# 基礎情報学
## 定義
西垣通を中心に構築されてきた学際的な情報学の基礎づけを目的とする学問領域。情報工学・応用情報科学・社会情報学をまたぐ広範な射程を持つ。マトゥラーナとヴァレラのオートポイエーシス理論を批判的に継承した「階層的自律コミュニケーション・システム」(HACS: Hierarchical Autonomous Communication System)を提唱する。(Source: [[@2018__DICOMO2018__なめらかなシステムを目指して]])
HACS の特徴:
- **特徴(1)**: 単独のシステムではなく、システムの観察と記述を行う人間と**構造的カップリング**した複合システムであること。構造的カップリングとは「異なるシステム同士が構造のレベルで接続し、互いの構造の算出を助け合う関係」。
- **特徴(2)**: 階層性をもつこと。あるシステムは同階層から見れば自律的にふるまうように見えるが、上位の階層から見れば他律的であるように見える。
- **特徴(3)**: 構造的カップリングされたシステム同士のコミュニケーションの継続発生によって、システムの安定的な維持が示される。コミュニケーションが途絶えたとき、そのシステムが維持されているとはみなされない。
西垣は「情報システムはあらかじめプログラムされた予測可能な、他律的なものに過ぎない」と繰り返す。一方、[[栗林健太郎]]らは深層学習によって情報システムがすでに概念を学習しうる存在となったことを論拠に、情報システムを他律的存在ではなく「新たな概念を認識しうる自律的な複合システム」として捉え直す視点を基礎情報学から引き出した。(Source: [[@2018__DICOMO2018__なめらかなシステムを目指して]])
## 横断的知見
- **HACS の「コミュニケーション継続」はシステムの存立条件であり、なめらかなシステムの「サービス自動提供」はコンテキスト取得の帰結である**: 両者は似て非なる概念。(Source: [[@2018__DICOMO2018__なめらかなシステムを目指して]])
- **DICOMO2025 は HACS の貢献を評価しつつも ICT 他律性の限界を再確認した**: [[@2025__DICOMO2025__なめらかなシステムと運用維持の終わらぬ未来]]は基礎情報学の HACS がなめらかなシステムの構想に「大きな進展」をもたらしたと評価する一方で、情報システムを「あらかじめプログラムされた他律的な ICT」に留める見方に限界があると改めて指摘した。この限界は栗林(2018)が既に論じたものであり、7 年を経ても解消されていない。(Source: [[@2025__DICOMO2025__なめらかなシステムと運用維持の終わらぬ未来]], [[@2018__DICOMO2018__なめらかなシステムを目指して]])
## 未解決の問い
- 西垣の「情報システムは他律的存在」という主張と、深層学習による概念学習の実現をどう整合させるか。著者らは「なめらかなシステムで解決する」と論じるが、西垣側からの反論は整理されていない。
- HACS の「コミュニケーション継続によるシステム維持」は SRE のオブザーバビリティ・フィードバックループとどのように対応づけられるか。
## 関連
- [[なめらかなシステム]] — 基礎情報学の HACS を「要求(2)の解決ヒント」として参照
- [[コンテキスト・アウェアネス]] — 基礎情報学と対置される形で「要求(1)」を担う
- [[サイバネティクス]] — オートポイエーシス理論の前段として位置づけられる生命体参照の伝統
## 出典
- [[@2018__DICOMO2018__なめらかなシステムを目指して]]
- [[@2025__DICOMO2025__なめらかなシステムと運用維持の終わらぬ未来]] — HACS への再評価と ICT 他律性の限界の再確認