# 体系的マッピング研究
## 定義
体系的マッピング研究(Systematic Mapping Study; SMS)は、研究領域の構造を明らかにし、視覚的なカテゴリ分けによって主たる研究タイプを示す secondary study の一形態。Systematic Literature Review(SLR)が成熟分野での総括的分析に向くのに対し、SMS は**質の高い primary studies が不足する新興領域の研究構造を地図化**するのに適する。SMS は典型的に SLR より詳細度は低いが、新興分野の俯瞰には適する。([[@2019__TCC__Cloud Container Technologies - A State-of-the-Art Review]])
### 標準的な 3 ステップ
1. **計画(plan)**: ニーズの同定・研究質問の特定・プロトコル定義。
2. **実施(conduct)**: primary studies の選定・データ抽出と統合。
3. **文書化(document)**: 観察の記録・脅威の分析・報告。
各ステップは評価フェーズを伴う。Petersen ら(2008、本論文 [15] 参照)が SMS プロセスの標準を示す。
### 必須要素
- **PICO 構造**: Population・Intervention・Comparison・Outcome の 4 軸で研究範囲を定義し、検索式を導出。
- **検索式**: 複数の科学データベース(IEEE Xplore・ACM Digital Library・Science Direct・ISI Web of Science・SpringerLink・INSPEC・EI Compendex・DBLP)に対する OR/AND 結合のキーワード式。
- **包含/除外基準**: タイトル・abstract に基づくスクリーニングと、本文に基づく品質判定の 2 段階。
- **分類フレームワーク**: primary studies を分類するための再利用可能な特性化スキーム。
- **データ抽出表**: 各 primary study を分類セルに対応付けるスプレッドシート(再現性のため公開が望ましい)。
- **可視化**: 度数分布・バブルチャート・ヒートマップで時系列・コミュニティ・トピックの俯瞰を提示。
## 横断的知見
- **新興分野では SMS が SLR より適合する**: Pahl ら(IEEE TCC 2019)は、2007-2016 年のクラウドコンテナオーケストレーション領域に対して、質の高い primary studies が不足する現状を理由に SMS を選択した。SLR は成熟分野の総括に適するが、評価研究・検証研究が少なく解決策提案中心の形成期分野では、研究タイプの構造化(SMS)の方が情報価値が高い。(Source: [[@2019__TCC__Cloud Container Technologies - A State-of-the-Art Review]])
- **検索バイアスの回避と検索努力のトレードオフ**: コンテナオーケストレーション領域はソフトウェア工学・分散システム・OS・情報システム・クラウドの複数コミュニティに跨り、用語が異なる。これを反映して広範な検索式を用いるとノイズが多くなり、手動スクリーニングのコストが大きくなる。SMS の品質は「広範な検索」と「効率的なスクリーニング」のバランスに依存する。(Source: [[@2019__TCC__Cloud Container Technologies - A State-of-the-Art Review]])
- **業界文献の取り込みは SMS の盲点**: Pahl ら(IEEE TCC 2019)は SMS が peer-reviewed 文献を対象とするため、業界の白書・ブログを体系的に取り込めない点を Threats to the Relevance として明示する。コンテナのように業界実践から技術革新が生まれる領域では、補完的に technology review・cloud-native blog を参照する必要がある。これは「体系性」と「現実の追従」のトレードオフを示す典型例。(Source: [[@2019__TCC__Cloud Container Technologies - A State-of-the-Art Review]])
## 未解決の問い
- 業界白書・ブログ・公式ドキュメントを SMS に体系的に取り込む手法はあるか。grey literature review の手法(Garousi ら 2019 など)を SMS と統合した先行事例の有効性は。
- 分類フレームワークの外部専門家検証(本論文では 5 名・3 機関・3 か国)の十分性をどう評価するか。inter-rater reliability の指標(Cohen's kappa 等)が SMS に適用された事例は。
- SMS の生データ(分類スプレッドシート)の公開が再現性に寄与する程度はどれくらいか。本論文は `inf.unibz.it/~cpahl/CCT/` でデータ公開したが、追跡調査やメタ研究での再利用は限定的に見える。
- AI 支援(LLM による論文スクリーニング・分類)を SMS に組み込む方法論はどう設計するか。バイアスの導入と効率化の境界は。
## 関連
- ソース: [[@2019__TCC__Cloud Container Technologies - A State-of-the-Art Review]]
- 概念: [[コンテナオーケストレーション]]
- エンティティ: [[Claus Pahl]] / [[Antonio Brogi]] / [[Jacopo Soldani]] / [[Pooyan Jamshidi]]
## 出典
- [[@2019__TCC__Cloud Container Technologies - A State-of-the-Art Review]](§3 Research Methodology・§5.4 Threats to Validity)