# 群走査による不変量抽出
## 定義
**群走査(group scanning)**とは、対象の透視変換全体がなす「群」(アフィン群・相似拡大群・回転群・平行移動群などを部分群に含む連続群)にわたって対象を走査し、走査のいずれかの段階で基準パターンと許容誤差内に一致すれば同型(同じ形・同じゲシュタルト)とみなす判定手続きである。テレビ技師に知られた平面の走査(一様に分布した標本位置で領域全体を代表させる過程)を、群がなす空間(群空間)へ一般化したものに当たる。走査が十分に細かければ、対象の大きさ・向き・走査対象の群に含まれるあらゆる変換に依存しない一致判定を機械化できる。さらに、走査密度を群測度(群自身に付随する不変な確率密度)に比例させる「一様な走査」を行えば、集合 S に依存する量 Q(S) を変換 T′ で移した Q(T′S) を群測度に関して平均する量(∫Q(T′S)dT)を定義でき、この量は群のもとで互いに移り合うすべての S について同一の値になる——これが「同じ形を持つ」ことの操作的定義になる。(Source: [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 6 Gestalt and Universals]] ch.6 pp.136-139)
## 横断的知見
- **群走査は、第2章が導入した「群構造+不変測度」という道具立てを、探索アルゴリズムとして具体化したものである**。[[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 2 Groups and Statistical Mechanics]] は変換群の指標(character)と Haar 測度を、時間平均と位相平均の一致(エルゴード定理)を正当化するための抽象的な道具として導入する。第6章はこれと同じ道具立て——群測度に比例した走査密度、集合 S に依存する量 Q(S) の群平均——を、対象の形の同一性を実際に判定する具体的な知覚アルゴリズム(群走査)として転用する。第2章では不変量は統計力学的な平均の交換可能性を保証する理論的対象にとどまるが、第6章では不変量抽出が「機械化に完全に適した」知覚アルゴリズムとして提示される点で、同じ数学的枠組みの理論的用途と工学的用途が同一書籍内で対をなしている。(Source: [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 2 Groups and Statistical Mechanics]] ch.2 pp.50-54, [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 6 Gestalt and Universals]] ch.6 pp.136-139)
- **逐次探索による不変量抽出は、パラメータ共有による不変性獲得とは異なる系譜を示す**。[[不変性と同変性]]が整理する CNN の平行移動同変性・Transformer の置換同変性は、パラメータ共有というモデル構造上の制約によって不変性・同変性を"保証"する設計であり、走査や探索を伴わない一回のフィードフォワード計算で完結する。これに対し群走査は、変換群の要素を「一次元の系列」で一つずつ実際に試し、基準パターンと比較する明示的な逐次探索であり、不変性は判定アルゴリズムの実行結果として得られる。両者は「変換群にわたる不変量の抽出」という目的を共有しながら、達成手段が構造的制約(パラメータ共有)か逐次探索(群走査)かという対照的な系譜に分かれる。(Source: [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 6 Gestalt and Universals]] ch.6 pp.136-138, [[不変性と同変性]])
## 未解決の問い
- 群走査の「走査密度を群測度に一致させる」という要件は、現代の不変な表現学習におけるデータオーグメンテーション(変換群からのサンプリングによる学習データの水増し)の考え方とどの程度数学的に対応するか。
- ウィーナーは群走査に「固有の走査周期」(0.1秒程度)を想定し脳波アルファ律動と結びつけているが、この時間的走査という発想は現代の視覚処理理論(単一のフィードフォワードパスで不変表現を得る)にはほぼ現れない。この時間軸の有無の違いは経験的にどちらが妥当か、あるいは両立しうるか。
- 盲人用読書器の光電素子アレイ+発振器切替という設計(第6章)は、走査ベースの文字識別という点で工学的な OCR の先行例と位置づけられるが、[[光学文字認識]]が扱う現代の深層学習ベース OCR との間に技術的な系譜の連続性はあるのか、それとも独立に再発明されたものか。
## 関連
- source: [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 6 Gestalt and Universals]] / [[@1961__MITPress__Cybernetics - Chapter 2 Groups and Statistical Mechanics]]
- concept: [[不変性と同変性]](パラメータ共有による不変性・同変性の獲得)/ [[光学文字認識]](現代の深層学習ベース OCR)
- entity: [[ノーバート・ウィーナー]]
## 出典
- Norbert Wiener, *Cybernetics: or Control and Communication in the Animal and the Machine*, 2nd ed., The MIT Press, 1961, Chapter 6(印字 pp.136–140)。
- Norbert Wiener, *Cybernetics: or Control and Communication in the Animal and the Machine*, 2nd ed., The MIT Press, 1961, Chapter 2(印字 pp.50–54)。