# 製造工程の信頼性管理 ## 定義 製造工程の信頼性管理とは、設計上の信頼性を実際の製品の信頼性に変換する段階で、生産に内在するばらつき(工程のばらつきと人間のばらつき)を計測・管理・低減し、問題を特定・是正する活動を指す。良い設計であっても製造品質が悪ければサービス中に不信頼になりうるという問題意識が出発点であり、統計的工程管理(SPC)による工程のばらつき管理と、独立検査から作業者管理・品質サークルへ移行する人間のばらつき管理の二本柱からなる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] §15.1, §15.2, §15.3)。 ## 工程能力とSPC 工程能力指数 $C_p$(公差幅と工程3σ限界の比)および規格中心とのずれを補正した $C_{pk}$ は、工程が公差に対して十分小さいばらつきで安定しているかを定量化する。工程能力指数の使用は、工程が統計的管理下にあり(特殊原因が存在せず共通原因のみである)、正規分布に十分従うことを前提とする。工程管理図($\bar{x}$ chart / $\bar{R}$ chart、Shewhart chart)は、特殊原因による変動を検出し是正処置につなげるための基本ツールである(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] §15.2.1, §15.2.2)。 ## 人間のばらつきの管理 独立検査(inspection)は検査員の見逃し(はんだ接合検査で10〜50%を見逃す例)、作業者の動機低下、高コストという構造的欠点を持つ。このため作業者自身が測定・記録・監視を行う作業者管理(operator control)や、小集団活動である品質サークル(quality circles)への移行が進んだ。品質サークルはブレインストーミング・データ収集・データ解析・パレート図・ヒストグラム・cause-and-effect図・SPC図の「七つ道具」を用いる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] §15.3.1, §15.3.2, §15.5.6)。 ## 抜取検査の限界 属性抜取検査はAQL(acceptable quality level)に基づく標準抜取計画(ANSI/ASQ Z1-4、BS 6001等)で運用されるが、Deming(1987)は検査コスト $k_1$・後の故障コスト $k_2$・平均不良率 $p$ が既知かつ安定しているとき、理論的に最適な戦略は $p < k_1/k_2$ なら検査ゼロ、$p > k_1/k_2$ なら全数検査のいずれかであり、その中間に理論的な最適サンプルサイズは存在しないと論じた。この論理により、統計的抜取検査は現代の製造ではほとんど使われなくなったとされる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] §15.4.3)。 ## 工程改善の手法群 cause-and-effect図(fishbone/Ishikawa diagram、K. Ishikawa考案)、measles chart、multi-vari chart(ばらつきの主要因が空間的・周期的・時間的のいずれかを識別するグラフ手法)などの簡易チャート技法が、統計的実験に先立って主要な変動要因を絞り込むために使われる(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] §15.5.1, §15.5.3)。 ## 横断的知見 - **ch.15 §15.5.4 は、工程改善の統計的手法を第11章の分散分析の枠組みの応用として明示的に位置づける**: 「第11章で説明した変動解析の手法は、製品・工程の初期設計と同様に、生産工程の変動低減にも同じ効果で使える」と本文が直接述べており、[[工学的ばらつき]] concept が扱う「決定論的・機能的・偶然」の3分類(ch.2)とその実験的特定手法(ch.11)が、生産段階の工程改善という具体的な応用場面を得たことを示す。第2章が理論的分類を、第11章が実験による原因特定の方法論を、第15章が生産現場での運用(multi-vari chartによる主要因の絞り込み→統計的実験への投入)を担うという三層構造が、同一書籍内の3章にわたって一貫して構築されている(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] §15.5.4, [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 11 Design of Experiments and Analysis of Variance]] §11.2.2)。 - **抜取検査の論理的否定(ch.15)と、開発段階のFRACASにおける「初回故障を捨てない」原則(ch.12/[[FRACAS]])は、共に「不確実な事象を統計的近似で処理せず、個別に扱うべきだ」という立場を共有する**: ch.15 §15.4.3のDeming流の議論は、抜取検査という統計的近似が生産現場の意思決定として理論的に不適切だと主張する。一方 [[FRACAS]] concept が扱う第12章の議論は、初回の故障モードを「偶発」として統計的に丸めず個別に調査・是正すべきだと主張する。両者は生産・開発という異なる局面でありながら、「統計的な近似や分類による問題の切り捨てを避け、個別の原因究明に投資すべきだ」という本書全体に通底する方法論的立場を共有している(Source: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] §15.4.3, [[FRACAS]])。 ## 未解決の問い - $C_{pk} \geq 2$ という現代の生産品質要求と、本章が言及する「シックスシグマ」(第17章で詳述)の関係は、本章では名前を挙げるにとどまり数値的な接続が示されていない。第17章でどう扱われるかを追跡する必要がある。 - Deming流の「0%か100%検査」という結論は、AQL抜取検査が現在も広く使われている供給者管理(supplier management、第17章のテーマ)の実務とどう整合するのか、本章では触れられていない。 - 品質サークルの「七つ道具」のうち、パレート図(第13章)とcause-and-effect図(本章)以外の道具(ヒストグラム、trend chart、regression analysis)の具体的な運用方法は本章に記述がなく、他章での扱いを確認する必要がある。 ## 関連 - ソース: [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]] - 概念: [[工学的ばらつき]] / [[FRACAS]] / [[ストレススクリーニング]] / [[加速試験]] - 実体: [[Patrick D. T. O'Connor]] / [[Andre Kleyner]] / [[W. E. Deming]] / [[K. Ishikawa]] / [[wiki/entities/Practical Reliability Engineering|Practical Reliability Engineering]] ## 出典 - [[@2012__Wiley__Practical Reliability Engineering - Chapter 15 Reliability in Manufacture]](§15.1〜§15.6)