# 金銭価値による優先順位づけ ## 定義 金銭価値による優先順位づけとは、テーマ(またはフィーチャ)がもたらす収益とかかるコストを金額として見積り、正味現在価値(NPV)・内部収益率(IRR、ROIとも呼ばれる)・回収期間・割引回収期間という4つの財務指標で比較することで、開発対象の優先順位を決める手法である。収益は新しい収益・増加する収益・維持できる収益・業務の効率化の4分類に整理したうえで、テーマ評価ミーティングでテーマ別収益ワークシートを埋めて見積もる。得られた四半期ごとのネットキャッシュフローを上記4指標で評価し、テーマ間の比較に用いる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]] §1, §3, §4) 4つの財務指標にはそれぞれ異なる長所・短所がある。 - **正味現在価値(NPV)**: 各期間のネットキャッシュフローを現在価値に割引き合計する。計算・理解は容易だが、投資規模の異なるテーマ同士の比較では誤解を招きやすい(同じNPVでも先行投資額が少ないテーマのほうが望ましいが、NPVだけでは見えにくい)。プロジェクトの規模に左右されるため、NPVに閾値(最低ライン)は設定できない。(Source: 同上 §3-2) - **内部収益率(IRR/ROI)**: 収益源のNPVが0になる利率として定義され、投資に対する収益をパーセンテージで表す。パーセンテージのためテーマ同士を直接比較しやすく、多くの組織は満たすべき最低収益率(MARR)を設定してIRRで投資対象を絞り込む。ただし計算が複雑で、いくつかの事前条件(キャッシュフローが費用から始まる・いったんプラスに転じたら以降ずっとプラス・プラスの合計がマイナスの合計を上回る)を満たさない場合は算出できない。またIRRが高くても投資規模や投資期間の違いによって総収益の優劣が逆転することがあり、IRRだけでは判断を下せない。(Source: 同上 §3-3) - **回収期間**: 初期投資を取り戻すまでにかかる時間。計算・理解が容易で、組織が抱える財務リスクの金額と期間を同時に測定できる(回収期間が長いほどリスクは高い)。欠点は貨幣の時間的価値を考慮しないこと(将来の金額と現在の金額を等価に扱う)と、プロジェクトの収益性そのものは測れないことである。(Source: 同上 §3-4) - **割引回収期間**: 回収期間の算出にキャッシュフローの割引を組み込んだもの。回収期間が貨幣の時間的価値を無視するという欠点を修正する。(Source: 同上 §3-5) いずれの指標を使う場合も、単一の指標だけでテーマの優先順位は決まらない。同じ収益データからでも、NPVが最も高いテーマが割引回収期間も最も長かったり、ROIが最も高いテーマがNPVは最も低かったりする(本書のWebPayroll例、表10.15)。プロダクトオーナーとチームが共同で、組織が取れるリスク・許容できる回収期間・割けるリソース・他の投資対象の有無を考慮して最終判断を下す必要がある。(Source: 同上 §4) ## 横断的知見 - 9章はフィーチャの優先順位づけを「金銭価値・コスト・新しい知識・リスク」の4要素の組み合わせとして提示するが、金銭価値をどう定量化するかの具体的な算出手順までは示していない。10章が示す収益源の4分類・キャッシュフローの見積り・NPV/IRR/回収期間/割引回収期間による比較は、9章の枠組みにおける「金銭価値」という1つの軸を数値化するための下位技法として位置づけられる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]]) - 9章のリスク・価値の四象限分類は「高/低」という相対的な二値評価にとどまるのに対し、10章のNPV・IRRはテーマの価値を金額とパーセンテージで連続的に算出する。ただし10章の指標が定量化するのは9章の4要素のうち「金銭価値」のみであり、「新しい知識の獲得」や「リスクの低減」を金額換算する方法は10章では示されていない。両者はこの点で補完関係にあり、9章の枠組みが4要素を統合する上位の意思決定プロセス、10章の指標がそのうち1要素(金銭価値)を精密化する下位の計算手続きという関係になっている。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]]) ## 未解決の問い - NPV・IRR・回収期間・割引回収期間の4指標が異なる結論を導く場合(本書の表10.15のように)、どのような判断基準で最終的な優先順位を決定すべきか。10章はプロダクトオーナーとチームの協議に委ねており、具体的な意思決定手順は示していない。 - 9章の「新しい知識の獲得」と「リスクの低減」という価値を、10章のような金額ベースの指標に統合(または換算)する方法はあるか。 - 11章(狩野モデルによる「望ましさ」の評価)で示される顧客満足度の評価軸は、金銭価値による評価とどのように組み合わされるべきか。11章の取り込みで明らかになる可能性がある。 - 機会費用(割引率)は「組織が過去のプロジェクトで得てきた平均収益率」を使うという原則が10章で示されるが、実務でこの値をどう算出・更新すべきかは示されていない。 ## 関連 - 章: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]] - 書籍: [[wiki/entities/アジャイルな見積りと計画づくり|アジャイルな見積りと計画づくり]] - 概念: [[フィーチャの優先順位づけ]](金銭価値・コスト・新しい知識・リスクの4要素の枠組み) ## 出典 - Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 10章.