# 機能配分 ## 定義 機能配分(function allocation)とは、システムを構成する「機能」(タスクやジョブ)を人間に割り当てるべきか機械に割り当てるべきかを判断するための考え方である。起源は1951年の論文 "Human Engineering for an Effective Air-Navigation and Traffic-Control System"(P. M. Fitts 編)にさかのぼり、この論文がまとめた対比表は現在「Fitts のリスト」と呼ばれる。人間が機械より優れている面(少量の視覚的・聴覚的エネルギーの検知、光や音のパターンの知覚、即興や柔軟な手続き、大量の情報の長期保管と想起、誘導的な理由づけ、判断)と、機械が人間より優れている面(制御シグナルへの高速・正確な反応、繰り返しルーティンタスク、情報の保管と消去、演繹的な理由づけ、非常に複雑な操作)を対比する。後継の枠組みは HABA-MABA(Humans Are Better At / Machines Are Better At、元は「MABA-MABA」= men-are-better-at/machines-are-better-at)と呼ばれ、数十年にわたりヒューマンファクター研究の中心にあった。(Source: [[@2022__OReillyJapan__カオスエンジニアリング - Chapter 11 ループの中の人々]] §11.1.4) 認知システム工学の分野では、この枠組みに対する実証研究に基づく批判が近年なされている。核心的な問題は、仕事を人間・機械という適切な主体に「配分」できる特定・分離可能なタスクへ分解できるという前提そのものにある。Hollnagel が1999年に「置き換えによる機能配分(replacement myth、置き換えの神話)」と呼んだのはこの前提で、単純に人間の代わりに機械を使えば基本的なシステムは維持しつつ作業量削減・経済性向上・エラー減少・正確性向上といった指標を改善しながら自動化を導入できるという考え方を指す。この考え方の根底には、人間とコンピュータが固定された強みと弱みを持ち、自動化の意義はその強みを活用しながら弱みを取り除いて埋め合わせることにあるという想定があるが、コンピュータの強みを活用しても人間の弱みの単なる置き換えにはならず、実際には予期せぬ形で新たな人間の強みと弱みが生まれることが多いと批判される。現実の複雑なシステムでは、タスクや活動は高度に相互依存し結合しており、複雑なシステムが本質的に独立したタスクの集合に分解可能だという想定は新技術の影響調査によって擁護できないことが示されている。(Source: [[@2022__OReillyJapan__カオスエンジニアリング - Chapter 11 ループの中の人々]] §11.1.5、Sidney W. A. Dekker, *Safety Differently*, 2nd ed., 2015 経由) Bainbridge の「自動化の皮肉」の2つの皮肉——(1) 自動化における設計者の誤りが動作上発生する問題の主な要因となりうる、(2) 設計者は運用者を取り除こうとするが、自動化のしかたが分からないタスクは運用者に任せ続ける——は、機能配分・置き換えの神話に対する具体的な反証として引用される。(Source: [[@2022__OReillyJapan__カオスエンジニアリング - Chapter 11 ループの中の人々]] §11.1.5) ## 横断的知見 - (今後の ingest で複数ソースが揃い次第、機能配分・HABA-MABA・置き換えの神話をめぐる突き合わせ観察をここに蓄積する。現時点では『カオスエンジニアリング』11章が唯一のソースである。) ## 未解決の問い - カオスエンジニアリングの4原則(定常状態の定義・仮説構築・変数の導入・差異の検出)のうち、どの活動が自動化に適し、どれが人間に残すべきかという問いに、機能配分批判はどこまで具体的な指針を与えるか。11章はこの問いを提起するのみで答えを出していない。 - 『カオスエンジニアリング』12章で Peter Alvaro が提案する実験選択の自動化は、本ページが集約する「置き換えの神話」批判にどう応えるか、あるいは同じ批判にさらされるか。 - Fitts のリスト(1951)・HABA-MABA という静的な強み・弱みの対比表に代わり、認知システム工学(Hollnagel, Woods)はどのような分析枠組みを提案しているか。11章は批判のみを紹介し、代替枠組みの詳細には立ち入っていない。 ## 関連 - 概念: [[自動化の皮肉]] — Bainbridge の2つの皮肉。機能配分批判の具体的な反証として11章が引用 - 概念: [[情報処理システムとしての人間]] — 人間を情報処理システムとして捉える視点との対比 - 概念: [[レジリエンスエンジニアリング]] — Hollnagel・Dekker が共に中核研究者を務める隣接分野 - 概念: [[カオスエンジニアリング]] - 実体: [[John Allspaw]] / [[Erik Hollnagel]] / [[Sidney Dekker]] / [[Lisanne Bainbridge]] - 章: [[@2022__OReillyJapan__カオスエンジニアリング - Chapter 11 ループの中の人々]] — 本概念の唯一の出典章 ## 出典 - [[@2022__OReillyJapan__カオスエンジニアリング - Chapter 11 ループの中の人々]] — John Allspaw, 「ループの中の人々」, Casey Rosenthal・Nora Jones 編『カオスエンジニアリング ― 回復力のあるシステムの実践』, オライリー・ジャパン, 2022, 11章(§11.1.4-§11.1.5).