# 支配極と高次系の近似 ## 定義 支配極(dominant pole)とは、複数の極を持つ系(高次系)において絶対値が最大の極を指し、その系の過渡応答(整定時間・振動特性)がこの一つの極でおおむね説明できるという性質を支配極による近似と呼ぶ。$n$ 次系の伝達関数 $G(z)=b(z-q_1)\cdots(z-q_m)z^{n-m}/[(z-p_1)\cdots(z-p_n)]$(式6.4)のうち他より絶対値の大きい極 $p_j$ が存在するとき、系全体の整定時間は一次系の式をそのまま流用した $k_s \approx -4/\log|p_j|$ でおおむね近似できる。これは、安定な系のインパルス応答が極ごとの指数関数(複素極なら減衰正弦波)の線形結合になり、支配極以外の項が $k$ の増加につれて相対的に急速に無視できるほど小さくなるためである(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] §6.2, 式6.11)。極が複素共役対 $p_{1,2}=re^{\pm j\theta}$ の場合も同様に、絶対値 $r$ を使った $k_s \approx -4/\log(r)$(式6.13・6.15)が整定時間を、偏角 $\theta$ を併用した $M_P \approx r^{\pi/|\theta|}$(式6.16)が最大オーバーシュートを近似する(Source: 同 §6.3.2〜§6.3.3)。この近似は零点を持たない系でよく機能し、零点の寄与が小さい場合は高次系にも拡張できる(Source: 同 §6.3.3)。 ## 横断的知見 - **支配極近似が「いつ妥当か」の与え方が章によって性格が異なる**: 第3章は支配極を「他の極よりおおむね2倍以上大きい極」という経験則(数値的な目安)で導入するにとどまるのに対し(Source: ch.3 §3.3.4)、第6章はこの経験則の背後にある定量的根拠 — 安定系のインパルス応答が各極の指数関数の線形結合になり、非支配極の寄与が $k$ とともに指数的に無視できるようになること(式6.11) — を導出するが、「何倍以上あれば十分か」という具体的な閾値そのものは再掲しない。両章を合わせて読むと、実務では第3章の「2倍」を素早い判定基準として使い、正確な予測が必要な場面では第6章の式(6.11・6.13・6.16)で計算する、という役割分担が見える(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 3 Z-Transforms and Transfer Functions]] §3.3.4, [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] §6.2, §6.3.2〜§6.3.3)。 - **複素極への拡張は第6章で初めて与えられる**: 第3章の支配極の図解(図3.11・図3.12)は最大の極が正・負いずれの実数である場合のみを扱い、複素極への支配極近似の拡張には触れない。第6章で初めて、複素極対の絶対値 $r$ を「支配極の大きさ」として扱う拡張(式6.13・6.16)が与えられ、オーバーシュートの予測にまで一般化される。これは、第3章の概念ページ [[Z変換と伝達関数]] に残されていた未解決の問い(「複素数の支配極を持つ場合の扱いが第6章でどう本格展開されるか」)に対する、第6章側からの回答にあたる(Source: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 3 Z-Transforms and Transfer Functions]] §3.3.4, [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] §6.3.1〜§6.3.3)。 ## 未解決の問い - 支配極が「他の極の何倍以上」であれば近似が実用上十分かという定量的な閾値は、第3章の「2倍」という経験則以外に本書からは与えられない。第6章の実例(IBM Lotus Domino Server の PI 制御閉ループ極 $\{0.95\pm0.047j,\ 0.48\}$ など、支配極対と非支配極の比が2倍未満)でも近似は良好に機能しており、2倍という閾値自体がどこまで必要条件なのかは本書からは確認できない。 - 支配極が複数存在する(絶対値がほぼ等しい極が複数ある)場合の近似の扱いは、本書のどの章にも明示的な議論が無い。 - 支配極近似はゼロ点の寄与が小さいことを前提とするが(ch.6 §6.3.3)、「寄与が小さい」の定量的な基準(零点と支配極の距離がどの程度離れていれば無視できるか)は、図6.15の定性的な観察以上には与えられていない。 ## 関連 - ソース: [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 6 Higher-Order Systems]] / [[@2004__Wiley__Feedback Control of Computing Systems - Chapter 3 Z-Transforms and Transfer Functions]] - 実体: [[Apache HTTP Server]] / [[IBM Lotus Domino Server]] - 概念: [[過渡応答解析]] / [[Z変換と伝達関数]] / [[制御ループの安定性とタイムラグ補償]] ## 出典 - Hellerstein, Diao, Parekh, Tilbury, *Feedback Control of Computing Systems*, IEEE Press / John Wiley & Sons, 2004, Chapter 3, §3.3.4; Chapter 6, §6.2, §6.3.