# 因果発見 ## 定義 因果発見(Causal Discovery)とは、純粋な観測データ(または観測と実験の混合データ)の統計的性質を分析して、変数間の因果関係を表す有向グラフ(DAG)またはその同値類を推定する手法の総称である。介入実験が高コスト・非倫理的・不可能な場合に、観測データのみから因果構造を復元するために発展した。有向グラフィカル因果モデル(DGCM)を表現として用い、因果マルコフ仮定と因果忠実性仮定を理論的基盤とする。(Source: [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]]) 主要な4系統(Glymour+ 2019 の3系統 + Vowels+ 2022 の拡張): 1. **制約ベース手法**(PC・FCI): 条件付き独立性検定で辺を除去し、マルコフ同値類(CPDAG/PAG)を出力。疎グラフで数万変数にスケール 2. **スコアベース手法**(GES): BIC 等のスコア最適化で同値類を貪欲探索 3. **構造的非対称性の利用**(LiNGAM・ANM・PNL・IGCI): ノイズと原因の独立性の非対称性、または情報幾何的性質を利用して因果方向を同定。ペアワイズ(局所的)手法が多い。LiNGAM 系にはオリジナルの ICA-LiNGAM(Shimizu+ 2006)と、ICA に依存せず外生変数を逐次同定する DirectLiNGAM(Shimizu+ 2011)がある。後者は固定ステップ数での収束が保証され、アルゴリズムパラメータが不要である (Source: [[@2011__JMLR__DirectLiNGAM - A Direct Method for Learning a Linear Non-Gaussian Structural Equation Model]]) 4. **介入の利用**: 介入データで MEC を縮小し真のグラフを同定。ハード介入(親辺を切断)とソフト介入(条件付き分布変更)を区別 さらに、各系統は**組合せ最適化**(探索・SAT ソルバ)と**連続最適化**(勾配降下・拡張ラグランジアン)の2パラダイムに分かれる(Vowels+ 2022)。NOTEARS(Zheng+ 2018)が提案した非巡回性制約 h(A) = tr(e^{A⊙A}) − d = 0 により、組合せ的なグラフ探索が連続最適化問題に変換され、深層学習との融合が加速した。 近年は上記4系統に加え、**5. アモータイズド因果発見(因果発見基盤モデル)**が急速に発展している。人工的に構築した事前分布空間から大量の $(G, D)$ ペアを事前学習した基盤モデルで、未知の観測データから推論一発でグラフを予測する(AVICI・CauScale・TabCausal・DAG-FM 等)。詳細は [[アモータイズド因果発見]] を参照。(Source: [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]]) ## 横断的知見 - **Glymour+ 2019 と Vowels+ 2022 は補完的な視野で因果発見の全体像を照射する——前者は組合せ手法の30年の理論的蓄積を整理し、後者は連続最適化パラダイムの急速な台頭(2018–2020)を初めて体系化した**: Glymour+ 2019 がカバーする手法の大半は Vowels+ 2022 の Table 1(組合せ手法約60件)に含まれるが、Vowels+ 2022 はさらに Table 2 の連続最適化手法約30件と「因果の跳躍(Causal Leap)」の哲学的批判を加える。逆に Glymour+ 2019 が提供する生物学応用ガイドライン10項目やクラメール分解定理に基づく非ガウス性の議論は Vowels+ 2022 にはない。2 つのサーベイは異なる深度で同じ分野をカバーし、組合せ手法の理論的厳密性と連続最適化の実用的スケーラビリティという対比軸を浮かび上がらせる。(Source: [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]], [[@2022__CSUR__D'ya Like DAGs - A Survey on Structure Learning and Causal Discovery]]) - **連続最適化手法のスケーラビリティ問題は、組合せ手法と異なる瓶首から生じる——探索空間の超指数爆発ではなく非巡回性制約の行列演算の計算量(O(d³))が支配的**: 組合せ手法の困難は DAG の数が変数数に対して超指数的に増加すること(10 変数で 4×10¹⁸)にあり、条件付き独立性検定のサンプル要求や多重検定補正が実用上の制約となる。一方、連続最適化手法の瓶首は NOTEARS の行列指数関数 tr(e^{A⊙A}) の O(d³) 計算量であり、LEAST(2020)はスペクトル半径上界で O(d) に改善し 160,000 変数でスケールさせた。この対比は、組合せ手法の理論的保証(同値類の同定)と連続最適化手法の実践的スケーラビリティのトレードオフとして構造化できる。(Source: [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]], [[@2022__CSUR__D'ya Like DAGs - A Survey on Structure Learning and Causal Discovery]]) - **「因果の跳躍」問題は両サーベイに共通するが、批判の焦点が異なる**: Glymour+ 2019 は忠実性仮定の実データでの妥当性と前処理による分布歪みを懸念し、Vowels+ 2022 は因果マルコフ条件(CMC)自体が通常のマルコフ条件の再ブランディングにすぎないという哲学的批判(Dawid 2008「矢印は d 分離意味論の付帯的構成要素にすぎない」)を展開する。前者は実践的な「どの仮定が破れるか」の視点、後者は原理的な「そもそも構造から因果への推論は正当化できるか」の視点であり、両者を組み合わせることで因果発見の適用限界がより明確になる。(Source: [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]], [[@2022__CSUR__D'ya Like DAGs - A Survey on Structure Learning and Causal Discovery]]) - **DirectLiNGAM は、反復探索ベースの因果発見手法が抱える「アルゴリズムパラメータ依存性」の問題を、外生変数の逐次同定という原理で解消した——これは Glymour+ 2019 が指摘する「非ガウス性による同定可能性の優位」を、推定アルゴリズムの安定性の次元でも実証したものである**: Glymour+ 2019 は非ガウス性の利用により制約ベース手法では同定できない因果方向が同定可能になることを理論的に整理した。DirectLiNGAM はさらに、ICA-LiNGAM が抱える初期値依存性・収束の非保証・スケール依存性という実装上の問題を排除し、p 変数に対して p ステップの固定ステップ数で因果順序を確定させた。ただし計算量は $O(np^3M^2 + p^4M^3)$ と ICA-LiNGAM より大きく、Vowels+ 2022 が指摘する「スケーラビリティと理論的保証のトレードオフ」の具体例となっている。(Source: [[@2011__JMLR__DirectLiNGAM - A Direct Method for Learning a Linear Non-Gaussian Structural Equation Model]], [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]], [[@2022__CSUR__D'ya Like DAGs - A Survey on Structure Learning and Causal Discovery]]) - **DirectLiNGAM の社会学データ応用は、Glymour+ 2019 が懸念する「モデル仮定違反の実データでの影響」を具体的に例証している**: DirectLiNGAM は潜在交絡因子がないことを仮定するが、社会学の地位達成モデルでは父親の職業・教育・兄弟数の間に潜在交絡因子が存在しうる。実際、大標本($n = 1380$)にもかかわらず息子の教育→父親の教育という誤った有向辺が推定された。これは Glymour+ 2019 が述べる「忠実性仮定の実データでの妥当性」の問題と並び、因果発見手法のモデル仮定がどの程度まで緩和可能かという実践的な問いを浮き彫りにする。(Source: [[@2011__JMLR__DirectLiNGAM - A Direct Method for Learning a Linear Non-Gaussian Structural Equation Model]], [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]]) - **PCMCI+ はマイクロサービスの観測メトリクスからレイテンシグラフを発見する実用的な最有力手法であることが確認されたが、精度は「再現率>適合率」という非対称な特性を持つ**: Lohse et al. (AAAI 2025 AICT) は Robot Shop の 26 時間観測データを対象に PCMCI+・PC・FCI を比較した。マイクロサービスレベルで PCMCI+ は再現率100%・適合率55%・SHD=5 を達成した。誤辺は主に辺の向き不確定性に由来する(誤った因果的「親」を追加するが、必要な親を見落とさない)。この「再現率を優先する」特性は、因果グラフをレイテンシ再構築モデルの特徴量選択に使う場合に有利である——必要な特徴量を見落とすより余分な特徴量を含む方が、モデルが後段で対処できるためである。(Source: [[@2025__AAAI Workshop AICT__Causal Discovery for Cloud Microservice Architectures]]) - **ドメイン知識の制約化は因果発見の探索空間を劇的に削減し、実用的な実行時間(37秒)を実現する**: Lohse et al. は5つの仮定(A1: 同一サービス内エンドポイント間の呼び合いなし、A2: リクエスト数はレイテンシに直接影響しない、A3: リソース使用率上昇がレイテンシ悪化を引き起こす(逆不可)、A4: 同一サービスのエンドポイントは同一ホスト、A5: あるメトリクスはその属するサービスのレイテンシにのみ直接影響する)をグラフ探索の制約として実装した。この制約化により、全変数の組み合わせをチェックせずに済み、フル因果グラフ発見(第2段階)が37秒で完了した。Glymour+ 2019 の「ドメイン知識が探索効率を改善する」という理論的提言の実装事例として位置づけられる。(Source: [[@2025__AAAI Workshop AICT__Causal Discovery for Cloud Microservice Architectures]], [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]]) - **「コールグラフの逆向き ≠ レイテンシグラフ」という前提が観測データからの実証で確認された**: コールグラフ逆向きを真のレイテンシグラフ近似として SVR に使うと、発見したレイテンシグラフを使う SVR より一貫性に欠ける(表2の SVR vs SVR ground truth の比較)。非同期呼び出しはレイテンシに影響しないためグラフから除外されるべきだが、コールグラフ逆向きにはこの除外が含まれない。この知見は分散トレーシングの「明示的な呼び出し依存グラフ」と「実際のレイテンシ因果グラフ」の乖離を定量化した事例である。(Source: [[@2025__AAAI Workshop AICT__Causal Discovery for Cloud Microservice Architectures]]) - **障害注入の既知介入 do(v_root) を使う RCA アノテーション手法は、本概念の第4系統「介入の利用」を運用系メトリクスの ground-truth 構築に応用した実例である**: OpenRCA 2.0([[@2026__arXiv__OpenRCA 2.0 - From Outcome Labels to Causal Process Supervision]])の PAVE パイプラインは、Pearl の階層(do(x) が真の因果性を交絡と切り分けるために不可欠、[8])に依拠し、観測データのみから因果構造を推定する PC アルゴリズム等の制約ベース手法が交絡変数と高次元ノイズに弱く識別可能性の保証を欠くと明示的に批判した上で(§4.2)、既知の介入という「特権情報」を使って構造学習問題を検証問題に変換する。本 concept が整理する PC/FCI・LiNGAM・NOTEARS 系はいずれも純観測データからの構造推定であり、PAVE はこれらとは異なり **ground truth の構築(アノテーション)** に介入データを使う——エージェント自身は依然として観測データのみから後ろ向きに推論しなければならない非対称設計である点が特徴的。(Source: [[@2026__arXiv__OpenRCA 2.0 - From Outcome Labels to Causal Process Supervision]] §4.2, [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]]) - **DirectLiNGAM 系の「逐次的外生変数同定による順序決定」は、アモータイズド因果発見の最新世代(DAG-FM 等)が採用する「順序+上三角分解」アーキテクチャに、理論的正当化の系譜として再輸入されている**: DirectLiNGAM(Shimizu+ 2011)は ICA に依存せず外生変数を逐次同定して因果順序を確定するが、これは元来カーネルベース独立性検定に基づく統計的手続きである。DAG-FM(Chen+ 2026)は同じ「順序を先に決めて刈り込む」という構造をニューラルネットワークで学習可能な形にアモータイズ化し、葉ノード予測(Amortized Order Identification)と親ノード予測(Amortized Full DAG Pruning)に分解した。両者は独立に発展した手法だが、「まず順序、次に辺」という分解原理を共有する点で、古典的 FCM 手法とアモータイズド基盤モデルの設計思想が収斂していることを示す。(Source: [[@2011__JMLR__DirectLiNGAM - A Direct Method for Learning a Linear Non-Gaussian Structural Equation Model]], [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]] §4.3) - **二値イベントデータへの二変量 Granger 因果性 + 条件付き独立性トリプレット検定は、連続メトリクスを前提とする本概念の主要系統(PC・LiNGAM・NOTEARS 系)とは異なる離散データ向け実用系統として、800件超の本番インシデントで運用された**: [[@2026__arXiv__Graphical Causal Reasoning for Root Cause Analysis in Cloud Networks]](Chraim, Janzing, Evans, AWS)は、クラウドネットワークのアラーム・ワークフローイベントを1分ビンの二値時系列として扱い、(1) 制限/非制限ロジスティック回帰の尤度比検定による二変量 Granger 因果性、(2) 三変量トリプレット C_past(t)⊥⊥A_t|B_past(t) による間接リンク除去、という2段階で因果グラフを構築する。これは PCMCI+ が連続メトリクスの時間遅れ依存関係を扱う([[@2025__AAAI Workshop AICT__Causal Discovery for Cloud Microservice Architectures]])のと対照的に、**離散イベントログに対する制約ベース因果発見**の産業スケール実証例であり、KRCA が報告した「メトリクス数増加で PC/Granger の精度が急落する」問題([[@2026__ASE__KRCA - An Efficient Root Cause Analysis System in Hyper-Scale Microservice Systems via Agentic AI]])とは異なる次元削減戦略(自動化オントロジーによる意味的グループ化 + スパティオテンポラルグループ化)で 4,810 変数を 76,595 変数ペアまで削減し、76,595 ペア中 1,681 本(2.19%)の因果エッジを得た。(Source: [[@2026__arXiv__Graphical Causal Reasoning for Root Cause Analysis in Cloud Networks]]) ## 未解決の問い - **二値イベント因果発見と連続メトリクス因果発見のどちらがネットワーク RCA に適するか未比較**: [[@2026__arXiv__Graphical Causal Reasoning for Root Cause Analysis in Cloud Networks]] は二値アラームデータのみで因果グラフを構築するが、同じネットワークインシデントに対して連続メトリクス(帯域・遅延・パケットロス率等)ベースの PC/PCMCI+ を適用した場合との精度比較は行われていない。二値化による情報損失と、連続データが要求する正規性・線形性仮定のどちらが実用上のボトルネックとして支配的かは未解決。(Source: [[@2026__arXiv__Graphical Causal Reasoning for Root Cause Analysis in Cloud Networks]]) - **制約ベース手法と FCM ベース手法の実用的な組み合わせ方**: Glymour+ 2019 は両者の補完関係を指摘し、非線形 FCM で MEC 内の未方向辺を解消する手法(Zhang & Hyvärinen 2009b)に言及するが、大規模データへの体系的な組み合わせパイプラインは未確立。[[因果推論ベースRCA]] では PC + Granger + LiNGAM が個別に使われるが、段階的組み合わせの体系的評価はない - **忠実性仮定の実データでの妥当性**: 忠実性仮定が成立しない場合(ほぼ忠実性の違反)の系統的対処法は研究途上。Glymour+ 2019 は「パラメータ値の選択にコンセンサスがない」と述べるのみ - **前処理が因果発見を破壊する経路の体系化**: fMRI のハイパスフィルタが非ガウス性を除去し LiNGAM 系を無力化する事例が報告されているが、マイクロサービスメトリクスの正規化・平滑化・集約が因果探索に与える影響の体系的評価は未着手。[[因果推論ベースRCA]] の「入力設計がアルゴリズム選択より先に考慮されるべき」という横断的知見と接続する - **時間集約バイアスの定量的影響**: グレンジャー因果性が時間集約・サブサンプリングに敏感であることは示されたが、集約水準(秒→分→時間)と因果方向推定精度の定量的関係は分野ごとに異なり、統一的なガイドラインは存在しない - **NOTEARS 以降の勾配ベース因果発見のさらなる発展**: Vowels+ 2022 は 2020 年までの連続最適化手法(NOTEARS・DAG-GNN・GranDAG・GOLEM・LEAST 等約30件)を整理したが、2021 年以降の手法(DAGMA・DECI・CausalNex 等)、因果表現学習の潮流、LLM を用いた因果発見との統合は未整理 - **離散変数の因果発見**: 離散ケースでは FCM の関数クラスが未知だと方向同定が困難。変数のカーディナリティが小さいほど情報が失われる。連続変数の離散化は有効標本サイズを大幅に減少させる - **DirectLiNGAM のカーネルベース独立性測度のスケーラビリティ改善**: DirectLiNGAM の計算ボトルネックはカーネルベースの相互情報量推定(Bach and Jordan 2002)にあり、$p = 100$ で約20時間の CPU 時間を要する。より効率的な独立性測度(HSIC 等)への置き換えや、独立性検定の階層的省略による高速化の可能性がある - **LiNGAM 系手法における潜在交絡因子の検出と対処**: DirectLiNGAM は潜在交絡因子の不在を仮定するが、社会学データの実験でこの仮定違反が誤った因果辺の推定につながった。Hoyer ら(2008)の隠れ変数を含む拡張や、モデル仮定の違反を検知する統計的検定の実用的な性能評価が未着手 - **アモータイズド因果発見(因果発見基盤モデル)と古典的因果発見手法の使い分け基準**: DAG-FM 等のアモータイズド手法は事前分布空間の設計次第で理論的識別可能性保証を持つが、実世界ベンチマークは低次元($d \le 38$)に限られる。マイクロサービス規模(数百メトリクス)でのアモータイズド手法の妥当性、および PCMCI+ 等のドメイン知識制約手法との比較は未検証。詳細は [[アモータイズド因果発見]] の「未解決の問い」を参照 - **マイクロサービスのレイテンシ因果発見において「同時効果」と「時間遅れ効果」の両方を捉える必要性が実証された**: PCMCI+ は PC の同時効果処理と時間遅れ依存関係の両方に対応する。Robot Shop の実験では最大ラグ $\tau=3$(3分後までの因果依存)が自己相関プロットから決定された。時系列データを PC ではなく PCMCI+ で処理したことで辺の向き推定精度が改善した(エンドポイントレベルで PC とほぼ同等の再現率を保ちつつ辺方向を改善)。純粋な同時性のみを前提とする手法(通常の PC + 非時系列データ)と、遅延効果を考慮する PCMCI+ の差が、マイクロサービスの実データで確認された。(Source: [[@2025__AAAI Workshop AICT__Causal Discovery for Cloud Microservice Architectures]], [[@2020__IWQoS__Localizing Failure Root Causes in a Microservice through Causality Inference]]) - **時系列統計からの因果発見は「メトリクス数が増えると精度が急落する」という限界が実本番データで定量化された**: KRCA([[@2026__ASE__KRCA - An Efficient Root Cause Analysis System in Hyper-Scale Microservice Systems via Agentic AI]])の実証研究は、PC 法と Granger 因果アルゴリズムを快手本番インシデントに適用し、異常メトリクス数が5の時点で精度50%、20に増えると20%以下に急落することを確認した。この知見は [[@2024__ASE__Root Cause Analysis for Microservices based on Causal Inference - How Far Are We]](Pham+ ASE 2024)の「PC/Granger を含む多くの手法が Dummy を超えない」という観察と独立に収束する。また KRCA が採用した「スケルトングラフ」は、時系列統計ではなく**メトリクス名の意味情報と運用知識**から因果辺を事前確定するという設計であり、「辺方向推定がボトルネック」という因果発見の構造的問題への異なるアプローチとして位置づけられる。具体的には4種のメタメトリクス型(E→I/D/K、I→K/D、D→K)という方向性制約を業務知識から導き、時系列データは因果グラフの構造推定には使わず異常検知と因果リンク検証のみに使う。(Source: [[@2026__ASE__KRCA - An Efficient Root Cause Analysis System in Hyper-Scale Microservice Systems via Agentic AI]] §2.2, §3.3, Fig.2(b); [[@2024__ASE__Root Cause Analysis for Microservices based on Causal Inference - How Far Are We]]) - **PCMCI+ の産業応用で「業務知識による $\tau_{max}$ の縛り」が因果発見品質を左右する**: RADICE の実広告システム事例では、1 時間サンプリングに対し $\tau_{max} = 1$ を設定し、maxShift = 1・maxWidth = 2 もこれに揃えている。この設定は「2 時間前のメトリクス変化が現在の性能指標の原因になることはない」という業務上の知識を明示的にエンコードしたものである。時間集約バイアス(グレンジャー因果性の感度問題)と接続する問題であり、サンプリング間隔に応じた $\tau_{max}$ 選択の実用的ガイドラインが RADICE の事例から示された。(Source: [[@2025__arXiv__RADICE - Causal Graph Based Root Cause Analysis for System Performance Diagnostic]]) - **エントロピーベース方向付けは制約ベース因果発見の「無向辺問題」への産業実装事例を提供した**: 制約ベース手法(PC・PCMCI+)が返す無向辺(同時因果関係の方向不明)に対し、RADICE はエントロピー因果推論(Kocaoglu+ AAAI 2017)を組み込み、ノイズ分布のエントロピーが低い側を原因とする方向付けスコアを計算する。ただしスコアが低い場合はエッジを破棄するフォールバックが必要であり、この閾値がドメイン依存で未解決である。Glymour+ 2019 が「FCM ベース手法が MEC 内の無向辺を解消できる」と述べた理論的提言の産業的実装例として位置づけられる。(Source: [[@2025__arXiv__RADICE - Causal Graph Based Root Cause Analysis for System Performance Diagnostic]], [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]]) ## 関連 - [[アモータイズド因果発見]] — 事前学習された基盤モデルで因果グラフを推論する第5系統。本概念の理論的識別可能性条件(FCM の4族)を事前分布空間の設計に応用する - [[因果推論ベースRCA]] — 因果発見アルゴリズム(PC・FCI・Granger・LiNGAM・GES)をマイクロサービス RCA に適用する分野。本概念はその基礎理論 - [[根本原因分析]] — 障害原因特定の上位概念。因果発見はその統計的手法基盤 - [[異常検知]] — 因果発見パイプラインの前処理として組み合わされることが多い - [[グラフベースRCA]] — 発見した因果グラフをスコアリング/伝播に使う応用分野 - `structures/` 参照: 因果推論に関連する MOC があれば一方向リンクで接続 - **未解決の問い(マイクロサービスへの適用)**: PCMCI+ の「再現率優先・適合率低め」という性質は因果グラフを特徴量選択に使う場合は許容されるが、RCA の根本原因同定に使う場合(偽陽性の因果辺がスコアリングに混入する)は問題となりうる。マイクロサービスのレイテンシ因果グラフ発見において「再現率と適合率のどちらをトレードオフすべきか」の設計ガイドラインが未確立。(Source: [[@2025__AAAI Workshop AICT__Causal Discovery for Cloud Microservice Architectures]]) ## 出典 - [[@2019__Frontiers in Genetics__Review of Causal Discovery Methods Based on Graphical Models]](Glymour, Zhang, Spirtes — 30年間の因果発見手法を3系統に体系化するレビュー) - [[@2022__CSUR__D'ya Like DAGs - A Survey on Structure Learning and Causal Discovery]](Vowels, Camgoz, Bowden — 連続最適化ベース手法約30件を初めて体系化。組合せ手法約60件との横断比較。「因果の跳躍」への哲学的批判) - [[@2011__JMLR__DirectLiNGAM - A Direct Method for Learning a Linear Non-Gaussian Structural Equation Model]](Shimizu, Inazumi, Sogawa, Hyvärinen ほか — LiNGAM の直接推定法。ICA に依存せず外生変数を逐次同定し、固定ステップ数での収束を保証。事前知識の体系的組み込みを実現) - [[@2025__AAAI Workshop AICT__Causal Discovery for Cloud Microservice Architectures]](Lohse, Tsutsumi, Ba, Harsha, Subramanian, Straesser, Ruffini — PCMCI+ + ドメイン知識制約の2段階因果発見でマイクロサービスレイテンシグラフを観測データのみから発見した初の実証研究) - [[@2026__arXiv__DAG-FM - A Foundation Model for Causal Discovery under Heterogeneous Causal Mechanisms]](Chen, Guan, Qian, Cui, Yang, Kuang — 異種因果メカニズム下で識別可能な DAG を保証する因果発見基盤モデル。第5系統「アモータイズド因果発見」を本概念に追加) - [[@2026__arXiv__Graphical Causal Reasoning for Root Cause Analysis in Cloud Networks]](Chraim, Janzing, Evans, AWS — 二値イベントデータへの二変量 Granger 因果性 + 条件付き独立性トリプレット検定。オントロジー的次元削減で 4,810 変数を実用スケールへ圧縮した産業事例)