# 電子部品の信頼性 ## 定義 電子部品の信頼性(reliability of electronic components)とは、個々の電子部品(IC・トランジスタ・ダイオード・受動部品・はんだ接合・コネクタ等)がシステム信頼性に対して持つ寄与を、部品選定・ディレーティング・回路設計・スクリーニング・試験・保守という設計上の扱いの観点から捉える領域である。[[故障の物理]] が個々の故障メカニズムそのもの(何が起きているか)を扱うのに対し、本概念は部品・回路レベルでその故障をどう防ぎ・検出し・許容するかという設計上の実務(どう対処するか)を扱う(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 9 Electronic Systems Reliability]] §9.2-§9.7)。 ## 部品信頼性からシステム信頼性へ 電子システムの設計は、他のいかなる工学分野よりも「類似しているが設計者・生産技術者がほとんど制御できない、非常に多数の部品」を利用する点に特徴がある。特定の論理機能に使う集積回路は、カタログ品を選ぶ以外の選択肢がほとんどなく、部品自体の設計信頼性への回路設計者の関与は限定的で、信頼性は主に調達・製造段階の品質管理によって決まる。LSI・VLSIの進展とともにこの傾向は強まってきたが、カスタム/セミカスタムIC(ASIC)の普及により、設計者が部品(または機能ブロック)レベルまで信頼性解析を行う責任を負う場面が再び増えている。このため電子システムの設計者は、他分野以上に、生産・品質管理・試験計画・信頼性工学を含む多職能チームの一員として振る舞う必要がある(Source: ch.9 §9.1)。 電子部品は封止後に内部検査ができないため(超高信頼性用途のX線検査を除く)、初期性能に影響しない潜在的欠陥(freak)が将来の故障の主因になるという構造的な制約を持つ。良品は原則として故障せず、故障は「欠陥品の摩耗・応力誘起故障」という形をとるという捉え方が、本章全体の基調になっている(Source: ch.9 §9.1)。 ## 部品種別と品質管理の水準 IC は「部品」ではなく多数のトランジスタ・容量を内包するサブシステムであり、標準IC・PLD/FPGA・混合信号IC・MMIC・SOC・MEMSに分類される。信頼性・品質管理のための仕様体系として、米国 M-38510(現在はあまり使われない)や、IEC・CECC・BS 9400 のような「承認部品(approved components)」仕様が存在するが、部品種類の急速な多様化に対応するため、個別デバイスではなく製造プロセス全体を承認する capability approval(適格製造者リスト、QML。米国 MIL-STD-PRF 38535C)という考え方が普及した。ASICの製造承認にも適用される。近年は「承認部品」と商用グレード部品の品質差が縮小し、多くの高信頼性用途でも商用グレード部品が使われるようになっている(Source: ch.9 §9.3.1.6)。 スクリーニング(良品を傷めずに欠陥品を検出する工程)は、故障率が期待的に高く早期除去が歩留まり・信頼性を改善する場合、かつスクリーニングコストがそれによる損失回避コストを下回る場合に正当化される。MIL-STD-883G に基づく A(S、宇宙用)/B(軍用・高信頼性用)/C(緩和仕様)の3レベルが標準として存在し、バーンイン(125℃・168時間が標準だが、168という数値自体に技術的根拠は乏しい)を含む。近年は部品メーカー側での出荷前バーンインが主流になり、新しいパッケージ技術ではハンドリング損傷のリスクからユーザー側バーンインは非推奨とされる(Source: ch.9 §9.3.1.7)。 受動部品(抵抗器・コンデンサ・インダクタ・PCB・コネクタ等)は一般に非常に信頼性が高く、固有の劣化メカニズムをほとんど持たない(例外: LED、リレー、一部の真空部品、電解コンデンサ)。ケーブル・コネクタは「高度でない」部品とみなされがちだが、酸化・コンタミネーション・腐食による端子の開放/断続故障により、現代システムの故障の大きな割合(しばしば過半数)を占める(Source: ch.9 §9.3.2, §9.3.2.5)。 ## ディレーティングとアップレーティング ディレーティング(derating)は、部品に印加する応力を規定最大値より低い水準に制限する設計慣行であり、(1) 限界的な欠陥部品の故障可能性低減、(2) パラメータばらつきの影響低減、(3) 長期ドリフトの低減、(4) 応力計算の不確実性への余裕確保、(5) トランジェント応力への保護、という5つの効果を持つ。通常用途とHi-rel用途(宇宙機等)で異なる目安値がガイドラインとして与えられ、NAVSEA-TE000-AB-GTP-010・MIL-STD-975M・MIL-STD-1547A・ECSS-Q-30-11-Aといった標準が存在する(Source: ch.9 §9.6.4)。 アップレーティング(uprating)はディレーティングと対をなす概念で、メーカー仕様外(例: 商用グレードの70/85℃定格部品を、より高温になる過酷環境用途で使う場合)での部品の機能維持能力を評価する手法である。パラメータ適合確認・パラメータ再特性評価・ストレスバランシングという手法があり、CALCE(メリーランド大学)がこの分野の手法開発に貢献した。コスト削減目的で低グレード部品に置き換える形のアップレーティングは、試験によらず信頼性余裕を単純に削る点で前者と性格が異なる(Source: ch.9 §9.6.5)。 ## 回路設計における信頼性技法 回路・システムレベルの信頼性確保は、電気・熱応力の回避、パラメータばらつき・許容差への対応、非応力要因(EMI・タイミング・寄生パラメータ)、製造・保守の容易性という4つの観点から行われる。具体的な技法として、トランジェント電圧保護(ESD/EOSに対するバッファ用コンデンサ・クランプ用ダイオード・電流制限抵抗)、熱設計(接合部温度 $T_J=T_A+\theta W$ に基づくヒートシンク・ファン・液冷設計)、EMI/EMC対策(フィルタ・シールド・インピーダンスバランス・デカップリングコンデンサ)、冗長化(部品からサブシステムまで任意レベル、想定故障モードに応じた構成選択)、設計簡素化(部品数・部品種類の最小化)がある。これらは互いにトレードオフの関係にあり(冗長化・保護回路の追加は部品数削減と両立しない)、コスト・故障の帰結との兼ね合いで選択される(Source: ch.9 §9.6.1-§9.6.8)。 スニーク解析(sneak analysis)は、部品故障によらない意図しない接続や条件(スニーク回路)を、単一ライン・グランドドーム・パワードーム・コンビネーションドーム・Hパターンという5つの基本パターンへの分解を通じて識別する技法である。スニーク回路はパス・オープン・タイミング・表示・ラベルの5類型に分けられ、電気・電子回路だけでなく動作中のソフトウェアにも適用される。部品故障を前提とするFMECAとは異なり、設計・インタフェースの誤りに起因する動的な不具合を対象にする点が特徴である(Source: ch.9 §9.6.9)。 ## パラメータのばらつきと公差設計 電子部品のすべての電気パラメータは、部品間の初期ばらつきと経時ドリフトの両方を持つ。抵抗器の1/5/10/20%のような公差帯は製造後の測定による選別で決まり、選別基準そのものが元の母集団分布の形を変える。パラメータ設計(公称値に基づく設計)と公差設計(ばらつきが歩留まり・安定性・信頼性に与える効果の評価)は区別され、初期の部品間ばらつきは主に生産歩留まりに、応力・経時変化によるばらつきは主に信頼性に影響する。解析手法としてワーストケース解析(単純回路向け)、トランスポーズ回路法(Tellegenの定理に基づく感度解析)、モンテカルロシミュレーション(複数パラメータの同時変動評価)がある(詳細は [[工学的ばらつき]] を参照。一般的な公差効果の解析は第11章に委ねられる)(Source: ch.9 §9.7.1-§9.7.3)。 ## 間欠故障とNo Fault Found 現代の電子システムの故障の大きな割合は間欠故障であり、コネクタの振動時未接続・回路基板配線の断続開放・パラメータ許容差の積み上げなどが原因になる。報告される故障の50%超が、根本原因が特定されないまま「no fault found(NFF)」「retest OK(RTOK)」と診断され、原因不明のまま部品が再使用されて再発するため、システムダウンタイム・修理・予備品コストを増大させる。これは部品自体の物理的な故障メカニズムでは説明できない、回路・システムレベル特有の信頼性課題である(Source: ch.9 §9.5.4)。 ## 横断的知見 - **第6章の標準ベース予測(MIL-HDBK-217等)が部品の「公称」故障率データを積み上げるのに対し、第9章は同じ部品でも品質管理の水準(承認部品・商用グレード・スクリーニングレベルA/B/C)によって実際の信頼性が大きく異なることを示す**: [[信頼性予測]] が扱う標準ベース予測は、部品を型式ごとに一定の故障率を持つものとして扱い、部品数・複雑度の積み上げでシステム故障率を合成する。これに対し第9章は、同一型式の部品でも「承認部品」(M-38510、QML等の仕様準拠品)と一般商用グレード品では品質管理の水準が異なり、スクリーニング・バーンインの有無・レベル(A/B/C)によって欠陥品(freak)の混入率が変わることを示す。すなわち第6章が示す「部品故障率データを積み上げる」という予測の入力そのものが、第9章が示す部品調達時の品質管理水準によって大きく変動しうるという関係にあり、標準ベース予測の限界(第6章§6.3.1)の一因を部品調達実務の側から補強する。(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 6 Reliability Prediction and Modelling]] §6.3.1, [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 9 Electronic Systems Reliability]] §9.3.1.6, §9.3.1.7) ## 未解決の問い - 部品調達時の品質管理水準(承認部品/商用グレード、スクリーニングレベル)の違いが、実際にどの程度の故障率差につながるかは第9章単独では定量化されない。第6章のPRISM/217Plusのような非部品要因評価手法との接続は今後の課題。 - スニーク解析(部品故障によらない意図しない接続の識別)は、FMECAが不得意とする「デジタル電子システムの動的な低レベル故障」への補完技法として [[Design for Reliability]] に位置づけたが、ソフトウェアの動的な依存関係(マイクロサービス間の予期しない相互作用等)にどこまで応用できるかは本章では示されない。 - NFF/RTOKという間欠故障特有の診断困難性は、クラウドサービス運用における「原因不明のグレイ障害」や「自己回復した障害」とどう対応づけられるか。 ## 関連 - ソース: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 9 Electronic Systems Reliability]] - 概念: [[故障の物理]] / [[Design for Reliability]] / [[信頼性予測]] / [[工学的ばらつき]] - 実体: [[Patrick D. T. O'Connor]] / [[Andre Kleyner]] / [[wiki/entities/Practical Reliability Engineering|Practical Reliability Engineering]] ## 出典 - P. D. T. O'Connor and A. Kleyner, *Practical Reliability Engineering*, 5th ed., Wiley, 2012, Chapter 9, §9.1-§9.7.