# 設計の科学 ## 定義 設計の科学(science of design)とは、設計過程についての、知的に手ごわく、分析的で、部分的に形式化でき、部分的に経験的で、教えうる学説の体系を指す。ここでいう設計(design)は、既存の状況を望ましい状況へ変えることを目指す行動の道筋を考案することであり、物質的な人工物を生む知的活動は、病人に治療を処方する活動、企業の新しい販売計画や州の社会福祉政策を考案する活動と根本的に異ならない。この意味での設計はすべての専門職教育の中核であり、専門職を科学から区別する主たる標識である。自然科学が「物事がいかにあるか(how things are)」を扱うのに対し、設計は「物事がいかにあるべきか(how things ought to be)」を扱う。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.111, 113-115) サイモンの主張は、そのような科学が可能であるだけでなく、1970 年代半ば以降に実際に立ち現れつつあるというものである。設計理論を計算機に載せるために明示的で精密にする必要こそが、その学問的受容可能性を確立する鍵になった。(Source: ch.5 pp.113-114) ## 問題設定:専門職教育から設計が消えたこと - 20 世紀の専門職教育課程からは自然科学が人工物の科学をほぼ駆逐し、その動きは第二次世界大戦後 20〜30 年でとりわけ強まった。工学の学校は物理学と数学の学校に、医学の学校は生物科学の学校に、経営の学校は有限数学の学校になった。「応用」という形容詞はその事実を隠したが変えはしなかった。(Source: ch.5 pp.111-112) - 原因は明白である。専門職の学校が大学の一般的な文化に吸収されるにつれ学問的な体面を求めたが、当時の規範では体面は「知的に手ごわく、分析的で、形式化でき、教えうる」主題を要求した。それに対し、設計と人工の科学について知られていたことの大半は知的に軟弱で直観的・非形式的・料理本的だった。(Source: ch.5 p.112) - 旧来の専門職の学校は大学にふさわしい知的水準で専門職としての設計を教育する術を知らず、新しい型の学校は中核の専門職技能の訓練の責任をほとんど放棄した。人工の科学と自然科学の双方を高い水準で教育する学校を考案すること自体が、組織設計という設計の問題である。(Source: ch.5 p.113) - 対象は工学に限らない。工学・建築・経営・教育・法律・医学の学校がいずれも設計の過程に中心的に関与する。(Source: ch.5 p.111) ## 設計の論理:命令論理は記述論理に還元できる - 「べき(should)」の導入が追加の推論規則を要求しうるという疑いから、命令論理・義務論理の各種の様相論理が構成されてきた。しかしそのいずれも、設計過程の論理的要求を扱うに足ることを示すほど発展も適用もされていない。(Source: ch.5 "Paradoxes of Imperative Logic" pp.114-115) - そうした証明は本来不要である。設計の要求は通常の記述論理をわずかに手直しするだけで完全に満たせる。ただし「不要」は「不可能」を意味しない。様相論理が存在することはキリンが存在するのと同じ仕方で示せる。問題は存在するかどうかではなく、設計に必要か、あるいは有用かである。(Source: ch.5 p.115) - 還元の仕組みは可能世界(possible worlds)の集合を扱うことにある。まず外部環境の制約を満たすすべての可能世界を考え、次にその集合の中で目標の残りの制約を満たし効用関数を最大化する特定の世界を見つける。これは目標の制約と最大化の要件を新しい「自然法則」として環境条件へ付け加えた場合とまったく同じ論理である。そのすべての条件を満たす世界で指令変数がどんな値をとるかを問い、それが指令変数のとるべき値だと結論する。(Source: ch.5 pp.117-118) - 最適化手法の論理では、設計問題の内部環境は与えられた行動の代替案の集合(通常は定義域を持つ指令変数)で、外部環境はパラメータの集合(確実に既知の場合も確率分布としてしか知られない場合もある)で表される。適応の目標は効用関数といくつかの制約で定義される。献立問題(the diet problem)がこのパラダイムの定番の適用例であり、線形計画法(linear programming)で扱える。(Source: ch.5 pp.116-118) ## 満足化としての設計 - 計算手法は最適化に限られない。伝統的な工学の設計手法は、最大・最小よりも不等式すなわち満足な性能の仕様をはるかに多く用いる。いわゆる「性能指数(figures of merit)」は設計間の「より良い/より悪い」の比較を許すが、「最良」の判定はめったに与えない。(Source: ch.5 "Finding Satisfactory Actions" p.119) - 最適化できるなら満足化する者はいない。しかし現実の設計場面では最適解と満足解のあいだに選択の余地があることは稀で、そもそも最適解を見つける方法をめったに持たない。巡回セールスマン問題には総当たりの最適化アルゴリズムがあるが、50 都市程度でも許容できる計算量で解ける十分強力なアルゴリズムは見つかっていない。(Source: ch.5 pp.119-120) - 満足化せざるをえない状況の目印は、代替案の集合が抽象的な意味では「与えられて」いても、実際上意味のある唯一の意味では与えられていないことである。実行可能な計算の限界内ですべての許容代替案を生成し比較することはできず、運よく早く生成できても、すべてを見終えるまで最良だと認識できない。(Source: ch.5 p.120) - 多くの満足化の状況で、受容水準を満たす代替案が見つかるまでの探索の期待長は、水準の高さには依存するが、探索すべき全体の大きさにはほとんど依存しない。縫えるほど鋭い針を干し草の山から探す時間は、鋭い針の分布密度には依存するが山全体の大きさには依存しない。この性質ゆえに満足化の手法は、代替案の集合が巡回セールスマン問題ほどにも「与えられて」いない広い範囲の設計問題へ拡張しうる。(Source: ch.5 pp.120-121) ## 代替案の探索と資源配分 - 代替案が構成的に与えられていない場合でも新しい形式の推論は要らない。候補が見つかったあとに「この代替案はすべての設計基準を満たすか」と問うのは事実の問題である。探索そのものについても標準論理で足りる。(Source: ch.5 "The Logic of Design: Finding Alternatives" pp.121-123) - 手段目的分析(means-ends analysis)は、望ましい状況と現在の状況の差分を検出し、その種の差分を減らすのに関連する行動を対応表から選ぶ方式である。この推論の妥当性は、複数の行動が複数の差分に及ぼす効果の独立性という強い仮定を要し、いわば「加法的」ないし「分解可能」な世界でのみ成り立つ。(Source: ch.5 pp.121-123) - 現実の世界は完全に加法的であることが稀で、行動には副次的な帰結がある。ゆえに設計手続きは解を部品から組み立てるだけでなく、適切な組み立て方を探索せねばならない。一本の道筋を成否が確定するまで追わず、複数の暫定的な道筋を並行して探り有望なものを追い続けるのが効率的なことが多い。(Source: ch.5 pp.123-124) - 設計が資源配分にかかわる仕方は二つある。第一に希少資源の節約が満足な設計の基準の一つになりうる。第二に設計過程それ自体が設計者の資源の管理を伴う。前者について、費用最小化は工学構造物の設計で常に暗黙の考慮事項だったが明示的に持ち込まれるようになったのは近年であり、設計技術者に費用便益分析を訓練する強い論拠が立つ。(Source: ch.5 "Design as Resource Allocation" pp.124-125) - Marvin L. Manheim が MIT の博士論文で開発した高速道路の位置決め手続きは、設計の費用を設計過程に組み込んだ初期の良例である。設計を段階的に詳細化し、上位水準の計画に値を付けてどれを追うかを決める。この評価は「次にどこを探索するか」と「いつ探索をやめて解を満足と認めるか」の双方に答え、探索の操舵機構であると同時に打ち切りの満足化基準でもある。(Source: ch.5 pp.125-126) - 部分的な道筋に付ける数を「値」と呼ぶのは誤称である。部分的な道筋は解ではなく、解へ導かないかぎり「真の」値は零だからである。その数はさらに探索することから期待される利得の推定と考えるほうが有用で、完全な解の評価関数とはまったく異なってよい。より一般に、探索過程は解を求める過程としてだけでなく、問題構造についての情報を集める過程としても見られる。(Source: ch.5 "Schemes for Guiding Search" pp.126-127) ## 設計の形と、過程が生むスタイル - 複雑な構造を設計する強力な技法の一つは、その機能的部分に対応する半独立の成分へ分解する実行可能な方法を発見することである。各成分が他に影響するのは主としてその機能を通じてであり、機能を成し遂げる機構の細部からは独立だからである。分解が一意である理由はなく、根本的に異なる実行可能な分解が複数存在しうる。(Source: ch.5 "The Shape of the Design: Hierarchy" p.128) - 生成器と検定のサイクル(generator-test cycle)では、生成器が設計問題の分解を暗黙に定め、検定が重要な間接的帰結を見落とさないことを保証する。単一のサイクルである必要はなく、入れ子になった一連のサイクルでもよい。分解の代替案は生成器と検定への責任の分け方の違いに対応し、家は外から内へも内から外へも設計できる。(Source: ch.5 "The Generator-Test Cycle" pp.128-129) - 設計過程の順序と、生成器・検定への分業は、設計の資源の使われ方の効率だけでなく最終的な設計の性格をも左右する。ふつうスタイル(style)と呼ばれるものは、最終的な設計で実現される目標の重点の違いと同じくらい、設計過程についてのこれらの決定から生じうる。外から内へ設計する建築家と内から外へ設計する建築家は、満足な建物が備えるべき性質について合意していてもまったく異なる建物にたどり着く。(Source: ch.5 "Process as a Determinant of Style" p.130) - 複雑なシステムの設計では仮想の効用関数を最適化する目標を放棄せねばならず、スタイルの違いは「良い/悪い」で評価すべき代替案ではなく望ましい変異と考えるべきかもしれない。満足な制約の範囲内での多様性はそれ自体が望ましい目的でありうる。探索の結果だけでなく探索そのものに価値を認められるようになるからである。(Source: ch.5 p.130) ## 設計の表現 - 表現(representation)の影響については重要性が認識されているものの、有効な問題表現をどう生成するかを教える体系的な理論はまだ遠い。(Source: ch.5 "Representation of the Design" p.131) - number scrabble(ハートのエースから 9 の 9 枚を交互に取り、合計 15 になる 3 枚組を先に作った側が勝つゲーム)は、1 から 9 の魔方陣に置き換えると三目並べ(tic-tac-toe)と同型であることが明らかになる。魔方陣では行・列・対角の和がいずれも 15 であり、和が 15 になる 3 つ組はすべて行・列・対角のいずれかだからである。(Source: ch.5 pp.131-132) - 数学の結論は前提にすでに含まれるものしか示さないから、すべての数学的導出は表現の変更、すなわち以前から真であったが不明瞭だったものを明らかにすることと見なせる。この見方は問題解決全般へ拡張しうる。問題を解くとは、解が透けて見えるように問題を表現することにほかならない。(Source: ch.5 "Problem Solving as Change in Representation" pp.131-132) - 表現の分類学(taxonomy)はまだ手つかずである。問題は自然言語でも、代数・幾何・集合論・解析・位相の形式論でも記述でき、物理的対象なら平面図・工学図面・レンダリング・立体模型で、行動なら流れ図とプログラムで表現できるが、これらの分類は不完全であり、違いの意義についてはさらに知識が乏しい。(Source: ch.5 "The Taxonomy of Representation" pp.133-134) ## 設計のカリキュラム(7 項目) サイモンが提案する設計の理論のカリキュラムは少なくとも次の 7 項目からなる。(Source: ch.5 "Summary—Topics in The Theory of Design" p.134) - 設計の評価 1. 評価の理論:効用理論、統計的決定理論 2. 計算手法:(a) 最適な代替案を選ぶアルゴリズム(線形計画法、制御理論、動的計画法)、(b) 満足な代替案を選ぶアルゴリズムとヒューリスティック 3. 設計の形式論理:命令論理と記述論理 - 代替案の探索 4. ヒューリスティック探索:分解と手段目的分析 5. 探索のための資源配分 - 6. 構造と設計組織の理論:階層システム - 7. 設計問題の表現 料理本の方法へ後退する必要はどこにもない。今日では多様な実際の設計過程が走る計算機プログラムとして完全に定義されており、それらは全面的な検査と分析、あるいはシミュレーションによる試行に開かれた経験的現象の集合をなす。プログラムが存在する以上、設計過程が「判断」や「経験」の外套の陰に隠れる余地はない。(Source: ch.5 pp.134-135) ## 横断的知見 - **第 1 章が予告だけして内容を示さなかった「工学科学とは大きく異なる人工物の科学」の中身が、第 5 章で 7 項目のカリキュラムとして具体化される**。第 1 章は人工物を記述法だけでなく命令法(imperative)でも論じうると指標に挙げ、合成に関わる工学と分析に関わる科学を対比するにとどまった。第 5 章は命令法をどう論理として扱うか(可能世界による記述論理への還元)を示し、評価・探索・構造・表現という具体的な教育内容へ落とす。人工物の科学の中核が設計の科学であることが、ここで初めて操作的な形をとる。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 1 Understanding the Natural and Artificial Worlds]] ch.1 pp.3-5, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.113-115, 134) - **第 2 章の最適化と満足化の対比は経済主体の記述だったが、第 5 章では設計者が使う手法の選択という規範的な問いに立て直される**。第 2 章は OR が大幅に単純化したモデルで最適化し、AI がほぼ現実的なモデルで満足化する、という現実の主体の振る舞いの記述として両者を秤にかけ、満足化を設計の手続きとして運用する方法は第 5・6 章へ送ると述べていた。第 5 章はその予告を回収し、同じ対比をカリキュラムの第 2 項目 (a)(b) として並置する。記述的説明が教育内容へ変換された点が両章の関係を特徴づける。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 2 Economic Rationality - Adaptive Artifice]] ch.2 pp.27-28, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.119-121, 134) - **「生成器と検定」という同じ語が、第 2 章では進化の機構として、第 5 章では設計過程の機構として使われる**。第 2 章は生物学的ダーウィニズムの突然変異と交叉を生成器、自然選択を検定として最も単純な進化の図式を描いた。第 5 章は同じ枠を設計者の手続きに当て、生成器が設計問題の分解を暗黙に定めると論じる。計画された設計と計画されざる進化が同一の抽象を共有することになるが、第 5 章は分解の選択が設計者の裁量下にありスタイルを生むと述べる点で、選択の主体が入れ替わっている。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 2 Economic Rationality - Adaptive Artifice]] ch.2 pp.45-46, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.128-130) - **同一の魔方陣が、第 3 章では内部環境を測る実験材料として、第 5 章では表現の力を示す道具として登場する**。第 3 章は魔方陣を記憶させて位置関係を問い、質問の種類で回答時間が異なることから、蓄えられた像が写真とは別のリスト構造として組織されていると結論した。第 5 章は同じ魔方陣を number scrabble と三目並べの同型性を明らかにする表現として使う。表現の研究が、内部環境の心理学的探究と設計の道具立ての双方にまたがっていることが、この重複によって可視化される。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 3 The Psychology of Thinking - Embedding Artifice in Nature]] ch.3 pp.70-71, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.131-132) - **第 3・4 章と第 5 章は、同じ人間を内部環境の側と外部環境の側から見た心理学の章として対をなす**。サイモン自身が、第 3・4 章が人間と生物学的な内部環境の関係を扱う心理学だったのに対し、第 5 章は人間が生き抜き達成しようとする複雑な外部環境との関係を扱う心理学としても読めると述べている。設計の科学が専門職教育の枠を超えて教養の中核になりうるという主張は、この対の構図に立脚している。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 3 The Psychology of Thinking - Embedding Artifice in Nature]], [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.135-136) - **第 5 章は目標を与件として扱ったが、第 6 章は目標そのものが設計の途中で変わることを主題に据える**。第 5 章の設計の定義「既存の状況を望ましい状況へ変えることを目指す行動の道筋を考案すること」は、何が望ましいかが先に定まっていることを前提する。命令論理の還元でも目標の制約と効用関数は与えられていた。第 6 章はこの前提を外し、最終目標という観念が将来を予見し決定する能力の限界と両立しないと述べ、目標の機能は新しい目標を生む活動を動機づけることにあるとする。設計の科学の定義そのものが、社会規模へ移ると成立条件を失う形になる。詳細は [[最終目標なき設計]] を参照。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 p.111, pp.116-118, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 6 Social Planning - Designing the Evolving Artifact]] ch.6 pp.162-163) - **第 5 章の効用関数が「誰のものか」を問わなかったのに対し、第 6 章は依頼者(client)の同定を独立の設計課題として立てる**。第 5 章は献立問題を典型に、効用関数と制約が与えられていることを前提に最適化と満足化を論じた。第 6 章は、小規模な設計では専門職の役割定義に依頼者が組み込まれており依頼者の目標を超えた帰結を計算に入れずに済むこと、この役割定義が明確で限定された目標を好む限定合理性ときわめて相性が良いこと、そして知識と技術の増大がその定義を壊すことを論じる。第 5 章の形式性が成り立っていたのは、依頼者が問われない範囲に問題を限っていたからだ、という読みが両章の対比から出る。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.116-118, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 6 Social Planning - Designing the Evolving Artifact]] ch.6 pp.150-153) - **設計の資源配分という主題が、第 5 章の探索費用から第 6 章では世代間の初期条件の選択へ尺度を変える**。第 5 章は資源配分を二重の意味で捉えた。希少資源の節約が満足な設計の基準になることと、設計過程それ自体が設計者の探索資源の管理を伴うことである。第 6 章は同じ主題を時間の地平へ延ばす。行動の実際の結果は次の段階の初期条件を定めることであり、「最終」目標とは後継者に残す初期条件を選ぶ基準にほかならない。望ましい条件として、不可逆な関与を避けて代替案を多く残すことと、より良い知識と大きな経験の能力を残すことが挙げられる。設計者が管理する資源が、自らの探索の労力から、次世代に残す選択肢の幅へ置き換わっている。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.124-127, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 6 Social Planning - Designing the Evolving Artifact]] ch.6 pp.163-164) - **第 5 章で「構造と設計組織の理論」として階層システムを指していた項目が、第 6 章では組織の二重の位置づけに展開される**。第 5 章のカリキュラム項目 6 は、複雑な構造を半独立の成分へ分解する技法としての階層を指していた。第 6 章では組織が二つの役割を同時に担う。一つは設計の道具としての役割で、問題をどう概念化するかが機関の組織の仕方を含意し、組織そのものが共通の問題表現として働く(ECA の例)。もう一つは設計の対象としての役割で、社会組織を作り変えること自体が設計の重要な目標になる。カリキュラムの新項目 4 が「社会設計は主として組織で働く人々によって行われ、かつ社会組織を作り変えること自体が設計の目標である」と両面を明記している。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 p.128, p.134, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 6 Social Planning - Designing the Evolving Artifact]] ch.6 pp.141-143, pp.154-156, p.166) - **時間の地平が、第 5 章では現れなかった内部環境の制約として第 6 章に導入される**。第 5 章は内部環境を指令変数の集合として、外部環境をパラメータの集合として形式化したが、そこに時間的な射程の限界は入っていなかった。第 6 章は、事象の重要性が時間的距離とともに急激に落ちること、この近視が適応的なのではなく適応能力の限界の徴候であり内部環境に属する適応の制約の一つであることを述べる。限定合理性の内容に、計算能力の限界だけでなく時間的射程の限界が加わる。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] ch.5 pp.116-118, [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 6 Social Planning - Designing the Evolving Artifact]] ch.6 p.157) ## 未解決の問い - 第 6 章が加える 6 項目のうち、制御理論とゲーム理論が中心になる 2 項目を除けば、関わる設計の道具は第 5 章のものより一般に形式化されていないとサイモン自身が認めている。社会規模の設計に対して、第 5 章と同じ水準の形式的な道具立ては用意できるのか。(Source: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 6 Social Planning - Designing the Evolving Artifact]] ch.6 p.167) - 目標が設計の途中で変わることを許すなら、設計の良し悪しはどう判定されるのか。第 6 章は複雑な問題で一般に満たしうる最も厳しい基準として「弁護可能性(defensibility)」を挙げるが、目標が動く場合の評価手続きは与えていない。(Source: ch.6 p.146, p.162) - 有効な問題表現をどう生成するかを教える理論はまだ存在しない。サイモン自身、表現の重要性は今日認識されているが体系的な理論からは程遠く、とりわけ表現を生成する方法を教える理論が欠けていると認めている。(Source: ch.5 p.131) - 表現の分類学が未着手である。問題をどんな仕方で表現できるかについて概略的で不完全な知識しかなく、その違いの意義についてはさらに知識が乏しい。より基本的で有意な分類の仕方が存在するかもしれない。(Source: ch.5 pp.133-134) - アラビア数字と位取り記法がローマ数字より算術を容易にした理由を説明する理論的な扱いを、サイモンは知らないと述べている。表現の優劣を一般に説明する理論はまだない。(Source: ch.5 p.131) - Manheim の手続きでは上位水準の計画の「有望さ」を確率分布として技術者が推定せねばならず、サイモン自身がこれを手法の重大な弱点と呼んでいる。推定を技術者の判断に頼らない評価の与え方はあるか。(Source: ch.5 p.126) - 探索を「解を求める過程」でなく「問題構造についての情報を集める過程」として見る一般化に、実際に少しでも進んだ問題解決プログラムは今日ごく少数しか存在しない。この一般化をどこまで実装できるか。(Source: ch.5 p.127) - 設計過程における順序と分業の先後を決める原理は、設計の理論に含まれるべきだとされるが、本章では構造化プログラミングの上から下への流儀が例示されるにとどまる。一般的な決定原理は与えられていない。(Source: ch.5 pp.129-130) - 満足な制約の範囲内での多様性をそれ自体望ましい目的とする見方は、設計の評価をどこまで相対化するか。本章は都市計画を参加者にとって価値ある創造的活動と見る可能性を示唆して第 6 章へ送っている。(Source: ch.5 p.130) ## 関連 - 概念: [[人工物の科学]] / [[内部環境と外部環境]] / [[限定合理性]] / [[満足化]] / [[ヒューリスティック探索]] / [[問題の理解と表現]] / [[トレードオフ意思決定]] / [[社会計画]] / [[最終目標なき設計]] / [[注意の希少性]] - 章: [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 5 The Science of Design - Creating the Artificial]] / [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 6 Social Planning - Designing the Evolving Artifact]] / [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 1 Understanding the Natural and Artificial Worlds]] / [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 2 Economic Rationality - Adaptive Artifice]] / [[@1996__MITPress__The Sciences of the Artificial - Chapter 3 The Psychology of Thinking - Embedding Artifice in Nature]] - 実体: [[Herbert A. Simon]] / [[The Sciences of the Artificial]] / [[Carnegie Mellon University]] ## 出典 - Herbert A. Simon, *The Sciences of the Artificial*, third edition, The MIT Press, 1996, Chapter 5 "The Science of Design: Creating the Artificial", pp. 111-138. - Herbert A. Simon, 同書 Chapter 1 "Understanding the Natural and the Artificial Worlds", pp. 1-24. - Herbert A. Simon, 同書 Chapter 2 "Economic Rationality: Adaptive Artifice", pp. 25-50. - Herbert A. Simon, 同書 Chapter 3 "The Psychology of Thinking: Embedding Artifice in Nature", pp. 51-84. - Herbert A. Simon, 同書 Chapter 6 "Social Planning: Designing the Evolving Artifact", pp. 139-167.