# 過渡応答解析 ## 定義 過渡応答解析とは、動的システムが入力の変化(初期条件の変化、または新たな入力信号の印加)に対してどのように時間的に応答するかを、いくつかの基本入力への応答として特徴づける解析の枠組みである。システムの時間域応答は**定常応答**(steady state、時間が十分経過した後の長期的な振る舞い)と**過渡応答**(transient response、定常状態に達するまでの短期的な振る舞い)に分解できる。過渡応答を特徴づける代表的な量は、システムが定常値の2%以内に収まるまでの時間である**整定時間**(settling time)と、過渡出力が定常値を超える最大量を定常値で正規化した**最大オーバーシュート**(maximum overshoot)である。基本入力としては、システム自体が持つエネルギー(初期条件)による応答である**初期条件応答**、瞬間的な入力である**インパルス応答**、持続的な入力である**ステップ応答**が代表的で、線形系では重ね合わせ性(superposition property)により任意の入力への応答をこれらの組み合わせとして構成できる。(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 5 First-Order Systems]] §5.2, §5.3〜§5.5) 一次系 $y(k+1)=ay(k)+bu(k)$(伝達関数 $G(z)=b/(z-a)$、極 $a$)の場合、過渡応答の性質は極 $a$ の値だけでほぼ決まる。$|a|<1$ なら安定(BIBO安定)で出力は定常値に収束し、$a<0$ なら振動、$|a|>1$ なら発散する。定常状態での出力の大きさは**定常ゲイン**(steady-state gain)$G(1)=b/(1-a)$ と入力の大きさの積で定まる。整定時間は入力信号の種類(初期条件・インパルス・ステップ・ランプ・正弦波)によらず、2%基準の下で近似的に単一の式 $k_s \approx -4/\log|a|$ に帰着する。極の絶対値が0に近いほど速く整定し、1に近いほど整定に時間がかかる。(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 5 First-Order Systems]] §5.3〜§5.6, §5.8) ## 横断的知見 - **一次系の整定時間の式は書き換わらず、「どの極に適用するか」の判断が高次系で新たに必要になる形で一般化される**: 第5章が導いた単一公式 $k_s \approx -4/\log|a|$ は、第6章の高次系でも書き換えられることなくそのまま使われる。安定な高次系のインパルス応答は極ごとの指数関数(または複素極なら減衰正弦波)の線形結合(式6.11・式6.12)になり、系全体の整定時間は支配極(絶対値最大の極)に対応する項の $k_s$ にほぼ一致する。つまり式そのものは第5章のままで、高次系で新たに必要になるのは「どの極に式を適用するか」という支配極の特定作業である(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 5 First-Order Systems]] §5.3, §5.8, [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] §6.2, §6.3.2)。 - **一次系では起きなかった振動が複素極によって二次系以上で新たに生じ、オーバーシュートの式は角度依存の形へ一般化される**: 第5章の一次系では、極が実数であるため振動は $a<0$ の場合のみに限られ、オーバーシュートは $M_P=-a$($a<0$ のときのみ)という単純な式だった。第6章では極が複素共役対になりうるため、実数の極単独では起こらない持続的な振動(減衰正弦波、式6.12)が新たに生じる。オーバーシュートの式も $M_P \approx r^{\pi/|\theta|}$(式6.16、$r$ は極の絶対値、$\theta$ は偏角)へ一般化され、$\theta=\pi$(実数の負の極に相当)を代入すると $M_P=r$ となり第5章の式に帰着することが第6章内で確認されている。第5章の式は第6章の一般式の特殊ケース(実極かつ $\theta\in\{0,\pi\}$)にあたる(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 5 First-Order Systems]] §5.5, [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] §6.3.1〜§6.3.3)。 - **第5章の未解決の問い(非支配極の寄与の大きさ)に第6章が定性的な回答を与える**: 第6章の図6.15(零点の効果)・図6.17(複素極の効果)から、非支配極・零点の寄与は支配極との差 $|p-q|$ や極同士の比の大きさに依存し、支配極に対して十分小さい(または十分離れた零点を持つ)場合は無視できることが示される。ただし「十分小さい」の定量的な閾値は、第3章が与える「他の極よりおおむね2倍以上大きい」という経験則以上には第6章からも得られない(詳細は [[支配極と高次系の近似]] の横断的知見を参照)(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] §6.2.5, §6.3.3)。 ## 未解決の問い - 本ソースが扱う整定時間・最大オーバーシュートの定義(2%基準)は、システム識別で得られる極 $a$ の推定誤差に対してどの程度頑健か。極の推定に誤差がある実システム(IBM Lotus Domino Server、Apache HTTP Server 等)で、予測整定時間と実測整定時間がどの程度乖離するかは本ソースからは分からない。 - 過渡応答解析はここでは決定論的モデルを前提とするが、§5.7・第6章§6.5.4 で扱われる確率的成分が大きい系(M/M/1/K)では、一次系・高次系による過渡応答の予測はどの程度の信頼区間で妥当と言えるか。第6章はM/M/1/Kの実測オーバーシュートが予測よりやや大きいことを報告するが、定量的な誤差評価(信頼区間)は与えていない。 - 極が実数か複素数かをシステム同定の段階(第2章)で事前に予測する方法(モデル構造選択)は、第5・6章のどちらにも与えられていない。複素極が疑われる場合にどうモデル次数・構造を選ぶべきかは未解決。 - 支配極による整定時間近似は零点の寄与を無視するが、非最小位相系(単位円外の零点、第6章§6.2.5)のように零点が支配的な影響を持つ場合、整定時間の近似はどう補正すべきかは第5・6章のどちらからも分からない。 ## 関連 - ソース: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 5 First-Order Systems]] / [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] - 実体: [[Apache HTTP Server]] / [[IBM Lotus Domino Server]] - 概念: [[Z変換と伝達関数]] / [[制御ループの安定性とタイムラグ補償]] / [[計算機システムのフィードバック制御]] / [[支配極と高次系の近似]] ## 出典 - Hellerstein, Diao, Parekh, Tilbury, *Feedback Control of Computing Systems*, IEEE Press / John Wiley & Sons, 2004, Chapter 5, §5.2〜§5.9; Chapter 6, §6.2〜§6.3.