# プランニングポーカー ## 定義 プランニングポーカーとは、専門家の意見・対比(三角測量)・分割の3つの見積り技法を組み合わせ、チーム全員参加で楽しみながら迅速かつ信頼できる見積りを出す手法である。参加者はチームの開発者全員(プログラマ・テスター・データベースエンジニア・アナリスト・ユーザーインターフェイス・デザイナなどすべての担当者を含む)であり、プロダクトオーナーは参加はするが見積りそのものには関与しない。参加人数が10名を超える場合は、チームを2つに分割して独立に見積もったほうがよい。原案者は James Grenning(2002年発表)である。(Source: ch.6 §4) ## 手順 1. 見積り担当者全員に、チームで使用できる見積りポイントが1枚に1つずつ書かれた一組のカードを配る。例として原本が挙げるのは「0、1、2、3、5、8、13、20、40、100」という10枚のカードである。カードは事前に準備し、数字はテーブル越しでも読める大きさにする。次回セッション用に使い回してよい。(Source: ch.6 §4) 2. 進行役(プロダクトオーナーかアナリストが多いが誰でもよく、特別な権限はない)が、見積り対象のユーザーストーリーやテーマを1つずつ読み上げる。プロダクトオーナーは見積り担当者からの質問に回答する。(Source: ch.6 §4) 3. 質疑応答が終わったら、見積り担当者はそれぞれ自分の見積りポイントのカードを選ぶ。選んだカードは全員が選び終えるまで他人に見せない。全員が選び終えたら「せーの」の合図で一斉にオープンする。(Source: ch.6 §4) 4. 見積りが割れるのは歓迎すべきことであり、見解の相違から学ぶ機会と捉える。高い見積りを出した担当者と低い見積りを出した担当者に、それぞれの根拠を説明してもらう(非難する口調にならないよう注意する)。議論は数分程度にとどめる。(Source: ch.6 §4) 5. 議論後、見積り担当者は再びカードを選び直し(このときも互いに見えないようにする)、一斉にオープンする。多くの場合、見積りは第2ラウンドで収束する。収束しなければ3〜4の手順を繰り返す。4ラウンド以上になることは稀である。全員が同じカードを選ぶことは必須ではなく、たとえば4名が「5、5、5、3」を選んだ場合、進行役は最も低い見積りを出した担当者に5ポイントでよいか確認する程度でよい。ゴールは絶対的な精度ではなく、妥当な労力に見合った妥当な結果への合意である。(Source: ch.6 §4) 議論を長引かせない工夫として、2分計の砂時計をテーブルの中央に置き、議論中は誰でも使ってよいというルールがある。砂が尽きたら(2分経過したら)次のラウンドに進む。合意に至らなければ議論を続けてよいが、その際は再び砂時計を使い、次の議論も2分に制限する。1回の議論で砂時計が2回以上使われることは稀である。(Source: ch.6 §4) ### 小規模なセッション チーム全員ではなく一部のメンバーだけでおこなうこともできる。理想はチーム全員参加だが、見積もるべき項目が多すぎる新規プロジェクトの開始段階などでは、大規模なチームを2〜3チームに分割したほうがよい場合がある。各チームには少なくとも3名の見積り担当者を置く。分割後のチーム間で見積りの一貫性を保つため、最初に1時間ほどかけて全チーム合同で10〜12ストーリーを見積もり、これをチームごとの見積りのベースラインとする。(Source: ch.6 §4-1) ### 実施のタイミング タイミングは2種類ある。(1) プロジェクト開始前か最初のイテレーションで、多数のストーリーやテーマをまとめて見積もる場合(1〜3時間のミーティングを2〜3回実施することもある)。(2) イテレーション途中で新しいストーリーが見つかった場合。後者への対処法としては、各イテレーション終盤に短い見積りミーティングを計画に組み込む方法や、ケント・ベックが提案した「新規ストーリー用の封筒を壁に留めておき、手が空いたら1〜2件を抜き出して見積もる」方法がある。封筒方式を採る場合も、単独ではなく手の空いている誰かと2人で見積もるとよい。(Source: ch.6 §4-2) ## 他の見積り技法との位置づけ 原本が挙げる見積り技法は専門家の意見・対比・分割の3つであり、プランニングポーカーはこれらを組み合わせたものと位置づけられる。(Source: ch.6 §3) - **専門家の意見**: 見積り対象の所要時間や作業量を専門家にたずね、専門家が勘や印象で見積りを出す技法。時間がかからない点が長所で、分析的な手法より正確だとする研究もある。ただしアジャイルプロジェクトのフィーチャ開発には1人ではまかないきれない多様なスキルが必要になるため、単独ではあまり役に立たない。(Source: ch.6 §3-1) - **対比(三角測量)**: 特定の基準やベースラインではなく、既に見積もった複数のストーリーと比較して見積もる技法。絶対的な大きさによる見積りより正確になるという研究結果がある。(Source: ch.6 §3-2) - **分割**: 1つの大きなストーリーやフィーチャを見積もりやすい大きさに小さく分ける技法。分割しすぎると見落としのリスクが増え、個々の見積り幅の合計をとると全体の見積り幅がかえって広くなる問題がある。(Source: ch.6 §3-3) プランニングポーカーはこの3つを組み合わせることで、専門家の意見(参加者が自分の専門知識にもとづき勘で見積もる)・対比(手元のカードの値同士やこれまでのストーリーとの比較)・分割(議論の中でタスクへの分解が自然に話題になる)の利点を一度に引き出す。(Source: ch.6 §4) ## 横断的知見 - 6章が推奨する見積りスケール「1、2、3、5、8」は、プランニングポーカーの標準カードセット「0、1、2、3、5、8、13、20、40、100」の一部にすぎない。23章のケーススタディでは、実際にカルロスが配ったプランニングポーカー用カードは「1, 2, 3, 5, 8」の5枚のみであり、6章が示す10枚のフルセットではなく、近い将来に着手する小さめのストーリー向けの縮小レンジ(6章§2-1が推奨する範囲)がそのまま実務のカードセットとして採用されていた。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 6 見積りの技法]] §4, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]] p.274-276) - 6章が説明する「見積りが割れたら根拠を説明してもらい、再度カードを選び直す」という収束の手順は、23章のケーススタディでも同じ形で再現されている。カルロスのチームは最初のストーリーで見積りが5から1へ収束しており、6章が述べる「多くの場合、見積りは第2ラウンドで収束する」という主張と整合する実例になっている。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 6 見積りの技法]] §4, [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]] p.274-276) ## プランニングポーカーが有効な理由 原本は4つの理由を挙げる。(Source: ch.6 §5) 1. **職能横断チームによる見積り**: プランニングポーカーの参加者は、ソフトウェアプロジェクトに必要なあらゆる分野から集められた職能横断型チーム(cross-functional team)であり、タスクの見積りをおこなうのに他の誰よりもふさわしい。ヨルゲンセンはソフトウェアの見積りについての文献を徹底的にレビューした後、「タスクを担当する人々こそが、見積りをおこなうべき人物としてもっとも適任である」と結論づけている(Magne Jorgensen, 2004, A Review of Studies on Expert Estimation of Software Development Effort, Journal of Systems and Software)。 2. **活発な対話**: 見積り担当者は同僚から自分の見積り根拠の説明を求められる。これには見積り精度を改善する効果があり、とりわけ不確実性の大きい項目に対して有効である(R. Hagafors and B. Brehmer, 1983, Organizational Behavior and Human Performance 31: 223-232)。説明を求めることで情報不足を補ったよりよい見積りになるという効果もある(Lyle A. Brenner, Derek J. Koehler, Amos Tversky, 1996, Journal of Behavioral Decision Making 9: 59-70)。アジャイルプロジェクトではユーザーストーリーに意図的に曖昧さを含めることが多いため、この効果は重要である。 3. **個人の見積りの平均化**: 個人の見積りを平均したほうがよりよい結果を残す傾向があるという研究成果がある(Martin Hoest and Claes Wohlin, 1998, An Experimental Study of Individual Subjective Effort Estimations and Combinations of the Estimates)。グループで話し合って見積もるとよい結果になるのもこれと同じ効果であり(Magne Jorgensen and Kjetil Molokken, 2002, Fourteenth IEEE Conference on Software Engineering and Knowledge Engineering)、議論を通じて個々人の見積りがならされていく。 4. **楽しさ**: プランニングポーカーがうまくいく最後の理由は、単純にそれが楽しいからである。 この4つの理由は、章冒頭で示される労力/正確性曲線(図6.1、10%の労力が50%の潜在的な正確さの向上をもたらすという関係)を前提としている。プランニングポーカーのゴールは今後絶対に問題が発生しない精緻な見積りを出すことではなく、労力/正確性曲線の左寄りの点、つまり低コストで価値のある見積りに到達することにある。(Source: ch.6 §4, p.072) ## 未解決の問い - 6章§4-1は「3ストーリーポイント(あるいは理想日)」という表現で、プランニングポーカーの手順が理想日による見積りにもそのまま適用できることを示唆しているが、理想日固有の前提(オーバーヘッドを無視するという前提)がプランニングポーカーの議論内容にどう影響するかまでは述べられていない。 - 標準カードセット(0、1、2、3、5、8、13、20、40、100)と、実務(23章)で使われた縮小版カードセット(1、2、3、5、8)の使い分けの基準は、原本に明示されていない。着手が近いストーリーには縮小版、エピック・テーマの見積りにはフルセットを使うという運用が想定されるが、この対応関係自体は原本に明言されていない。 - 参加人数が10名を超えたときにチームを分割するとされているが、分割後のチーム間ですり合わせをおこなう頻度や、プロジェクトが進むにつれて再統合すべきかどうかは、本章では扱われていない。 ## 関連 - 概念: [[ストーリーポイント]] / [[理想日]] - ソース: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 6 見積りの技法]] / [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 23 ケーススタディ ボムシェルタースタジオ]] - 実体: [[Mike Cohn]] / [[Kent Beck]] - 書籍: [[wiki/entities/アジャイルな見積りと計画づくり|アジャイルな見積りと計画づくり]] ## 出典 - Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 6章, 23章.