# 確率分布の選択と関係
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## 定義
確率分布の選択と関係とは、モデル化対象の性質(観測データの分散と平均の大小関係、無記憶性の有無、境界の有無、時間依存性など)から適切な分布族を選ぶ判断規則と、分布どうしが和・比・極限操作によって互いに導出可能であるという構造的な関係の両方を指す。Jainはこれを、離散分布間の関係を示す図29.1と連続分布間の関係を示す図29.2の2枚の地図としてまとめる。離散側の中心軸はベルヌーイ→(和)→二項→(p→0の極限)→ポアソン→(λ>9の近似)→正規という系列で、連続側の中心軸は指数→(畳み込み)→アーラン→(非整数形状への一般化)→ガンマという系列と、正規→(二乗和)→カイ二乗→(比)→t・Fという系列の2本である。正規分布は連続分布でありながら図29.1にも含まれ、離散分布の世界と連続分布の世界を繋ぐ橋として位置づけられる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 29 Commonly Used Distributions]] §29.20)
分布選択の実務的な規則としては、離散カウント分布(二項・ポアソン・負の二項)は観測データの分散と平均の大小関係で機械的に決まる: 分散<平均なら二項分布、分散=平均ならポアソン分布、分散>平均なら負の二項分布を使う。連続分布では、サービス時間・故障間隔は無記憶性を持つ指数分布を既定とし、変動係数が1未満ならアーラン分布・ガンマ分布へ拡張する。寿命・信頼性のモデル化ではワイブル分布が使われ、形状パラメータb=1のとき指数分布に一致する。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 29 Commonly Used Distributions]] §29.3, §29.5-§29.6, §29.8, §29.11, §29.15, §29.19)
## 横断的知見
- **同じ二項分布に、性能評価の実務書(Jain)は「分散と平均を比べて選ぶ」という実務的な判定規則を与え、離散数学の教科書(MCS)は「なぜその選択が妥当か」を組合せ論的に基礎づける**: Jain第29章§29.3・§29.11・§29.15は、二項・負の二項・ポアソンの3分布を分散と平均の大小関係だけで使い分ける規則を示すが、なぜ二項分布の分散が常に平均より小さくなるのか(np(1-p)<np)、その裾がどれほど急速に減衰するのかには立ち入らない。[[二項分布]] concept が集約する MCS第18-19章は、この同じ二項分布を指示確率変数の和として分解し、期待値の線形性からpnという平均を、対独立な和の分散公式からnp(1-p)という分散を導出し、さらにチェビシェフの不等式・チェルノフ限界で裾の減衰を定量的に評価する。Jainの選択規則は、MCSが証明する「二項分布の分散は必ず平均を下回る」という定理を暗黙の前提として使っており、両者を合わせて初めて「なぜこの選択規則が成り立つか」まで遡れる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 29 Commonly Used Distributions]] §29.3, [[二項分布]])
- **ワイブル分布のβ=1における指数分布への一致は、1991年の性能評価の教科書と2012年の信頼性工学の専門書という、分野も年代も異なる2つのソースで独立に同じ形で述べられている**: Jain第29章§29.19は「b=1のとき故障率は一定になりライフタイムは指数分布に従う」と1文で述べるにとどまるが、[[ワイブル分布]] concept が集約するO'Connor & Kleyner『Practical Reliability Engineering』第2章§2.6.6は同じ事実を、ハザード関数h(t)=(β/η^β)t^(β-1)がβ=1のとき定数1/ηになるという式変形付きで導出し、さらに第3章でβ<1(初期故障)・β≈1(偶発故障)・β>1(摩耗故障)という診断的解釈にまで発展させる。性能評価の実務書は簡潔な事実として、信頼性工学の専門書は診断ツールとして、それぞれ独立に同じ数学的関係に到達しており、この一致はβ=1⟺指数分布という関係が特定分野に依存しない安定した事実であることを裏付ける。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 29 Commonly Used Distributions]] §29.19, [[ワイブル分布]])
- **本書の中で、カイ二乗・t・F分布は第13・20・27章で「検定の道具」として先に使われ、第29章で初めて数学的な素性(正規分布からの導出)を与えられるという時間差のある構造を持つ**: 第13章§13.2はt分布の分位点を信頼区間の構成に使い、そのパラメータの詳細を「Section 29.16で詳述される」と明示的に先送りする。第20章§20.5はF検定でMSA/MSEをF分布の臨界値と比較し、第27章§27.1はカイ二乗検定で観測頻度と期待頻度の差をカイ二乗分布と比較する。いずれの章も分位点表を引く操作として3分布を扱い、その形がどこから来るかには触れない。第29章はこの欠落を埋め、カイ二乗分布はv個の単位正規変量の二乗和(§29.4)、t分布は正規変量とカイ二乗変量の比(§29.16)、F分布は2つのカイ二乗変量の比(§29.7)であることを示す。4つの章にまたがるこの「道具の使用が先、素性の開示が後」という構造は、本書が推測統計の手続きを先に実務として教え、その理論的根拠をシミュレーション・確率の章(Part V)にまとめて後置するという編成方針を反映している。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 29 Commonly Used Distributions]] §29.4, §29.7, §29.16, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 13 Comparing Systems Using Sample Data]] §13.2, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 20 One-Factor Experiments]] §20.5, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 27 Testing Random-Number Generators]] §27.1)
## 未解決の問い
- 図29.1・図29.2が示す関係は和・比・極限という導出的な結びつきに限られ、実務でどちらの分布を優先すべきかの規範(例: 二項分布からポアソン分布への近似がpがどの程度小さければ妥当とみなせるか)を定量的な閾値として示す記述は本章にない。
- ワイブル分布(形状パラメータbによる一般化)と負の二項分布(分散>平均という一般化)のように、複数の分布が「基本形の一般化」という同じ役割を異なる軸(時間依存性 対 過分散)で担う場合、どちらの一般化を優先して採用すべきかを横断的に決める指針は、性能評価(Jain)・信頼性工学(O'Connor & Kleyner)のいずれのソースにも見当たらない。
- パレート分布(§29.13)は本章内で唯一、性能評価上の具体的な用途(サービス時間・到着数など)を欠いたまま「べき乗曲線への経験的フィット」とだけ紹介される。1991年の本書がこの分布を他の分布ほど重視していない(あるいは当時まだ性能評価の実務に定着していなかった)理由は、本書の記述だけでは判断できない。
## 関連
- source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 29 Commonly Used Distributions]] / [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 13 Comparing Systems Using Sample Data]] / [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 20 One-Factor Experiments]] / [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 27 Testing Random-Number Generators]]
- 概念: [[二項分布]](分散<平均という選択規則の理論的根拠) / [[ワイブル分布]](β=1と指数分布の一致の詳細) / [[統計的有意性]](カイ二乗検定・F検定という道具としての応用) / [[信頼区間]](t分布を使う構成手続き) / [[確率変数]] / [[期待値]] / [[分散]] / [[乱数生成器]](本章の生成法が依拠する一様乱数の生成層) / [[待ち行列理論]](指数分布・ポアソン過程がモデルの前提になる応用先)
## 出典
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 29, §29.3-§29.20.
- Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 13 §13.2, Chapter 20 §20.5, Chapter 27 §27.1(カイ二乗・t・F分布を道具として使う先行箇所)。