# 要約統計量の選定
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## 定義
測定データを1つの数値(代表値)またはばらつきの指標へ要約するとき、どの統計量を選ぶかは変数の性質や分析目的によって機械的に決まる、という選定規則の集合を指す。代表値の選定では「変数はカテゴリカルか」「観測の総和に物理的意味があるか」「分布は歪んでいるか」の3問いへの答えが、最頻値・平均・中央値のいずれを使うべきかを一意に決める。比率(2つの量の商)を要約する場合は「分子と分母のどちらの総和に物理的意味があるか」が算術平均・調和平均・幾何平均のいずれを使うべきかを決める。ばらつきの指標の選定では「変数は有界か」「分布は単峰対称か」の2問いが、範囲・分散(標準偏差・変動係数)・パーセンタイルのいずれを使うべきかを決める。いずれの選定規則も、統計量そのものの数学的性質(平均の加法性、中央値の外れ値耐性、幾何平均の乗法性など)から導かれる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]] §12.3, §12.7, §12.9)
代表値選定の判定規則: (1)カテゴリカル変数には最頻値を使う(例: 最も使われるマイクロプロセッサの型)。(2)合計に意味がある量には平均を使う(例: 複数クエリの合計CPU時間)。(3)合計に意味がなく分布が歪んでいる量には中央値を使う(例: 計算機負荷、デバイス数のようなシステム構成値)。分布が単峰対称なら3指数はいずれも一致するため、どれを選んでも実質的な違いはない。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]] §12.2-§12.3)
比率の平均の判定規則: 分子の総和・分母の総和のどちらにも物理的意味があるなら、平均の比ではなく比の平均(=総和どうしの比)を取る(例: 稼働時間の異なる複数区間のCPU使用率を単純平均してはならない)。分母が全観測で一定ならこれは算術平均に帰着し、分子が全観測で一定なら調和平均に帰着する。分子と分母が乗法モデル(分子=定数×分母)に従うと期待される場合は、比の幾何平均でその定数を推定する。「比率は常に幾何平均で要約すべき」という通念は誤りであり、どの平均を使うかは総和の物理的意味の有無で決まる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]] §12.6-§12.7)
ばらつきの指標選定の判定規則: (1)変数が有界だという根拠があるなら範囲を使う。(2)有界でなく分布が単峰対称なら分散・標準偏差・変動係数(C.O.V.)を使う。(3)分布が非対称ならパーセンタイル(またはSIQR)を使う。この規則は絶対的ではなく、ネットワーク容量設計や電源設計のようにピーク値の把握が目的の場合は、規則によらず95〜99パーセンタイルのようなパーセンタイルが使われる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]] §12.8-§12.9)
## 横断的知見
- **「変数の型が手法を機械的に決める」という判定規則の型は、要約統計量の選定(第12章)と図表形式の選択(第10章)の双方で独立に現れる**: 第12章は「カテゴリカルか」「総和に物理的意味があるか」「分布は歪んでいるか」という変数の型に関する問いへの答えが最頻値・平均・中央値のいずれを使うべきかを一意に決めると説く。第10章の[[性能データの可視化]]も同様に、質的/量的・離散/連続という変数の型が使える図表形式(線グラフか列/棒グラフか)を一意に決めるとする。両章は「データをどう要約・提示するか」という異なる問題を扱いながら、いずれも変数の型による分岐という同じ設計原理に立脚している。ただし第12章は代表値(平均か中央値か)を、第10章は表示形式(線か棒か)を決める点で対象が異なり、両者を1つの統一判定表にまとめる記述は本書のどちらの章にもない。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]] §12.2-§12.3, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] §10.1)
- **第11章「Ratio Games」は、本概念の比率の平均の判定規則(§12.7)が導入される前に、その規則を無視した場合に何が起こるかを先に見せる構成になっている**: 章の刊行順としては第11章が第12章に先行するため、読者は先に「比率の平均を取ると基準の選び方だけで結論が反転しうる」という問題(6502対8080のCase Study 11.1、RISC-I対Z8002のCase Study 11.2)を具体例で叩き込まれたうえで、第12章§12.7の「分子・分母どちらの総和に物理的意味があるかで平均の比か比の平均かを決める」という正しい判定規則に到達する。第11章§11.6は「比率の平均を取ることは正しい分析方法ではない」と明言したうえで「比率の平均を取る正しい方法は第12章§12.7で扱う」と明示的に本概念への橋渡しを行っており、両章は問題提示(第11章)と解法(第12章)という一対の構成をなす。ただし第11章のCase Study 11.1・11.2はいずれも「どちらの総和にも物理的意味がある」典型例(処理時間の合計、コードサイズの合計)であるため、本概念の判定規則を機械的に適用すれば比の平均(総和どうしの比)を使うべき場面であり、Jainがゲームとして示した「平均の比」の使用自体が判定規則違反の実例になっている。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 11 Ratio Games]] §11.1, §11.6, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]] §12.7)
## 未解決の問い
- 図12.2・図12.4の判定規則は代表値とばらつきの指標を別々に選ぶ手順を示すが、両者を組み合わせた「代表値+ばらつき」の報告フォーマット(例: 中央値+SIQR対平均+標準偏差のどちらを常にペアで使うべきか)についての明示的な指針は本章にはない。
- 分布が単峰対称か非対称かの判定は、小標本では最大/最小比のような簡便法に頼らざるを得ないと本章は述べるが、この簡便法の閾値(どの程度の比なら「歪んでいる」とみなすか)は明示されていない。第13章(標本データによるシステム比較)や第27章(乱数生成器の検定)が使う正規性検定・分位点-分位点プロットとの関係で、より定量的な判定基準を補えるか要確認。
- 比率の平均の判定規則(§12.7)は分子・分母のどちらかが定数、または乗法モデルに従う場合を扱うが、分子・分母がいずれも変動しかつ乗法モデルにも従わない一般の比率をどう要約すべきかは、本章の範囲では扱われていない。
## 関連
- source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]]
- 概念: [[分散]](ばらつきの指標のうち分散・標準偏差の理論的定義)、[[期待値]](平均の理論的定義)、[[確率変数]](CDF・分位点の理論的定義)、[[統計的有意性]](分布の型の判定に使う分位点-分位点プロットの応用先)
- 関連章: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 11 Ratio Games]](比率の平均の判定規則〈§12.7〉を無視した場合に何が起こるかを先に示す、問題提示と解法の一対をなす章)、[[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 13 Comparing Systems Using Sample Data]](本概念の指標を使ったシステム間比較)、[[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 18 2kr Factorial Designs with Replications]](§12.7の「分子=定数×分母という乗法モデルなら比の幾何平均で定数を推定する」という判定規則と同型の対数変換を、要因実験の乗法モデルへの当てはめ(§18.8)として応用する道具の共有先)、[[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]](変数の型が図表形式を決める、同型の判定規則の姉妹例)
- [[性能データの可視化]] — 「変数の型が手法を決める」という同じ判定規則の型を図表形式の選択に適用した姉妹概念。
- [[パフォーマンスのアンチメソドロジ]] — 第11章の比率ゲームを含む、Jainの「ゲーム」系列全体を集約する概念。
## 出典
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 12 §12.2-§12.3, §12.6-§12.9.
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 10 §10.1.
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 11 §11.1, §11.6.