18章が論じる耐タンパ性(hardware tamper resistance)の実務的な帰結点の一つである**: 第24章は、Windows Media Playerの鍵管理機能が「individualized blackbox(IBX)」というソフトウェア難読化コンポーネントとして実装され、Windows Updateのたびに配置場所を変える「セキュリティ更新」戦略が取られたことを述べる一方、これが繰り返しリバースエンジニアリングされたと認めている。この失敗は、第18章が示す「鍵材料の街頭価値をゼロに近づける」ための本命の手段——スマートカードのような専用の耐タンパハードウェア——がなぜ必要とされたかを裏づける。実際、第24章はペイTVの鍵管理をスマートカードに担わせた設計(bulk暗号化はコモディティチップ、鍵管理は交換可能な低コストトークン)を、まさに「鍵が漏洩したら交換すればよい」という耐タンパ設計の経済合理性として説明しており、これは第18章のHSM設計原則と同型である。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 24 Copyright and DRM]] ch.24 §24.2.4.1, §24.3.1, §24.3.3, [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 18 Tamper Resistance]] ch.18 §18.2) - **ソフトウェアの耐タンパ性(難読化)を評価する困難さは、第18章のFIPS/Common Criteria評価が抱える「レモン市場」化の問題と同型の形で第24章にも現れる**: 第24章は、RASP(runtime application self-protection)のテスターが2週間鍵を抽出できなくても、1か月かけて挑む攻撃者への保証には全くならないと指摘し、「lemons market is therefore to be expected(レモン市場が生まれるのは必然だ)」と明言する。これは第18章が指摘したFIPS 140-3以前の評価制度における非対称情報問題(評価機関の質を利用者が事前に判別できない)と、第8章(セキュリティ経済学)が導入したAkerlofの逆選択理論を、耐タンパ性評価とソフトウェア難読化評価という2つの独立した技術領域の双方に適用できることを示す。(Source: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 24 Copyright and DRM]] ch.24 §24.3.3, [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 18 Tamper Resistance]] ch.18 §18.5.3) ## 未解決の問い - Trusted Computing Group(Microsoft・Intel等が2000年代初頭に設立)がDRMをPCアーキテクチャに組み込もうとして失敗したにもかかわらず、その副産物であるTPM・TrustZone・SGXが結果的に今日のトラステッド実行環境の基盤になったという経緯([[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 24 Copyright and DRM]] ch.24 §24.3.1が言及)は、[[耐タンパ性]]・[[トラステッド実行環境(TEE)]]のどちらの視点からも十分に統合されていない。両概念ページを横断して整理する必要がある。 - HTML5 EME/Widevineのように、DRMの実装がオープンソースソフトウェアと構造的に両立しないという問題は、2020年時点でどこまで一般化しているか(ブラウザ以外の領域、たとえばIoTデバイスのファームウェア検証等)は本章の範囲外。 - ソフトウェア難読化の「レモン市場」問題に対して、耐タンパハードウェアの評価制度(FIPS 140-3、Common Criteria)のような第三者評価スキームが提案・採用された例はあるか。第24章・第18章のいずれも体系的な処方箋までは踏み込んでいない。 ## 関連 - ソース: [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 24 Copyright and DRM]](§24.1〜§24.3) / [[@2020__Wiley__Security Engineering 3e - Chapter 18 Tamper Resistance]](§18.2, §18.5.3) - 概念: [[耐タンパ性]](DRMの鍵管理を実現する基盤技術) / [[アクセサリ制御]](DRMと同じ暗号技術基盤を持つ隣接分野) / [[電子透かしと著作権マーキング]](DRMと並ぶもう一つの著作権技術的対策) / [[セキュリティ経済学]](DRM強化の受益者に関するHal Varianの分析) - 実体: [[John Perry Barlow]](DRMに依らないビジネスモデルへの転換を早くから予見した論者) ## 出典 - Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 24, §24.1-§24.3. - Ross Anderson, *Security Engineering: A Guide to Building Dependable Distributed Systems*, 3rd Edition, John Wiley & Sons, 2020, Chapter 18, §18.2, §18.5.3.