事前の仮説を立てずに可能な限り包括的にデータを取得し、大規模モデルによって未計測事象を演繹しようとする科学的アプローチ。[[岡ノ谷 一夫]]はこの用語を[[縮約]]・[[減算]]との対比で用いており、池上 高志(2021)は同概念を別の言葉で論じている。 ## 登場の背景 2000年代以降の計算速度・メモリ空間の指数的増大により実現可能になった。 典型例: - **Speechome 実験** (Roy, 2009): 自宅全体にセンサを設置し、子供の言語発達過程を網羅的に記録 - **GPT-3**: 1750億パラメタ・5兆のコーパスによる言語生成。大規模データの成功は縮約でなく網羅によるもの - **Nakai & Nishimoto (2020)**: 103の認知課題遂行中の被験者の大脳皮質を 2×2 mm 精度・40,000〜60,000 地点で計測。未使用課題の脳活動も予測可能 ## 問題点 網羅されたデータを人間が利用しようとする段階で、必ず**[[縮約]]が再発生する**。 - GPT-3 等の大規模モデルでさえ、人間への提示時には縮約を経る - Meillassoux の「能動的な生成」に対し、縮約を経た提示は「反動的・愚劣な生成」となる - 特異点(想定外事象)の見落とし: 人間の想定外は人工知能の想定内。ただし縮約後の提示では特異点が埋もれる ## [[縮約]]・[[減算]]との関係 → [[縮約]] を参照(比較表を収録)。 ## 横断的知見 - [[岡ノ谷 一夫]](2021): 網羅の道はあまりに長い。図2 の漫画(Science vs. Everything Else)では、複雑だが正しい道を選ぶ少数者だけが頂上に至る。網羅の途中に「この道は正しい」という看板があれば、それが[[減算]]ということかもしれない - 測定には仮説が必ず潜む: 仮説フリーを謳う網羅的計測も、計測対象の選択自体が仮説を前提とする(系外惑星探索の観察バイアスの例) ## 未解決の問い - 網羅されたデータを「縮約を経ずに」人間に届ける方法は存在するか、あるいは原理的に不可能か - 機械学習のアテンション機構や埋め込み空間は、網羅の中の「自動減算」として解釈できるか