# 活動ベースの計画づくり
## 定義
活動ベースの計画づくり(作業ベースの計画づくり)とは、ガントチャートやWBS(Work Breakdown Structure)を使い、作業(タスク)の完了をチームの進捗の測定基準にする従来型の計画手法である。この手法では計画に記述される単位がフィーチャではなく作業であり、作業の完了自体が管理対象になる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §1)
## 横断的知見
- 現時点では [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] のみが典拠であり、複数ソースを突き合わせた横断的知見はまだ蓄積されていない。3章「アジャイル手法」以降で、活動ベースの計画づくりと対比されるフィーチャベースのアジャイルな計画づくりの具体的な仕組みが ingest され次第、ここに積み増す。
- 総括にあたる22章は、アジャイルな計画の基準をタスクではなくフィーチャに置くことを、本書全体の成功理由の1つとして明言する(§4)。従来型の計画表現(ガントチャート・PERT図・WBS)がタスクに焦点を合わせる点を名指しし、フィーチャを基準にすることでチームがプロダクトを正しい視点から捉えられると述べる。これは2章が診断した「顧客にとっての価値のずれ」(作業の完了自体には価値がなく、価値の単位はフィーチャである)という失敗機序に対する、書籍全体を通じた正の対比になっている。22章が引用するジム・ハイスミスの言葉「タスクを基準にすると、構築すべきプロダクトに対する理解を欠いたままプロジェクト全体の計画を立ててしまうことも可能だ」は、2章が挙げた同じ失敗機序を裏側から言い換えたものにあたる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 22 なぜアジャイルな計画づくりがうまくいくのか]] §4, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §1)
- 22章のガイドライン11「ゆとりを残す」(チームメンバー全員の時間を100%使い切る計画を立てないこと)は、2章がマルチタスク化の失敗機序の一部として挙げた「個々人の稼働率を高めることを重視しすぎてゆとり(slack)を確保できなくなる」という問題に対する、本書全体を通じた直接の回答である。2章の時点ではマルチタスク化の代償が診断されるのみで具体的な対処法は示されていなかったが、22章はこれを12のガイドラインの1つとして明文化する形で閉じている。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 22 なぜアジャイルな計画づくりがうまくいくのか]] §9, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §2)
## 活動ベースの計画づくりが失敗する機序
- **顧客にとっての価値のずれ**: 顧客にとって作業の完了自体には価値がなく、価値の単位はフィーチャである。計画づくりの単位を作業にすると、スケジュールレビューの視点までもが「足りないフィーチャ」ではなく「足りない作業」を探す方向に歪んでしまう。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §1)
- **作業は早く終わらない(パーキンソンの法則)**: ガントチャート上で作業に割り当てられた期間は、担当者にとって「その期間分をかけてよい」という暗黙の許可として機能する。予定より早く終えると「見積りを上乗せしていた」と責められたり、次はもっと早くと期待されたりするリスクがあるため、早期完了を避ける動機が働く。この振る舞いは [[Cyril Northcote Parkinson]] が1958年に提示した「パーキンソンの法則」(「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」)として知られる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §1-1)
- **遅れは伝播するが早さは伝播しない**: 活動ベースの計画は作業間の依存関係を重視する。後続作業の着手を早めるには先行するすべての作業が早く終わる必要があるが、作業が早く終わることはめったにないため、1つでも遅れれば後続作業の着手は遅れ、その遅れはスケジュールの先へと伝わっていく。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §1-2)
- **作業は独立していない**: ソフトウェア開発の作業の多くは互いに独立しておらず、ある作業が予定より長くかかったなら、類似の他の作業も同様に予定より長くかかると考えるべきである。後の作業で遅れを相殺できるという期待は根拠に乏しい。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §1-3)
- **マルチタスク化の代償**: スケジュールから遅れそうになったチームは、複数の作業を同時に担当させるマルチタスク化で状況を打開しようとしがちだが、[[Kim B. Clark]] と [[Steven C. Wheelwright]] の研究が示すように、個人が3つ以上の作業を並行して進めると価値を生む作業に使える時間の割合が大幅に減少する。作業を切り替えられる分だけ着手が早まったように錯覚するが、切り替えコストそのものが生産性を落とすため、各作業はかえって当初の予定より遅れて完了する。マルチタスク化が問題化するのは、作業の割り振りが実際の着手よりずっと前に行われて効果的な分担ができないことと、個々人の稼働率を高めることを重視しすぎて変動に対処する「ゆとり(slack)」を確保できなくなることの2点による。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §2)
- **フィーチャではなく作業で優先順位づけをしてしまう**: 活動ベースの計画の多くは、計画にあるすべての作業を完了させることを前提にしているため、開発チームに都合の良い順序でフィーチャの優先順位と作業順序が決められがちになる。プロジェクトの納期が近づいて土壇場でフィーチャが削られる際、実装順序が価値に基づいていないため、削られるフィーチャの中に既に実装済みのフィーチャより価値が高いものが含まれてしまうことがある。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §3)
- **不確実性の無視**: 活動ベースの計画づくりは、プロダクトに関する不確実性(要求が完璧に定義でき、ユーザーの気が変わらないという前提)と、プロダクトを構築する手法に関する不確実性(作業内容が明確でないのに高精度で見積もれるという前提)の両方を無視し、大抵のスケジュールを絶対に動かせない特定の日付として表現する。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §4)
- **見積りとコミットメントの混同**: 見積りは、見積もった時間内に作業が完了する確率であるのに対し、コミットメントは日付として表現される。[[Phillip Armour]] が指摘するように見積りは確率だがコミットメントは確率ではなく、活動ベースの計画づくりの現場ではこの区別が曖昧なまま、チームが達成確率100%に満たない日付へのコミットメントを強いられがちになる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] §5)
## 未解決の問い
- アジャイル手法は、上記5つの失敗機序のうち「顧客にとっての価値のずれ」と「フィーチャではなく作業で優先順位づけをしてしまう」の2つについては、22章がフィーチャ基準の計画づくりとして総括の答えを与えている。しかし「作業は早く終わらない(パーキンソンの法則)」「遅れは伝播するが早さは伝播しない」「作業は独立していない」の3つの機序については、22章まで含めても、アジャイルな計画づくりが具体的にどの仕組みで回避するのかが明示されていない(頻繁な計画の見直し・小さなストーリーによる流れの改善が間接的に関係しうるが、この3機序と名指しで対応づけられてはいない)。
- マルチタスク化が生産性を損なうという知見(クラークとウィールライトの研究)は、ソフトウェア開発以外の分野の研究でも裏付けられているか。本書はこの点についてさらに言及しているか。
- 見積りとコミットメントを組織的に区別する運用は、本書後半の「計画とコミュニケーション」(21章)でどのように扱われるか。
## 関連
- 概念: [[アジャイルな計画づくり]] / [[不確実性コーン]]
- 実体: [[Phillip Armour]] / [[Cyril Northcote Parkinson]] / [[Kim B. Clark]] / [[Steven C. Wheelwright]]
- source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 2 なぜ計画づくりに失敗するのか]] / [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 22 なぜアジャイルな計画づくりがうまくいくのか]]
- 書籍: [[wiki/entities/アジャイルな見積りと計画づくり|アジャイルな見積りと計画づくり]]
## 出典
- Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 2章, 22章.