# 生産のための知識
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## 定義
生産のための知識(knowledge for production)は、Walter Vincenti が第6章で「設計のための知識(knowledge for design)」と対比して導入する概念で、装置を作る(production、construction)という工学の目的に固有の知識を指す。第6章は沈頭リベット接合の事例分析から、生産のための知識・生産要件由来の設計知識・強度要件由来の設計知識という3種の知識を、7つの観点――知識の役割(role)、性格(character、質的/量的)、生成の主体(actors)・場所(locale)・組織形態(organization)・伝達様式(communication)、成文化(codification)の形態、公表される文献の種類、具体例――で対比した表6-1に整理する。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 6 Design and Production - The Innovation of Flush Riveting in American Airplanes, 1930-1950]], p.195-196)
表6-1が示す対比の骨子は以下のとおりである。
- **役割**: 生産のための知識は「設計図面を現実へ翻訳する」ことを目的とするのに対し、設計のための知識は「リベット接合の設計図面を供給する」ことを目的とする。
- **性格**: 生産のための知識は質的・量的の両方を含むのに対し、強度要件由来の設計知識はほぼ完全に定量的である。
- **生成の主体**: 生産のための知識は生産技術者と現場作業者が生み出すのに対し、強度要件由来の知識は構造・設計技術者が生み出す。
- **生成の場**: 生産のための知識はほぼ業界内で生成される(NACA が関与したのは1事例のみ)のに対し、強度知識は業界・政府研究所・大学にまたがり、最終的な確定は業界で行われる。
- **組織形態**: 生産のための知識は各社内のチームが担い業界横断の公式組織はないのに対し、強度知識は業界横断の公式委員会(ANC-5 委員会など)によって確定される。
- **伝達様式**: 生産のための知識は技術誌・業界誌への記述的な記事や個人的な面識・技術会合を介した非公式な交流で伝わるのに対し、強度知識は評価的な技術報告・委員会の会合や書簡という、より公式で拘束力のある形で伝わる。
- **成文化**: 生産のための知識は企業ごとに異なる「工程仕様書(process specifications)」に、強度知識は業界全体を拘束する軍民共通の要件(ANC-5)に成文化される。
- **公表文献**: 生産のための知識は技術誌・業界誌・書籍・解説マニュアルに、強度知識は政府刊行物に現れる。
具体例として、生産のための知識は「ディンプリングダイの形状寸法」、生産要件由来の設計知識は「各種リベット接合方式に適用できる板厚の限界」、強度要件由来の設計知識は「リベットの許容強度」が挙げられる。(Source: 同上, p.196)
表を分析すると、**生産のための知識と生産要件由来の設計知識は多くの観点で共通しており、両者ともに現場の生産活動に根ざしている**という点で、性格の共通性(規範的知識であること)を持つことがわかる。これに対し、強度要件由来の設計知識(許容強度)は事実の記述であり記述的知識に分類される。この観察から Vincenti は、目的(生産/設計)による分類より、[[記述的知識と規範的知識]]という性格による分類のほうが工学認識論上より根本的だと論じている。詳細は [[記述的知識と規範的知識]] を参照。(Source: 同上, p.196-198)
## 横断的知見
(現時点では第6章のみを起点として立ち上げた concept のため、複数ソースの突き合わせによる横断的知見は未収載。)
## 未解決の問い
- 「運用のための知識(knowledge for operation)」は、生産のための知識・設計のための知識とどのような関係にあるか。第1章は工学の目的を設計・生産・運用の3つに分けるが、本書全体は主に設計を扱っており、運用のための知識の性格は本書内では深掘りされていない。
- 表6-1の7つの対比観点(役割・性格・生成の主体/場所/組織/伝達様式・成文化・公表文献)は、他の技術分野の生産知識にもそのまま適用できる一般的な枠組みか、それとも沈頭リベット接合に固有のものか。
## 関連
- 概念: [[記述的知識と規範的知識]] — 生産/設計という目的による分類より根本的だと著者が位置づける性格による分類。
- 概念: [[工学設計知識]] — 本 concept が対比する「設計のための知識」側のハブ concept。第6章の観察は「設計と生産で知識の性質が変わる」という形でこちらにも短く積み増した。
- ソース: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 6 Design and Production - The Innovation of Flush Riveting in American Airplanes, 1930-1950]]
## 出典
- Walter G. Vincenti, *What Engineers Know and How They Know It*, The Johns Hopkins University Press, 1990, Chapter 6, pp. 195-198.