# フィーチャの優先順位づけ
## 定義
フィーチャの優先順位づけとは、アジャイルプロジェクトにおいて、開発対象となるフィーチャ(またはそれらをまとめた「テーマ」)の実施順序を決める活動である。優先順位を付ける責任はプロダクトオーナーが負うが、その判断はチーム全体で共有される。個々の小さなストーリー単位では価値を見積もりにくいという問題があるため、複数のストーリー/フィーチャをまとめ、それ自体がユーザー価値または顧客価値を提供する単位である「テーマ」を優先順位づけの対象とすることが多い。判断は単一の指標では決まらず、(1) フィーチャの金銭価値、(2) 開発(場合によってはサポートを含む)にかかるコスト、(3) 開発を通じて得られる新しい知識の量とその意義、(4) 開発によって低減できるリスク、という4つの要素を組み合わせておこなう。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]] §1)
このうち金銭価値とコストは、ほとんどのプロジェクトの目的が費用の節約か収益の増大であることから最も重視されるが、新しい知識の獲得とリスクの低減も最適な優先順位づけには欠かせない要素として位置づけられる。実務上の進め方としては、まず価値とコストの比較から暫定的な優先順位を決め、そのあとで新しい知識とリスクの観点から順位を調整するという2段階が示されている。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]] §2)
リスクと価値という2つの要素については、どちらか一方だけを重視せず、両者を四象限(高リスク・高価値/低リスク・高価値/低リスク・低価値/高リスク・低価値)に分類したうえで、価値が高くリスクも高いフィーチャを最優先に、価値が高くリスクが低いフィーチャを次に、価値もリスクも低いフィーチャを最後に開発し、価値が低くリスクだけが高いフィーチャは開発しない、という順序づけの指針が示される。ただしリスクと価値はいずれも時間とともに変化しうる。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]] §1-4)
## 横断的知見
- 現時点では9章のみを取り込み済みであり、複数ソースの突き合わせによる横断的な観察はまだ蓄積されていない。10章(金銭価値による優先順位づけ: NPV・IRR・回収期間)、11章(狩野モデルによる「望ましさ」の評価)、12章(大きなストーリーの分割)が取り込まれ次第、各手法が本ページの4要素の枠組みのどこに対応するのかを横断的に整理する。
- 9章は金銭価値をフィーチャ優先順位づけの4要素の1つとして位置づけるが、金銭価値をどう定量化するかの具体的な算出手順までは示していない。10章が示す収益源の4分類(新しい収益・増加する収益・維持できる収益・業務の効率化)とNPV・IRR・回収期間・割引回収期間による比較は、9章の枠組みにおける「金銭価値」という1つの軸を数値化するための下位技法にあたる。裏を返せば、10章の指標群は4要素のうち金銭価値のみを扱い、9章が同格に並べる「新しい知識の獲得」「リスクの低減」を金額換算する方法は示されていない。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]])
- 9章のリスク・価値四象限分類は「高/低」という相対的な二値評価で優先順位を決めるのに対し、10章のNPV・IRRはテーマの価値を金額とパーセンテージで連続的に算出する。両章を並べると、9章が4要素を統合する上位の意思決定プロセス、10章がそのうち金銭価値という1要素を精密化する下位の計算手続き、という階層関係が見えてくる。10章自身も単一の金銭指標だけでは優先順位が決まらないことを示しており(NPVとROIと割引回収期間が同一テーマ群で異なる順位を導く例、表10.15)、この点は9章が「価値とコストの比較で暫定順位を決め、新しい知識とリスクで調整する」という2段階の判断を要求する構造と相似している。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]])
- 9章が挙げる4要素のうち、10章はNPV・IRR・回収期間という手法で「金銭価値」を金額として定量化する経路を与えるが、これは将来収益を予測できるフィーチャにしか適用できない。11章の狩野モデルと相対的重み付けは、金銭に換算しにくい(あるいは換算する意味が薄い)「望ましさ」という別の軸でフィーチャを順位づけする経路であり、10章とは競合するのではなく、9章の4要素のうち金銭価値で扱いきれない部分を補う関係にある。ただし11章の2手法は「望ましさ」を定量化するのみで、9章がいう「新しい知識の獲得」や「リスクの低減」を直接扱ってはいない。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]])
- 10章の金銭価値算出と11章の2手法は、いずれも「人間の判断を数値に変換する」という共通構造を持つが、判断の主体と対象が異なる。10章のNPV・IRR算出は将来の収益・コストという客観的(予測に基づく)数値をアナリストやプロジェクトチームが見積もるのに対し、11章の狩野モデルは20〜30人規模の一般ユーザーの主観的な満足度をアンケートで集約し、相対的重み付けはプロダクトオーナー主導の専門家チームの主観的判断を1〜9のスケールに落とし込む。金銭に換算しにくいフィーチャを順位づけたいとき、判断主体を「エンドユーザー集団」にするか「開発チーム内の専門家」にするかという選択が、狩野モデルと相対的重み付けのどちらを採るかを分ける軸になっている。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]])
- 10章の収益分類(新しい収益・増加する収益・維持できる収益・業務の効率化)と、11章の狩野モデルが述べる「フィーチャは時間とともに魅力的→線形→当たり前へと下降する」という性質は、いずれも「フィーチャの価値は静的ではなく時間で変化する」という同じ認識を異なる角度から捉えている。10章では収益源のカテゴリが新規から維持へと移り変わる収益予測の文脈で、11章では顧客満足度への貢献度が下降する文脈で、それぞれ時間依存性を扱っている。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]])
- 9章・11章の優先順位づけ手法(価値とコストの比較、価値%÷コスト%)は、いずれも対象となるストーリー/フィーチャに個別のコスト見積りが付いていることを前提にしている。12章§1が挙げる例(カスタマサービス担当向け機能の70ポイント見積り)は、この前提が崩れる場合を示す。大きなエピックのまま1つの見積りしか持たないと、「機能全体を作るか作らないか」という1つの合否判断にしか使えず、機能の一部だけを残す・削るといった細粒度の優先順位づけができない。見積りが意思決定のギリギリの大きさだった場合に初めて、プロダクトオーナーは大きなストーリーを分割して個別に見積もり直す想定が示されており、分割は9章・11章の優先順位づけ手法をサブストーリー単位で適用するための前提条件として機能する。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 12 ユーザーストーリーの分割]] §1)
- 12章§6は「大きなストーリーを分割する場合には、サブストーリーの優先度に沿って分割すること」というガイドラインを示す。これは9章・11章とは逆方向の関係にある。9章・11章はどのフィーチャ/テーマを先に開発するかを決める優先順位づけ手法そのものだが、12章§6は「サブストーリー間で優先度が異なることが分かっている」ことを分割の判断材料として使う。つまり優先順位づけと分割は一方通行の前提関係ではなく、(a) 粗い優先順位の見立てが分割の切り口を決め、(b) 分割によって生まれた細かいストーリーに9章・11章の手法を再適用してさらに精緻な優先順位を得る、という双方向の関係になっている。(Source: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]], [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 12 ユーザーストーリーの分割]] §6)
## 未解決の問い
- 金銭価値・コスト・新しい知識・リスクという4要素を定量的に統合する具体的な計算手順はどのようなものか。10章の金銭価値算出手法(NPV・IRR・回収期間)の取り込みで明らかになったのは金銭価値1要素の定量化手順のみであり、これを新しい知識・リスクと統合する計算手順は依然として未解決である。
- 金銭価値の指標間(NPV・IRR・回収期間・割引回収期間)で優先順位の結論が割れる場合(10章の表10.15)、9章のリスク・価値四象限による定性的判断とどう組み合わせて最終順位を決定すべきか。
- 11章の取り込みにより、金銭価値による優先順位づけ(10章)と「望ましさ」による優先順位づけ(11章の狩野モデル・相対的重み付け)という2つの経路があることは明らかになったが、同一のフィーチャ群に両方を適用して結論が矛盾した場合にどちらを優先すべきかの調整ルールは原本に示されていない。狩野モデルと相対的重み付けのどちらを選ぶかも、11章は読者への問いとして投げているのみで明確な基準を示していない(詳細は [[狩野モデル]]・[[相対的重み付け]] の「未解決の問い」を参照)。
- リスクと価値の四象限による優先順位づけと、新しい知識の獲得(プロダクトナレッジ/プロジェクトナレッジの区別)は、独立した軸として扱うべきか、それとも一部重複する軸として扱うべきか。
- 12章の取り込みにより「分割は優先順位づけの前提条件になりうる」ことは分かったが、いつ分割してから優先順位を付け直すべきか(見積りのどの程度の粗さで意思決定に足りるか)の定量的な基準は原本に示されていない。詳細は [[ユーザーストーリーの分割]] の「未解決の問い」を参照。
## 関連
- 章: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 9 テーマの優先順位づけ]]
- 書籍: [[wiki/entities/アジャイルな見積りと計画づくり|アジャイルな見積りと計画づくり]]
- 実体: [[Alexander Laufer]](不確実性の分類の出典) / [[Tom Gilb]](「おいしいところ」の出典)
- 章: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 10 金銭価値による優先順位づけ]](4要素のうち金銭価値の定量化手順)
- 章: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 11 「望ましさ」による優先順位づけ]](金銭に換算しにくいフィーチャの優先順位づけ)
- 章: [[@2009__Mynavi__アジャイルな見積りと計画づくり - Chapter 12 ユーザーストーリーの分割]](分割によって優先順位づけが可能になる関係)
- 概念: [[金銭価値による優先順位づけ]] / [[狩野モデル]] / [[相対的重み付け]] / [[ユーザーストーリーの分割]]
## 出典
- Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 9章.
- Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 10章.
- Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 11章.
- Mike Cohn 著, 安井力・角谷信太郎 監訳, 『アジャイルな見積りと計画づくり』, マイナビ, 2009, 12章.