# 計画のコミュニケーション
## 定義
計画のコミュニケーションとは、立てた見積りと計画、およびその進捗を、開発チームの外側(経営層・他部門・顧客)に伝える実践を指す。21章は、見積りと計画に関しては「何を伝えるか」よりも「どうやって伝えるか」が重要だとし、コミュニケーションは正直・頻繁・双方向であるべきだと述べる。正直さを欠けば開発チームとプロダクトオーナーの間の信頼が壊れ、頻繁さを欠けばアジャイルな計画に不可欠なフィードバックループが機能しなくなる。この原則のもとで21章が挙げる具体的な手段は、(1) 期日を確度や幅を添えて伝えること、(2) フィーチャレベルに限定し改変したガントチャートで計画の全体像を示すこと、(3) リリースバーンダウンチャートと幅を持たせたベロシティで進捗を示すこと、(4) イテレーション終了報告書で定型的に状況を報告すること、の4つである。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 21 計画とコミュニケーション]] §1)
## 横断的知見
- 21章は、期日は単一の断定的な答えではなく確度や幅を添えて伝えるべきだと一般論として述べるが、その理由は「単一の答えは見積りの精度を実際以上に見せてしまう」という説明にとどまる。23章のケーススタディはこの原則が実際に効いた場面を示す: フランクとアランは第1イテレーション終了時点で残132ポイントの作業を「6〜10イテレーション、12〜20週間」という幅で経営層に説明した(p.301-302)。プロジェクトは最終的に22週間かかり当初提示した幅の上限(20週間)をわずかに超過したが、プロジェクト完了時にサーシャは「14週間で終わるとは一度も言っていない。最初から12〜20週間、6週間後にはより正確な数字が出せると伝えていた」と振り返り(p.314)、実績が幅を超えた場面でも信頼が損なわれなかったことが読み取れる。21章の一般論だけでは「幅で伝えることがなぜ信頼の維持につながるのか」は説明しきれないが、23章はその機序を具体的に示している。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 21 計画とコミュニケーション]] §1, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]] §4-2, §10)
- 21章は正直なコミュニケーションの重要性を、「開発者がプロダクトオーナーに伝えた見積りが現実離れしたものだとわかれば信頼を失う」「自分のタスクに予想以上の手間がかかりそうだとわかったら、そのことをチームで共有するほうが安心だと思えるようになるべきだ」という理想として述べる(§1前段)。しかし、この理想を支える具体的な仕組みまでは21章には書かれていない。23章はこれを補う実例を持つ: アジャイルコーチのカルロスは第1イテレーションの計画づくりで「コミットの対象はストーリーであってタスクではない」と明確化し、個々のタスクの進捗ではなくストーリー全体の完了にチームとしてコミットする運用を実演した(p.290-291)。タスク単位の見積り超過を個人の責任として追及しない仕組みにすることで、開発者がタスクの手間取りを隠さずに共有しやすい状況を作っている。21章が理想として掲げる「正直に共有できる安心感」が、23章ではストーリー単位コミットという具体的な運用ルールによって支えられていることがわかる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 21 計画とコミュニケーション]] §1, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]] §4-1)
## 未解決の問い
- 21章はガントチャートを「フィーチャレベルに限定する・線をイテレーション全体の期間に合わせる・個人名でなくチーム名を割り当てる」という3条件つきで役立つツールと位置づけるが、この3条件を満たす図を実際にどのツールでどう作図するかは示されていない。
- イテレーション終了報告書の4区分(プロジェクト概要・指標・実施内容と評価・イテレーションレビュー)のうち、著者は「必要な項目だけを使えばよい」と述べるが、どの項目がどの状況で省略可能かの基準は示されていない。
- 21章は経営層への伝達を主眼に置くが、23章の実例は代表取締役やCFOに加えて他チームからの見学者も対象に含む(§5, §7)。伝える相手の役割によって、伝える情報の粒度や手段(グラフか口頭説明か)をどう変えるべきかは原本に明示されていない。
- 21章のベロシティの幅(直近・過去8イテレーション平均・ワースト3平均)による伝達と、23章で示された「削っても構わない優先順位の低いストーリー」というスコープ側のバッファ(§8)は、どちらも納期の不確実性を経営層に伝える手段だが、両者を同時に使う場合にどちらを主軸に説明すべきかの基準はない。
## 関連
- 概念: [[バーンダウンチャート]](進捗を伝える最も重要なツール) / [[ベロシティ]](幅を持たせた予測の基礎量)
- source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 21 計画とコミュニケーション]] / [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]]
- 書籍: [[wiki/entities/アジャイルな見積りと計画づくり|アジャイルな見積りと計画づくり]]
## 出典
- Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 21章(主典拠)、23章(横断的知見の突き合わせに使用)。