# 狩野モデル ## 定義 顧客満足度の狩野モデルとは、フィーチャの充足度(実装の有無・程度)と顧客満足度との関係を表すモデルであり、狩野紀昭が提唱した(出典: 狩野紀昭・瀬楽信彦・高橋文夫・辻新一「魅力的品質と当り前品質」『品質』Vol.14, No.2)。フィーチャは以下の3カテゴリに分類される。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1) - **当たり前のフィーチャ(必須フィーチャ)**: プロダクトが成功するために欠かせないフィーチャ。ある程度満たされれば、それ以上フィーチャを追加したり品質を磨いたりしても顧客満足度はほとんど上がらない。どれだけ多く備えても、顧客満足度を並より高くすることはできない。 - **線形のフィーチャ(一元的フィーチャ)**: フィーチャの量・出来映えに対して顧客満足度が線形に高まる「あればあるほど良い」フィーチャ。プロダクト価格も線形に増減する傾向がある。 - **魅力的なフィーチャ**: 大きな満足やわくわくする気持ちをもたらし、プロダクトの価格を割り増せるが、なくても顧客満足度が悪くなることはないフィーチャ。顧客・ユーザーは実際に体験してみるまで必要だと気づかないため「隠れたニーズ」とも呼ばれる。 ![[wiki/sources/_attachments/agile-estimating-and-planning-ja/ch11-fig11.1-kano-model.png]] (図11.1 顧客満足度の狩野モデル。横軸をフィーチャの充足度、縦軸を顧客満足度とし、当たり前・線形・魅力的の3曲線の関係を示す。当たり前のフィーチャは右下で頭打ちになり、線形のフィーチャは中心を対角線状に通り、魅力的なフィーチャは左上で急激に立ち上がる。Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1) フィーチャがどのカテゴリに属するかを判定するには、そのフィーチャがあった場合の気持ちを問う「充足質問」と、なかった場合の気持ちを問う「不充足質問」の一対をユーザーに尋ねる。どちらの質問にも「気に入る/当然である/何とも感じない/しかたない/気に入らない」の5択から回答を選んでもらう。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1-1) ![[wiki/sources/_attachments/agile-estimating-and-planning-ja/ch11-fig11.2-functional-dysfunctional-questions.png]] (図11.2 フィーチャの充足質問と不充足質問。SwimStatsのグラフ表示フィーチャを例に、それぞれの質問への5択回答の想定問答を示す。ユーザーは充足質問と不充足質問の両方に「気に入る」と答えるなど、矛盾する回答をしてもかまわない。Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1-1) 充足質問と不充足質問への回答の組み合わせ(5×5=25通り)は、以下の6つの分類記号のいずれかに割り当てられる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1-2) - **M(Must-have, 必須)**: 当たり前のフィーチャに対応する。 - **L(Linear, 線形)**: 線形のフィーチャに対応する。 - **E(Exciter, 魅力的)**: 魅力的なフィーチャに対応する。 - **I(Indifferent, 無関心)**: ユーザーがどちらでもよいと感じる回答の組み合わせ。 - **R(Reverse, 逆効果)**: フィーチャがあることでかえって不満を招く回答の組み合わせ。 - **Q(Questionable, 懐疑的回答)**: 充足質問・不充足質問の両方に「気に入らない」と答えるなど、回答として矛盾が疑われる組み合わせ。 ![[wiki/sources/_attachments/agile-estimating-and-planning-ja/ch11-fig11.3-kano-classification.png]] (図11.3 2つの質問への回答からフィーチャを分類する表。充足質問の回答を縦軸、不充足質問の回答を横軸にとり、交差するセルにM/L/E/I/R/Qのいずれかを割り当てる。Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1-2) 20〜30人規模のユーザーに対してこの手順を繰り返し、フィーチャごとにM/L/E/I/R/Qそれぞれの得票率を集計して配分表を作る。得票率がもっとも高いカテゴリを、そのフィーチャの評価分類とする。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1-2) ![[wiki/sources/_attachments/agile-estimating-and-planning-ja/ch11-tbl11.1-survey-distribution.png]] (表11.1 ユーザーへのアンケート結果の配分表。SwimStatsの3フィーチャについてE/L/M/I/R/Qそれぞれの得票率(%)と評価分類を示す。競泳種目記録のグラフ表示は線形(L 43.8%)、写真のアップロードは必須(M 54.3%)、プロフィール登録は魅力的(E 39.1%)と分類される。プロフィール登録はMの得票率(36.6%)もEに近く、得点の高い結果が2つになる例として挙げられている。Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1-2) 得点の高い結果が2つになる場合は、ユーザーの種類によって期待の抱き方に差があることを意味する。この場合は、企業規模・ユーザーの社内での役割・企業の業種などの他の属性でユーザーを分類しながら再集計する。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1-2) 分類結果は優先順位づけに直接反映する。プロダクトが市場で受け入れられるには当たり前のフィーチャが不可欠なため、リリースまでに全て備えるよう優先順位づけをする(ただし部分的な実装で十分な場合もある)。次に線形のフィーチャをできるだけ多く完成させることを重視し、魅力的なフィーチャは時間の許す範囲で対応する。また、フィーチャには時間の経過とともに狩野モデルの図の中を上から下へ(魅力的→線形→当たり前)と移動する性質がある。たとえば、ホテルの無線LANはかつて魅力的なフィーチャだったが、現在は線形のフィーチャであり、近い将来には当たり前のフィーチャになるとされる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §1) ## 横断的知見 - 11章はアンケート結果の分類表(表11.1)について「得点の高い結果が2つになることもある」と述べるにとどまるが、23章のケーススタディはその状況の解釈の仕方を実演している。ハバナのアンケートでは「強い対戦相手」が必須と無関心の2つのピークを持ち、これを回答者の母集団が2種類(すでにハバナを知る腕のたつプレイヤーと、未経験のプレイヤー)混在していたためと解釈した。分類が割れたときは回答数の多いほうを採るのではなく、母集団の分割を疑うのが実務上の読み方になる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §2, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]] p.295-296) - 11章は魅力的なフィーチャを狩野モデルの分類の1つとして定義するが、23章のケーススタディでは、アンケート結果に魅力的なフィーチャがほとんど現れないという事態が起きている。これに対して「わくわくする魅力的なフィーチャとは予期されていないフィーチャである」以上、ユーザーが事前に挙げられるはずがない、という説明が与えられる。つまりアンケートは既知のフィーチャの優先順位づけには有効だが、未知の魅力的なフィーチャの発見には原理的に向かず、そこはインタビューなど別の手段で補う必要がある。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] §2, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]] p.296) ## 未解決の問い - フィーチャが狩野モデルの図の中を時間とともに下降する(魅力的→線形→当たり前)とされるが、その移行速度をどう予測し、リリース計画のタイミングに反映すべきかは原本に具体的な指針がない。 - アンケート結果で複数カテゴリの得票率が拮抗した場合(表11.1のプロフィール登録の例)、企業規模・役割・業種でセグメントし直すとされるが、セグメント後に複数の集計結果が出た場合、最終的な優先順位にどう統合するのかの手順は示されていない。 - 狩野モデルによる「望ましさ」の分類と、9章が示す4要素(金銭価値・コスト・新しい知識・リスク)や10章の金銭価値算出手法(NPV・IRR・回収期間)を、同一のフィーチャ群に対して同時に適用した場合、優先順位の結論が矛盾したときにどちらを優先すべきかの調整ルールは何か。 - 狩野モデル(ユーザーアンケートによる分類)と相対的重み付け(専門家判断によるスコアリング)は、どのような条件で使い分けるべきか。原本は「話し合ってみよう」で読者への問いとして投げているのみで、明確な選択基準は示していない。 ## 関連 - 章: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]] / [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]](実データの読み方の実例) - 書籍: [[wiki/entities/アジャイルな見積りと計画づくり|アジャイルな見積りと計画づくり]] - 実体: [[狩野紀昭]](提唱者) - 概念: [[相対的重み付け]](狩野モデルと同じ「望ましさ」の軸で優先順位づけを行う代替手法) / [[フィーチャの優先順位づけ]] ## 出典 - Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 11章。 - Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 23章。 - (原本内の引用) 狩野紀昭・瀬楽信彦・高橋文夫・辻新一「魅力的品質と当り前品質」『品質』Vol.14, No.2。