# 性能データの可視化 ## 定義 性能データの可視化は、性能評価の結果を決定者に理解させるために、線グラフ・棒グラフ・円グラフ・ヒストグラムなどのグラフィックチャートを適切に選び作成する作法を指す。分析がどれほど正しくても、その結果が決定者に伝わらなければ実施されなかったのと同じであり、図の作り方そのものが分析の価値を左右する。図表形式の選択は表示する変数の型(質的/量的、離散/連続)によって機械的に決まり、線グラフは2つの連続変数の関係にのみ使い、独立変数が離散・質的なら列/棒グラフを使う。良い図を作るための指針(読者の労力最小化・情報量最大化・インク最小化・慣習の踏襲・曖昧さの排除)、図表作成でよくある誤り(過密な情報・記号の乱用・不適切な尺度選択など)、差を誇張・隠蔽するために意図的に使われる「図によるゲーム」(原点の非ゼロ化・ダブルホイマイグラフ・信頼区間の非表示など)の3層で構成される。加えて、性能評価に特化した図法として、資源使用率の重なりを示すガントチャート、資源使用のバランスを一目で見る Kiviat グラフ、周期的な性能報告のための Schumacher チャートが提示される(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] §10.1-§10.7)。 ## 横断的知見 - **「変数の型が手法を機械的に決める」という判定規則の型は、可視化(第10章)と要約統計量の選定(第12章)の双方で独立に現れる**: 第10章は質的/量的・離散/連続という変数の型が使える図表形式(線グラフか列/棒グラフか)を一意に決めると説く。第12章の要約統計量の選定([[要約統計量の選定]])も同様に、変数がカテゴリカルか・観測の総和に物理的意味があるか・分布が歪んでいるかという型に関する問いへの答えが、最頻値・平均・中央値のいずれを使うべきかを一意に決めるとする。両章は「データをどう提示・要約するか」という異なる問題を扱いながら、いずれも変数の型による分岐という同じ設計原理に立脚しており、Jain の性能評価論全体が変数の型を出発点とする体系だてを一貫して採用していることが分かる。ただし第10章は表示形式(線か棒か)を、第12章は代表値(平均か中央値か)を決める点で対象が異なり、両者を1つの統一判定表にまとめる記述は本書のどちらの章にもない。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] §10.1, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 12 Summarizing Measured Data]] §12.2-§12.3) - **第10章の「図によるゲーム」は、第2章の「よくある誤り」の枠組みが特化した3つ目の領域である**: [[パフォーマンスのアンチメソドロジ]]で既に確認したとおり、Jain は第2章の性能評価プロジェクト全体の誤り22件を、第24章でシミュレーション固有の8+7件へ specialize している。第10章の「図表作成でよくある誤り」6件(§10.3)と「図によるゲーム」6件(§10.4)はこれと並ぶ3つ目の specialize であり、対象領域はデータ提示に絞られる。ただし第10章は§10.3(不注意による誤り)と§10.4(意図的な誇張)を明確に区別する点が第2章・第24章にはない構造的な特徴で、「誤り」と「ゲーム」を同じ列挙形式でも別カテゴリとして扱う設計は本章に固有である。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] §10.3-§10.4, [[パフォーマンスのアンチメソドロジ]]) - **第11章「Ratio Games」の図11.1(パーセンテージを用いた比率ゲーム)は、本概念が扱う「図によるゲーム」(見た目の操作)とは異なる、数値そのものの操作を可視化した図である**: 第10章の「図によるゲーム」6件(§10.4)は原点の非ゼロ化・信頼区間の非表示など、正しい数値を誤解を招く見た目で提示する技法だが、第11章の図11.1は逆に、実験ごとの個別比較(a)と2実験を合算した比較(b)という異なる集約方法によって生じる、数値そのものが逆転する現象を棒グラフで示す。両者を並べると、性能データの誤導は「正しい数値を歪んだ見た目で見せる」(第10章)と「歪んだ数値を正しい見た目で見せる」(第11章)という、作用点の異なる2つの経路で起こりうることが分かる。「ゲーム」系列全体の統一的な整理は[[パフォーマンスのアンチメソドロジ]]に集約する。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] §10.4, [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 11 Ratio Games]] §11.4) - **Jainの図表選択論は「読者への提示」を扱うが、MemAxesは「分析者自身の探索」のための可視化設計であり、静的な図の良し悪しとは異なる評価軸を要求する**: 『The Art of Computer Systems Performance Analysis』第10章は、決定者(読者)に結果を伝えるための静的なチャート(線・棒・円グラフ、ガントチャート、Kiviatグラフ)の選び方を扱い、変数の型が形式を機械的に決めると説く。一方[[@2018__TVCG__MemAxes - Visualization and Analytics for Characterizing Complex Memory Performance Behaviors]]が示すのは、分析者自身が仮説形成・検証のために対話的に探索するツールの設計であり、良さの基準は「一意に読み取れる静的な図」ではなく「視覚的・計算的スケーラビリティ」(入力データサイズが増えても視覚的煩雑さが一定に保たれること)と「複数の文脈(コード・トポロジ・全属性)をリンクして相関を発見できること」に置かれる。両者は同じ「性能データの可視化」という主題を扱いながら、想定する利用者(結果を伝えられる側 vs. 自ら探索する側)が異なるために、評価基準そのものが異なることが分かる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] §10.1-§10.2, [[@2018__TVCG__MemAxes - Visualization and Analytics for Characterizing Complex Memory Performance Behaviors]] §3 Requirements, §8 Scalability) - **MemAxesのガイド付きインタラクション(スコアリング+クラスタリング)は、Jainが指摘する「専門知識に依存した誤読」問題への、可視化設計側からの回答の一例である**: Jain第10章は良い図の指針として「読者の労力最小化」を挙げるが、これは静的な図の見せ方の工夫にとどまる。MemAxesは、既知の性能問題(平均アクセスレイテンシ・負荷不均衡)に基づき部分集合を自動スコアリングし視覚的な手がかりとして提示することで、利用者がアプリケーションやハードウェアの深い事前知識を持たなくても興味深い領域を発見できるようにする(§7 Guided Interaction)。これはJainが想定する「静的な良い図を作る」というアプローチの外側にある、「対話的な探索を自動的にガイドする」という別のアプローチであり、両者を並べることで性能データの可視化には「提示の質」と「探索の誘導」という異なる2つの課題軸があることが分かる。(Source: [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] §10.2, [[@2018__TVCG__MemAxes - Visualization and Analytics for Characterizing Complex Memory Performance Behaviors]] §7) ## 未解決の問い - 「変数の型が可視化・要約統計量の両方の選択を決める」という共通原理は、実験計画(第16〜23章)における要因・水準の型選択にも同型で拡張できるか。本ページの範囲ではまだ確認していない。 - 図によるゲーム6種(原点の非ゼロ化・ダブルホイマイグラフ・信頼区間の非表示・ピクトグラムの高さスケーリング・不適切なバケットサイズ・尺度の分断)は1991年時点の紙媒体の折れ線・棒・円グラフを前提としている。インタラクティブなダッシュボードやログスケール軸の誤用など、後年の可視化手法固有のゲームがあるかは本章の範囲外であり、他ソースでの補完が必要。 - Kiviat グラフの Merrill FOM(全軸を等価に扱う、極値を常に望ましいとみなす等の5つの既知の問題)を克服する定量指標が、本書の他章や後年の文献にあるか。 - MemAxesのガイド付きインタラクション(スコアリング指標による自動クラスタ抽出)のような「対話的探索の自動誘導」は、Jainの静的チャート選択論にどのように接続できるか。探索過程で生成される中間的な図(クラスタグリフ等)にも、Jainが指摘する「図によるゲーム」に相当する誤読リスクは生じうるか、本ページの範囲では未確認。 ## 関連 - [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 10 The Art of Data Presentation]] — 本概念の原典解説(§10.1-§10.8)。 - [[要約統計量の選定]] — 「変数の型が手法を決める」という同じ判定規則の型を要約統計量の選定に適用した姉妹概念。 - [[パフォーマンスのアンチメソドロジ]] — 第2章の「よくある誤り」の枠組みがシミュレーション(第24章)・データ提示(本章)へ specialize される系譜の集約概念。 - [[ベンチマーキング]] — ベンチマーク結果の提示でも本概念の図表選択・誤りの回避が実務上関わる。 - [[@1991__Wiley__The Art of Computer Systems Performance Analysis - Chapter 11 Ratio Games]] — 図によるゲーム(見た目の操作)と対をなす、数値の集約段階での操作(比率ゲーム)を扱う原典。図11.1はパーセンテージの比較を可視化した例。 - [[The Art of Computer Systems Performance Analysis]] — 書籍本体。 - [[@2018__TVCG__MemAxes - Visualization and Analytics for Characterizing Complex Memory Performance Behaviors]] — 静的な図表選択論とは異なる評価軸(視覚的スケーラビリティ・探索の自動誘導)を持つ対話的性能可視化ツールの原典。 ## 出典 - Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 10, §10.1-§10.8. - Raj Jain, *The Art of Computer Systems Performance Analysis*, John Wiley & Sons, 1991, Chapter 11, §11.4(図11.1). - [[@2018__TVCG__MemAxes - Visualization and Analytics for Characterizing Complex Memory Performance Behaviors]] §3, §7, §8。