# DASEアーキテクチャ
## 定義
DASE (Disaggregated and Shared Everything) アーキテクチャとは、[[VAST Data]] が 2016 年に設計した分散ストレージクラスター設計パラダイムである。コンピュートロジックを物理ストレージメディアから切り離し(Disaggregated)、かつ全コンピュートノードが全ストレージデバイスに NVMe over Fabrics (NVMe-oF) で直接アクセスできる(Shared Everything)という 2 つの原則を組み合わせる。すべてのシステム状態をノード DRAM ではなく共有 SSD に保持することで、「データオーナーシップ」を持つノードが存在しない単一非分割ネームスペースを実現する。(Source: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] pp.19–21)
具体的なコンポーネントは 2 種類に集約される。
- **CNode (コンピュートノード)**: x86/ARM サーバー上で動作するステートレスコンテナ。クライアント要求への応答・ElementStore 管理・データベースクエリ・DataEngine 関数実行を担う。書き込みキャッシュを DRAM に持たず、すべての状態変更は DBox の複数 SSD に書いてから確認応答する。
- **DBox (HA エンクロージャー)**: ストレージクラスメモリ (SCM) SSD と Hyperscale Flash (QLC NVMe SSD) を搭載するストレージ筐体。CNode が NVMe-oF でブート時に全 SSD をマウントする。
Shared-Nothing アーキテクチャとの違いは「ノード間の data partitioning と inter-server coordination の排除」にある。Shared-Media(古典的 SAN)との違いは「計算ロジックを独立スケール可能なコンテナに切り出した点」にある。(Source: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] p.19)
## DASEの設計上の重要な特性
### ステートレス CNode とノンストップ更新
CNode がステートレスである結果、クラスターアップグレードは「古いコンテナと新しいコンテナを同時起動してシームレスに切り替える」手順で完結する。BIOS POST を含む完全再起動なしにコンテナ単位で更新でき、ノードのダウンタイムは数秒以内に収まる。電源断後も管理者介入なしで再起動し、DRAM に保護すべき状態を持たないため NVRAM 系の複雑な回復ルーティンが不要である。(Source: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] pp.21, 135)
### 非対称スケール
CNode と DBox を独立してスケールできる。ストレージ容量を増やさずにコンピュートを追加する(バースト計算要件への対応)、あるいはコンピュートを増やさずに SSD を追加する(大容量保存への対応)、という非対称スケールアウトが可能。世代が異なる CNode・DBox を同一クラスター内に混在させられる。(Source: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] pp.25–28)
### 単一ネームスペース
ノードが SSD のオーナーシップを持たないため、1 クラスター = 1 ネームスペースが自然に成立する。読み書きの単純なリクエストはどの CNode でも他の CNode に問い合わせなしで完結する。これにより、ボリュームやファイルシステム境界を意識した管理が不要になる。(Source: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] pp.19–20)
## 横断的知見
- **ステートレス設計がコンピュートストレージ分離の副作用としてノンストップ運用を可能にする**: [[コンピュートストレージ分離]] の先行事例 (Amazon Aurora 等) では分離の主目的はスケール独立性だったが、VAST DASE では「CNode がステートレスであること」が非破壊アップグレード・電源断後の自動回復という副次的価値を生む。ステートレス性がアーキテクチャ特性の連鎖的メリットを発生させる典型例。(Source: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]])
- **NVMe-oF がコンピュートストレージ分離のレイテンシコストを緩和する前提**: 従来のコンピュートストレージ分離では「ネットワーク越しのランダム I/O レイテンシ増大」が主要課題だった。DASE はこれを NVMe-oF の超低レイテンシ (マイクロ秒オーダー) で吸収し、CNode が DRAM キャッシュなしでもメタデータを「マイクロ秒以内に取得できる」と設計している。NVMe-oF の成熟が DASE 設計を実現可能にした。(Source: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] p.21)
## 未解決の問い
- NVMe-oF のネットワーク帯域が飽和した場合の性能特性と回避策は何か。DASE では全 CNode が全 SSD に直接アクセスするため、クラスター規模拡大時の NVMe Fabric の帯域消費を管理する機構の詳細が白書からは読み取れない。
- Shared-Everything により全 CNode がメタデータ全体にアクセス可能だが、メタデータ書き込み競合(Element Locking)のスケール限界はどこにあるか。
- DASE と従来の Shared-Nothing (Ceph・HDFS 等) の性能比較を第三者が実施した公開ベンチマークは存在するか。VAST の主張は自己申告に留まる。
- EBox (CNode + DBox を統合した筐体) によって DASE の「分離」原則がどこまで緩和されるのか、またその際のトレードオフは何か。
## 関連
- 概念: [[コンピュートストレージ分離]] — データベース分野での類似パターン
- 概念: [[ストレージ計算分離]] — 別角度からの同一課題
- 概念: [[分散ストレージ]] — 上位概念
- エンティティ: [[VAST Data]] — 本アーキテクチャの考案者
- ソース: [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] — 詳細ドキュメント
## 出典
- [[@2025__VAST Data__VAST AI Operating System]] pp.19–45, 135–136