# 適応制御 ## 定義 適応制御(adaptive control)とは、対象システムの特性が時間とともに変化する、あるいは動作点によって変化する状況に対応するため、コントローラのパラメータを実行時に変えていく制御手法の総称である。*Feedback Control of Computing Systems* 第11章は、計算機システム向けに互いに異なる2つの適応制御を対比する形で紹介する。(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] §11.2, §11.3) - **ゲインスケジューリング(gain scheduling)**: 動作点(operating regime)をスケジューリング変数(scheduling variable、対象システムから得られる測定量)であらかじめ区分し、区分ごとに個別に設計したコントローラパラメータの組を実行時に切り替える。**設計時に**複数の動作点それぞれについてコントローラ設計を完了させておき、**実行時には**スケジューリング変数の値に応じてどの設計を使うかを選択するだけである。M/M/1/K待ち行列の例では、高到着率・低到着率それぞれで個別にCHR法によりPI制御パラメータを設計し、測定到着率に応じて2組のパラメータを切り替える。(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] §11.2) - **自己調整レギュレータ(self-tuning regulator)**: 実行時に対象システムのオンラインシステム同定(通常は再帰的最小二乗法)を行ってモデルパラメータの推定値を毎サンプル時刻ごとに更新し、その更新後のモデルから望ましい閉ループ極を維持するようコントローラパラメータを再計算する。**実行時に**推定(モデル更新)と設計(ゲイン再計算)の両方を行う点が、設計時にすべての設計を終えるゲインスケジューリングとの決定的な違いである。ある種のオンライン極配置設計とみなせる。(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] §11.3) 両者の違いは「設計時に何を決め、実行時に何を決めるか」という分業の置き方にある。ゲインスケジューリングは設計の重さを事前に引き受ける代わりに実行時の挙動を作り込みやすく、自己調整レギュレータは実行時の推定・設計に委ねる代わりに対象システムへの追加要求(スケジューリング変数の公開)を避けられる。この分業の違いが、そのまま両手法の長所・短所の裏表になっている。(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] §11.2, §11.3) ## 横断的知見 - (この節は今後、複数ソース——本書の他章や他の適応制御系ソース——の突き合わせで得られた知見を蓄積する。現時点では単一ソース([[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]])からの知見のみ。) - **ウィーナーが1948/1961年に「情報的フィードバック(informative feedback)」として記述した機構は、自己調整レギュレータ(self-tuning regulator)と同型の適応制御を、電気・機械系の具体的な実装として56年早く提示している**。ウィーナー『サイバネティクス』第4章は、入力に微弱な高周波信号を重畳し、効果器出力から同じ高周波成分を高域フィルタで取り出して振幅・位相の関係を測定することで負荷(対象システム)の性能特性を実行時に探査し、その結果に基づいて補償器(コントローラに相当)の特性を外部から書き換える方式を描く(Fig.6)。この「実行時にオンラインで対象システムを測定し、その結果でコントローラのパラメータを更新する」という構造は、Hellerstein らの自己調整レギュレータ(実行時のオンラインシステム同定でモデルパラメータを更新し、望ましい閉ループ極を保つようコントローラゲインを再計算する)の設計原理そのものである。両者の違いは、ウィーナーが高周波の探査信号という物理的な測定手段を具体的に提示するのに対し、Hellerstein らは再帰的最小二乗法という統計的なオンライン推定アルゴリズムを用いる点にある——測定手段は電気工学的探査からデジタルな統計推定へと56年間で変わったが、「実行時のモデル更新+実行時のゲイン再計算」という分業の骨格は同一である。(Source: [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 4 Feedback and Oscillation]] pp.113-114, [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] §11.3) - **ウィーナーが情報的フィードバックの有効条件として挙げる「負荷特性の変化が緩やか(secular)であること」は、Hellerstein らが自己調整レギュレータの限界として挙げる「急激な変化への追従の遅さ」と対応する、同じ制約の表裏である**。ウィーナーは、負荷の高周波特性が低周波特性の良い指標になっていること、かつ負荷の変化が入力の変化に比べて十分ゆっくりしている(secular な)場合に限り、情報的フィードバックが発振の傾向を持たずに機能すると明言する。Hellerstein らが自己調整レギュレータについて指摘する「確率的な変動と実際の環境変化を区別しづらいため急激な変化への追従が遅い」という限界は、ウィーナーの secular という前提が破れたとき(負荷特性が探査・推定のタイムスケールより速く変化するとき)に何が起きるかを言い換えたものと解釈できる。(Source: [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 4 Feedback and Oscillation]] pp.113-114, [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] §11.3) ## 未解決の問い - ゲインスケジューリングは「複数の安定なコントローラを切り替えても全体として安定である保証がない」と本章で指摘されるが、切り替え自体の安定性を保証する具体的な条件(例: 切り替えの頻度・スケジューリング変数のヒステリシス設計)には踏み込んでいない。切り替え制御(switched systems)の安定性理論との接続が今後の検討課題である。 - 自己調整レギュレータは「確率的な変動と実際の環境変化を区別しづらい」ため急激な変化への追従が遅いと述べられるが、この識別問題(ワークロードの構造的変化かノイズか)をどう検知するかは本章で扱われていない。変化点検知(change point detection)系の手法との関係を今後調べる必要がある。 - ゲインスケジューリングと自己調整レギュレータのどちらを選ぶべきかの定量的な判断基準(例: 動作点の変化速度・対象システムへのアクセス可能性のどの閾値で選択が変わるか)は、本章では定性的な議論(独立ソフトウェアベンダーが製品内部にアクセスできない場合は自己調整レギュレータが有利、等)にとどまる。 ## 関連 - ソース: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] / [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 4 Feedback and Oscillation]] - 書籍: [[Feedback Control of Computing Systems]] / [[Cybernetics]] - 概念: [[計算機システムのフィードバック制御]] / [[システム同定]] / [[極配置設計]] - 実体: [[ノーバート・ウィーナー]] - 関連する発展的技法(本concept には含めない): 最小分散制御(minimum-variance control)・ファジィ制御(fuzzy control)は同章で扱われる別種の発展的技法であり、詳細は [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 11 Advanced Topics]] を参照。 ## 出典 - Hellerstein, Diao, Parekh, Tilbury, *Feedback Control of Computing Systems*, IEEE Press / John Wiley & Sons, 2004, Chapter 11, §11.2, §11.3. - Norbert Wiener, *Cybernetics*, 2nd ed., The MIT Press, 1961, Chapter IV(印字 pp.113-114)。