## 定義
因果効果の推定とは、ある施策(介入)Xが結果Yにもたらした効果量を、観測データから正しく求める問題である。ルービンの因果モデルでは、介入した標本を介入群、介入していない標本を対照群と呼び、各個体には介入時の結果$Y_1$と非介入時の結果$Y_0$という2つの潜在的結果変数を考える。しかし個人単位では介入の有無いずれか一方の結果しか観測できず、観測されなかった側は反実仮想(Counter Factual)として扱う。求めたいのは個人単位の効果ではなく母集団への効果であり、これを平均処置効果(Average Treatment Effect, ATE)$E(Y_1-Y_0)=E(Y_1)-E(Y_0)$として定義する。単純に「介入群の観測平均」と「対照群の観測平均」の差($E(Y_1\mid\text{介入あり})-E(Y_0\mid\text{介入なし})$)を取ると、施策X・結果Yの両方に影響する交絡因子や、結果変数に基づいて介入対象を選ぶことで生じるセレクションバイアスにより、この差はATEの定義式と一致しない。ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial, RCT)は介入の割り当てをランダム化することで介入群・対照群を同質にし、この不一致を解消する手法であり、Webサービスの効果検証ではA/Bテストとして実装される。RCTが使えない観察データに対しては、差の差法(difference in differences)のように比較対象群の時間変化を利用して反実仮想を推定する手法や、傾向スコアによるバイアス補正などが用いられる。(Source: [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 7 効果検証:機械学習にもとづいた施策の成果を判断する]] §7.2, §7.6)
因果効果の推定は「施策Xが結果Yにどれだけの効果を持つか」という効果量の定量化を目的とする点で、変数間の因果構造(有向グラフ)そのものを観測データから復元しようとする[[因果発見]]とは問いが異なる。因果発見が「何が何の原因か」を明らかにするのに対し、因果効果の推定は「既知の介入変数Xが、既知の結果変数Yに対してどれだけの効果を持つか」を定量化する。
### 個体レベルの処置効果への拡張(CATE/ITE、10章)
7章のATEは母集団全体に対して$E(Y_1-Y_0)$という1つの数字を求める問題である。10章の[[Uplift Modeling]]は、同じRCTデータ(実験群/統制群)を出発点にしながら、この効果量を個体の特徴量ベクトル$x$で条件づけた条件付き平均処置効果(Conditional Average Treatment Effect, CATE)$E(Y_1-Y_0\mid X=x)$、あるいは個体単位まで細分化した個体処置効果(Individual Treatment Effect, ITE)へと粒度を細かくする。10章の四象限のセグメント(無関心・説得可能・天邪鬼・鉄板)は、このCATEの符号(正か負か)によって対象を分類していると解釈できる。ただし10章自身は「CATE」「ITE」という用語を使っておらず、統制群モデルの予測値に対する実験群モデルの予測値の比としてUpliftスコアを構成する2モデル法は、CATEを直接推定する差ベースの手法ではなく、2つの周辺予測モデルからCATEの符号を間接的に近似する簡便な手法である。母集団単位では個人の反実仮想が観測できないという7章の制約(潜在的結果変数$Y_1$、$Y_0$のどちらか一方しか観測できない)は、個体レベルに粒度を細かくした10章のUplift Modelingでも解消されておらず、そのままの形で引き継がれている。(Source: [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 10 Uplift Modelingによるマーケティング資源の効率化]] §10.1, §10.4)
## 横断的知見
1 ソース目のため、複数ソースの突き合わせによる横断的知見は今後の蓄積に委ねる。[[因果発見]]・[[動的因果推論]]・[[介入的因果学習]]はいずれもマイクロサービスRCA(根本原因分析)というAIOps領域で「因果構造(グラフ)の学習」を主題とするのに対し、本ページはWebサービスの施策評価という領域で「既知の介入変数の効果量」を主題とする。両者はPearlの因果の梯子で言えばいずれもL2(介入)以上を扱う点で理論的な親戚関係にあるが、[[介入的因果学習]]が「障害注入という物理的介入でグラフそのものを学習する」のに対し、本ページが扱うRCT/A/Bテストは「グラフは既知(X→Y)で、その効果量を統計的に推定する」問題であり、扱う問いの階層が異なる。この対比は今後別ソースが加わった際に精査する。
- 7章はATEという母集団単位の効果量の推定にとどまるのに対し、10章は同じ構造のRCTデータを使って個体レベルの処置効果(CATE/ITE)へと粒度を細かくする。両者は「同じRCTデータから何を推定するか」という粒度の違いで接続されており、7章が明示する反実仮想の根本制約(個人単位では$Y_1$と$Y_0$のどちらか一方しか観測できない)は、10章のUplift Modelingでも解消されないまま引き継がれる。(Source: [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 7 効果検証:機械学習にもとづいた施策の成果を判断する]], [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 10 Uplift Modelingによるマーケティング資源の効率化]])
- **同じ執筆者(西林孝)が、7章では「予測を効果検証で事後的に裏づける」回路を、12章では「予測を数理最適化で事前に行動へ変換する」回路を書き分けている**: 7章は、施策(介入)を実施した後にA/Bテスト・仮説検定という統計的手続きを使って「この施策には効果があったか」を事後的に判定する回路を扱う。これに対し12章は、CTR予測・市場価格予測という2つの予測値を制約付き最適化問題(§12.2.2)に代入し、「この入札リクエストにいくら入札すべきか」という行動を都度その場で決定する回路を扱う。前者は同一著者の実務(A/Bテストの設計・運用)に基づく振り返り型の検証、後者は同一著者が実際に運用する広告配信システム(6章コラムで自身の実装に言及)に基づく先回り型の意思決定であり、「予測をどう意思決定に接続するか」という同じ問いに対し、時間軸(事後/事前)と手段(統計的検定/数理最適化)の両方が異なる2つの解法を与えている。7章のA/Bテストが要求する「2群への分割」や「テスト期間の設計」は12章のような1リクエストごとの意思決定には存在せず、逆に12章の予算制約付き最適化は7章のRCTには現れない。両者が同じ書籍・同じ著者でありながら別の解法に至る理由は、7章が扱う施策(デザイン変更等)は効果が長期・多数のユーザーに及ぶため事後比較が可能だが、12章が扱う入札判断は1リクエスト単位で完結し繰り返し回数が桁違いに多いため、事前の期待値最適化でしか対処できない、という意思決定の粒度・頻度の違いに起因すると考えられる。この対比は今後、両者を統一的に扱う枠組み(例えばOff Policy Evaluationのような回路)が他ソースに現れた際にさらに精査する。(Source: [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 7 効果検証:機械学習にもとづいた施策の成果を判断する]], [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 12 オンライン広告における機械学習]] §12.2.2)
## 未解決の問い
- 7章のA/Bテスト(事後検証)と12章の数理最適化(事前決定)という2つの回路は、どのような条件(意思決定の粒度・頻度・観測できる遅延)で使い分けるべきかの一般的な基準は、両ソースを合わせても明示的には示されていない。
- 差の差法(DID)が前提とする「比較対象群と介入群の傾向が似ている」という条件は、どのように事前に検証すべきか。本ソースは概念の紹介にとどまり、平行トレンド仮定の検証手順には立ち入らない。
- 傾向スコアによるバイアス補正・重回帰分析による観察データからの効果検証は、本ソースでは名前が挙がるのみで手法の詳細に立ち入らない。具体的な推定手順・前提条件は他ソースでの補完が必要。
- Off Policy Evaluation(OPE)は行動が離散である場合に一般化しつつあると述べられるが、連続行動(融資額の決定等)に対する評価手法はどう扱うべきか、本ソースでは触れられていない。
- 因果効果の推定(本ページ、既知の介入変数の効果量)と[[因果発見]](未知の因果構造の推定)を、同一パイプラインの中でどう接続すべきか(例えば因果発見で構造を仮説として立ててから、その一部の辺についてRCTで効果量を検証する、といった組み合わせ)は、本概念・[[因果発見]]のいずれのソースにも明示的な記述がなく未整理。
- 10章の2モデル法(統制群モデルと実験群モデルの予測値の比)はCATEの間接的な近似にとどまるが、CATEを直接推定する手法(Uplift Tree、Causal Forest等)との精度比較は本ソースに含まれない。
## 関連
- source: [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 7 効果検証:機械学習にもとづいた施策の成果を判断する]] / [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 10 Uplift Modelingによるマーケティング資源の効率化]](個体レベルの処置効果への拡張) / [[@2021__OReillyJapan__仕事ではじめる機械学習 - Chapter 12 オンライン広告における機械学習]](予測を意思決定に繋げるもう1つの回路との対比)
- concept: [[A-Bテスト]](本概念のRCTが実務上A/Bテストとして実装される) / [[統計的有意性]](A/Bテストの判定に使う仮説検定の枠組み) / [[逐次検定]](A/Bテストを継続監視する際のp値ハック問題) / [[因果発見]](問いの階層が異なる隣接概念。因果構造の推定 対 効果量の推定) / [[動的因果推論]]・[[介入的因果学習]](いずれもAIOps領域での因果構造学習。本概念とは適用領域が異なる) / [[Uplift Modeling]](母集団単位のATEを個体レベルのCATE/ITEへ拡張する手法) / [[リアルタイム入札]](事後検証ではなく数理最適化で予測を意思決定に繋げる対照的な回路)
## 出典
- 有賀康顕・中山心太・西林孝, 『仕事ではじめる機械学習 第2版』, オライリー・ジャパン, 2021, 第7章, §7.2, §7.6, 第10章, §10.1, §10.4, 第12章, §12.2.2.