# 制御体積解析 ## 定義 制御体積解析(control-volume analysis)とは、空間に固定された任意の体積(制御体積, control volume)と、それを取り囲む想像上の境界(制御面, control surface。慣例的に破線で示す)を設定し、質量・運動量・エネルギー(場合によりエントロピー)に関する物理法則を境界の出入りに対して適用することで、流体流れを伴う問題の概括的(全体的)な結果を求める体系的な解析手法である。対概念として、境界を物質が通過しない同一性を保つ物質の集合を扱う制御質量(control mass)がある。制御体積は境界条件の知識だけから結果を得られ、内部の流れの詳細や機構について何も知る必要がないという利点を持つ。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 4 A Theoretical Tool for Design - Control-Volume Analysis, 1912-1953|Chapter 4]], p.113-115) ## 理論的道具としての成立条件 Vincentiは、制御体積解析の有用性が2つの要件の同時成立に依存すると整理する。(1) 流体流れを扱う問題であること(これが基本条件であり、流れがなければ制御体積解析も存在しない)、(2) その上で、詳細でなく全体的な結果への関心があること(問題の物理や微分方程式の解法が困難な場合が典型)。この2要件が同時に満たされる場面は工学(機械・航空・土木・化学の各分野)の流れ問題に広く存在するが、物理学の問題ではまれである。物理学者は熱力学では物質の性質(相転移・常磁性など、流れを本質的に伴わない)を、流体力学では点ごとの詳細な変化を求めることが多く、いずれの理由であれ制御体積解析への需要が乏しい。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 4 A Theoretical Tool for Design - Control-Volume Analysis, 1912-1953|Chapter 4]], p.115, 129-130) 理論的道具(theoretical tool)としての制御体積解析は、以下の4段階を経て、個別問題への暗黙的なアドホック解法から設計者が使える体系化された方法へと整えられた。(Source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 4 A Theoretical Tool for Design - Control-Volume Analysis, 1912-1953|Chapter 4]], p.128) 1. **1740〜1910年 蓄積**: 非圧縮流れの個別問題([[Daniel Bernoulli]]の噴流解析(1738年)、Eulerの反動タービン(1754年)、Bordaのタンク流出口収縮(1766年)、Froudeのプロペラ運動量理論(1889年)など)への暗黙的なアドホック使用の蓄積。方法としての自覚はまだない。 2. **1910〜1945年 統合と普及**: [[Ludwig Prandtl]]によるゲッティンゲンでの体系化(1913年の用語定義、1917・1925年の適用拡張、1929/1931年のPrandtl-Tietjens講義録での厳密な一般方程式の導出)を中心に、明示的な方法論として確立・普及。 3. **1945〜1955年 一般化と完成**: [[Ascher Shapiro]]らMITの研究者による、熱力学の概念(熱エネルギー)を取り込んだ圧縮性流体への拡張。 4. **1955年〜現在 拡散**: 流体力学・工学熱力学双方の工学教育・実務への浸透。 ## 横断的知見 *(本 concept は現時点で本書第4章1ソースのみに基づく。他ソースとの突き合わせはこれから育てる。)* ## 未解決の問い - 制御体積解析の「境界条件だけを扱い内部詳細を無視することで概括的な結果を得る」という性質は、ソフトウェア工学における[[抽象化(ソフトウェア設計)]]のようなインタフェース設計の考え方とどこまで並行するのか、それとも表面的な類推に留まるのか。 - 制御体積解析は流体力学・熱力学に固有の理論的道具だが、他の工学分野(電気工学・構造工学など)には同様の「特定装置に依存しない理論的道具」がどのような形で存在するか。 - Vincentiが挙げる制御体積解析誕生の3要因(問題構造・教育上の組織化・経済性と誤り回避)は、本書の他の事例章(第2・3・5・6章)で描かれる別の理論的道具・データ収集手法の成立過程にも共通して見られるか。 ## 関連 - source: [[@1990__JohnsHopkins__What Engineers Know and How They Know It - Chapter 4 A Theoretical Tool for Design - Control-Volume Analysis, 1912-1953]] - concept: [[工学科学]] - entity: [[Ludwig Prandtl]] / [[Ascher Shapiro]] / [[Theodore von Kármán]] / [[Daniel Bernoulli]] ## 出典 - Walter G. Vincenti, *What Engineers Know and How They Know It*, The Johns Hopkins University Press, 1990, Chapter 4, pp. 112–136.