# 動作原理 Navigation: [[index]] | [[overview]] ## 定義 動作原理(operational principle)は、Michael Polanyi に由来し Walter Vincenti が第7章で工学設計知識の基本設計概念(fundamental design concepts)カテゴリの中核に据える概念である。Polanyi の言葉を借りれば「デバイスの特徴的な部分が、目的を達成する総体的な操作へどう組み合わさって各自の機能を果たすか」──平たく言えば、そのデバイスがどう働くかについての知識を指す。移動する機械(航空機)であれ静的な構造物(橋)であれ、あらゆるデバイスはこの意味での動作原理を体現している。Sir George Cayley が1809年に述べた「空気の抵抗に力を加えることで、面に一定の重量を支えさせる」という定式は、揚力を推進力から切り離すという固定翼機の動作原理の古典的な例であり、当時は革命的だったが今日では当たり前(normal)になっている。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 7 The Anatomy of Engineering Design Knowledge]], p.208) 動作原理は装置全体だけでなく、その構成要素にも存在する。翼型はその形状(とくに鋭い後縁)によって迎角をつけたときに揚力を生むという動作原理を持ち、通常の尾部配置の航空機は主翼・尾翼・操縦翼面と重心の特定の配置関係によって望ましい安定性・操縦性を得るという動作原理を持つ。プロペラや沈頭リベットについても同様の記述が可能である。デバイス全体の水準でも構成要素の水準でも、設計者は動作原理を意識して通常設計に臨まなければならない。(Source: 同上, p.208) 動作原理は3つの点で工学認識論上重要な役割を果たす。第一に、成功・失敗を純粋に技術的な意味で判定する基準を与える──デバイスが動作原理どおりに働けば成功、何かが壊れたり動作原理が達成されなければ失敗と数えられる。第二に、動作原理はデバイスそのものを定義する。ある乗り物の集合が「航空機」として認められるのは(ヘリコプターのようにローターから揚力を得る乗り物と区別して)Cayley が定めた動作原理を共有しているからであり、デバイスはその経済的・その他の用途ではなく技術的な性質によって定義される。第三に、そして最も重要な点として、動作原理は科学と技術を分かつ重要な境界線を与える。動作原理は科学的知識の体系の外部で発生し、何らかの生来的に技術的な目的に奉仕するために生み出される。物理法則は動作原理が考案された後にそれを分析するのに使え、時にはその考案を助けることさえあるが、物理法則自体が動作原理を含意したり内包したりすることは決してない。Polanyi は同じ点をこう表現する──「対象としての機械についての完全な(科学的な)知識は、それが機械としてどう働くかについては何も教えてくれない」。(Source: 同上, p.208-209) **通常形態(normal configuration)**は、動作原理と対をなす第2の基本設計概念である。ある動作原理を最もよく体現するとして共通に合意された一般的な形状・配置を指す。動作原理ほど確定的な規定力ではないが、強い規定力を持つ。第3章で Gilruth のグループが飛行品質試験の対象とした多種多様な航空機の設計者たちは、自分たちの航空機が「尾部配置の単葉機(tractor monoplane with tail aft)」以外でありうるとはおそらく考えもしなかった。現代の自動車設計者の多くが特に考えることなく「4輪・前部搭載の水冷エンジン」を前提とするのも同様である。通常形態は、技術共同体がその技術の初期段階でさまざまな形態を試す経験を通じて学習しなければならない知識である。(Source: 同上, p.209-210) 共有された動作原理と通常形態が揃うことで、Edward Constant の言う **normal technology(通常技術)** ──「受け入れられた伝統の改良、またはより新しく/より厳しい条件下でのその適用」──が定義される。Durand と Lesley のプロペラ研究(第5章)は、既に確立された動作原理と受け入れられた通常形態を持つプロペラという装置の通常技術を追求した典型例である。これに対し radical technology(急進的技術)は通常形態の変化を伴い、時には動作原理そのものの変化も伴う。後者の場合、通常形態は事後的に確立されるほかなく(出発時点では分かりようがないため)、その技術は初期段階において「革命的」とすら形容されうる──Constant が自著 *The Origins of the Turbojet Revolution* にこの語を用いた所以である。急進的・革命的な変化はデバイス全体の水準でも(Constant の事例)、下位の構成要素の水準でも(Jacobs の層流翼型のアイデア)起こりうる。本書が扱う知識・知識過程は、動作原理と通常形態が本質的に固定された通常技術における設計、すなわち通常設計に限定されている。(Source: 同上, p.210) ## 横断的知見 - Paul Nightingale(2014)は Vincenti を介さず Polanyi の原著(1958, p.328)から直接、動作原理を「phenomena x can be generated using y」という形の不確実な示唆と定義し、Sir George Cayley(1809)の固定翼機の動作原理を同じ古典例として引く。Vincenti(1990)第7章の動作原理論が工学設計の実務レベル(通常設計・通常形態、成功/失敗の判定基準)に焦点を当てるのに対し、Nightingale(2014)は同じ概念を技術と科学の認識論的な違いを説明する理論的基礎(方向性の議論: 科学は既知の出発条件から未知の結果を予測するが、技術は既知の結果から未知の出発条件を見出す)として位置づける。両者を合わせると、動作原理は工学実務の水準(通常技術・急進的技術を分ける)と、科学/技術の認識論的な違いを説明する水準(なぜ物理法則が動作原理を含意しないか)の双方で機能する概念であることが分かる。動作原理の階層的適用が機能分解(functional decomposition)を通じて下位の問題解決タスクの系列を生み、これが「イノベーション過程」と呼ばれる、という Nightingale の議論は、Vincenti の設計階層(project definition から下位への降下)論と同型の構造を持つ。(Source: [[@2014__SPRU__What is Technology Six Definitions and Two Pathologies]], [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 7 The Anatomy of Engineering Design Knowledge]]) - 第6章は動作原理・通常形態という語を用いずに、記述的知識/規範的知識/暗黙知という三分法だけで工学知識を分類していた。第7章はこの三分法を保持しつつ、それとは別の軸として動作原理・通常形態を基本設計概念カテゴリの中核に据える。著者自身、第6章の三分法と第7章の6カテゴリ×7活動の対応表(表7-1)は「直交する2つの枠組み」だと明言しており(Source: ch.7, p.236)、動作原理・通常形態という概念は、記述的/規範的/暗黙知のいずれか一つには収まらない性格を持つ。事実、動作原理と通常形態は「デバイスがどうあるべきかを規定する」という点で規範的知識に近いが(Source: ch.7, p.217)、それを最初に会得する過程は明示的な言語化を経ないことが多く、暗黙知的な性格も併せ持つ。この整理は [[記述的知識と規範的知識]] の三分法だけでは工学知識の全体像を尽くせないことを示している。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 6 Design and Production - The Innovation of Flush Riveting in American Airplanes, 1930-1950]], [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 7 The Anatomy of Engineering Design Knowledge]]) - 第1章はエドウィン・レイトンに由来する「工学知識は科学から派生した応用科学ではなく自律した知識体系である」という本書全体の立場を、技術史学の史学史整理として理論的に導入していた。第7章の動作原理概念は、この立場に対する最も具体的で操作可能な裏づけを与える。動作原理が科学的知識の体系の外部で発生し、物理法則によって含意も内包もされないという Polanyi の主張は、第1章の抽象的なテーゼ「工学は応用科学以上のものである」を、個々のデバイスのレベルで検証可能な形に翻訳している。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 1 Introduction - Engineering As Knowledge]], [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 7 The Anatomy of Engineering Design Knowledge]]) ## 未解決の問い - 動作原理・通常形態の獲得過程そのもの(工学者がいつ・どのように動作原理を「暗黙のうちに」身につけるか)は、[[暗黙知]] の枠組みでどこまで説明できるか。第7章は「(操作原理と通常形態は)工学者の心の奥にあり、しばしば意識されることなく設計に持ち込まれる」と述べるにとどまり、獲得メカニズムそのものは論じていない。 - 動作原理の変化(急進的設計)を扱う本格的な理論は第8章の変異-選択モデルに委ねられている。通常設計における動作原理の「固定性」と、急進的設計における動作原理の「確立過程」はどのような連続性・非連続性を持つか。 - ソフトウェア工学において「動作原理」に相当する概念は何か。アーキテクチャパターンやデザインパターンは動作原理の候補となりうるか、それとも動作原理はハードウェアのような物理的人工物に固有の概念か([[ソフトウェア工学知識体系]] との接続は未検討)。 ## 関連 - 概念: [[工学設計知識]] — 動作原理・通常形態を含む6カテゴリの分類全体を扱うハブ concept。 - 概念: [[記述的知識と規範的知識]] / [[暗黙知]] — 第6章の三分法との「直交」関係。 - 概念: [[技術の定義]] — 動作原理を技術/科学の認識論的な違いの基礎として位置づける Nightingale(2014)の議論。 - 実体: [[Michael Polanyi]] — 動作原理の概念の出典。[[Edward Constant]] — normal technology / radical technology 概念の出典。[[Paul Nightingale]] — Polanyi に直接遡る独立した参照系列。 - ソース: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 7 The Anatomy of Engineering Design Knowledge]] / [[@2014__SPRU__What is Technology Six Definitions and Two Pathologies]] ## 出典 - Walter G. Vincenti, *What Engineers Know and How They Know It*, The Johns Hopkins University Press, 1990, Chapter 7, pp. 208-210, 217, 236. - Paul Nightingale, "What is Technology? Six Definitions and Two Pathologies", SPRU Working Paper Series, SWPS 2014-19, October 2014, §7.