# 条件付き確率
Navigation: [[index]] | [[overview]]
## 定義
事象 Y の確率が0でないとき、事象 X の Y による条件付き確率(conditional probability)を
Pr[X | Y] := Pr[X ∩ Y] / Pr[Y]
と定義する。Pr[Y] = 0 のとき Pr[X | Y] は定義されない。条件付き確率は、「Y が起きたという情報のもとで標本空間を Y に含まれる結果だけに絞り込み、その中での X の相対的な重みを測る」という操作に対応する。(Source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]] §17.2)
条件付けの向きを取り違えると誤った結論に至る。モンティ・ホール問題の「混乱」は、本来問うべき条件(コンテスタントがドアAを選び、かつキャロルがドアBを開ける)ではなく、より緩い条件(コンテスタントがドアAを選び、かつヤギがドアBにいる)で計算してしまったために生じる。後者には余計な結果(キャロルがドアCを開ける場合)が混入するため、条件付き確率の値が変わってしまう。(Source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]] §17.1–§17.2)
条件付き確率の定義を変形すると、**条件付き確率の積の規則(Product Rule)**が得られる。2事象では
Pr[E1 ∩ E2] = Pr[E1] · Pr[E2 | E1]
3事象では
Pr[E1 ∩ E2 ∩ E3] = Pr[E1] · Pr[E2 | E1] · Pr[E3 | E1 ∩ E2]
となり、n事象への一般化も自然に定まる。[[四段階法]]で木図(tree diagram)の各辺に割り当てる確率は、実はこの積の規則における条件付き確率そのものであり、根から葉への経路上の辺確率の積が結果の確率になることの数学的な正当化を与える。(Source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]] §17.4)
**全確率の法則(Law of Total Probability)**は、事象 A の確率を、互いに素で標本空間を尽くす事象 E, Ē(あるいは E1, ..., En)で場合分けして計算する規則である。
Pr[A] = Pr[A | E] · Pr[E] + Pr[A | Ē] · Pr[Ē]
和集合則と条件付き確率の定義から直接導かれる。n事象版も同様に定まる。(Source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]] §17.5)
**ベイズの規則(Bayes' Rule)**は、Pr[B | A] と Pr[A | B] を相互に変換する。
Pr[B | A] = Pr[A | B] · Pr[B] / Pr[A]
証明は Pr[B|A]·Pr[A] = Pr[A∩B] = Pr[A|B]·Pr[B] を Pr[A] で割るだけである。全確率の法則と組み合わせると、Pr[A] を Pr[A|E1]·Pr[E1] + ... の形に展開でき、E1, ..., En のいずれが「原因」だったかの事後確率 Pr[Ei | A] を計算できる。乳がん検診の例では、検査精度が90〜95%と高くても、有病率が1%と低いためベイズの規則により陽性適中率(検査が陽性であったとき実際に疾患がある確率)はわずか約15%にとどまる。(Source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]] §17.4.3–§17.4.5)
事象 B が事象 A より時間的に先行するとき、条件付き確率 Pr[B | A] を事後確率(a posteriori probability)と呼ぶ。数学的な確率論には時間の前後関係という概念自体が存在しないため、「トーナメントに勝った(結果 A)という条件のもとで初戦に勝った(先行事象 B)確率」のような、直感的には奇妙に見える問いも数学的には正当である。事後確率をどう解釈するか(頻度主義 vs. ベイズ主義)は数学の問題ではなく哲学的な立場の違いである。(Source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]] §17.4.5–§17.4.6)
## 横断的知見
- [[四段階法]]は第16章で標本空間・事象・木図という道具立てとともに導入されたが、木図の辺確率が条件付き確率そのものであるという数学的な正当化(条件付き確率の積の規則)は第17章で初めて与えられる。第16章の時点では「なぜ根から葉への辺確率を掛け合わせてよいのか」は手続き上の前提として天下り的に導入されていたが、第17章はこれを条件付き確率の定義から演繹的に導く。(Source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 16 Events and Probability Spaces]], [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]])
## 未解決の問い
- 条件付き確率を確率変数(第18章)の文脈でどう用いるか(条件付き期待値など)は本章の範囲では扱われていない。
- 全確率の法則・ベイズの規則は離散(可算)標本空間を前提に導かれている。連続分布への拡張は本章の範囲外。
## 関連
- 概念: [[四段階法]](木図の辺確率の正当化)、[[確率空間]](条件付き確率が定義される土台)、[[独立性]](条件付き確率が周辺確率に一致する特殊ケース)、[[シンプソンのパラドックス]](条件の選び方を誤ると生じる逆説)
- source: [[@2015__MIT__Mathematics for Computer Science - Chapter 17 Conditional Probability]]
## 出典
- Eric Lehman, F. Thomson Leighton, Albert R. Meyer, *Mathematics for Computer Science*, revised 2015-05-18, Chapter 17 §17.1–§17.5.